与えられた能力
二人は
(ボク、ホヅミんといない方が良いのかな)
カラナは自身を狙ってきたのだ。自分のせいでホヅミまでも危険に巻き込んでしまっている。そう考える中、リリィはホヅミの太ももに切り傷を発見した。
「
小さな声で唱えると、優しげな緑色の光がホヅミの太ももの切り傷を癒していく。そしてその傷を想うと、ますます自分とホヅミが隣り合わせに歩く事が間違っている様に感じてしまう。
「はぁ」
リリィは焚き火に視線を落とす。ふとその火の中には過去の記憶が浮かび上がっていた。そこには元気にはしゃぐリリィがいて、塾の生徒達と村中で追いかけっこ。時には
「ママ」
リリィはつい眠りについてしまった。
「……きて」
リリィはまだ夢の中にいた。とてもとても幸せな夢。
「……て」
ずっとこうしていたい。ずっとずっと、楽しく毎日を暮らせていたら、どんなに良かっただろう。
「起きて」
優しい光がリリィの瞼の
「はっ!?」
リリィは飛び起きた。うっかり見張りをすっぽかして眠ってしまっていた。しかしホヅミの全身や周囲を見渡したところ、何も被害には遭っていないようで
「リリィ、おはよ」
「おはようホヅミん! 今日もいい天気だね!」
リリィは明るく返した。
それからリリィは食料を取りに出かける。特に焚き火を作る用事もないのでホヅミも行きたがると、リリィは
「ほらあそこ」
「あんな高い所に木の実が」
リリィに指された箇所を見上げると、木の実がなっていた。数メートルは高い所に位置している。さすがに魔法を使って取るのは威力調整が難しいのではないかと魔法初心者のホヅミは考える。
「じゃあ採ってくるね! よいしょっ、よいしょっ、よいしょっ」
驚く事にリリィは木を素で登り始めた。以前素手で魚を捕まえてきた時から思っていたのだが、リリィの性質はとても野生的だった。そんな事を言えばリリィに怒られるのかもしれない。黙ってリリィを見守るホヅミ。
「下に落とすから受け止めてくれる?」
「うん! 分かった!」
一つ、二つ、三つと木の実を落とすと、リリィは木の上から飛び降りた。
「きゃあっ!? 」
「ん? どうしたの?」
リリィはパンパンと服についた汚れを叩いては平然と振舞っている。どこも痛そうにしていない所を見ると、リリィにとっては数メートルの高さから飛び降りるなど普通の事のようだ。
「ボクもお腹あんまり空いてないし、ホヅミんも昨日あんまり食べてなかったからこれだけにしたよ?」
「え?うん、大丈夫。ありがとう」
ホヅミは
朝食を済ますと、さっそくニト町までの街道に足を踏み入れる。今でもシュウと歩いた旅路を思い出しては比べるホヅミ。いくら近道とはいえ、舗装されている所とそうでないところでは道の険しさや魔物の出現率が違い過ぎだ。今歩いている道の方が断然に安全である。
「ホヅミん見て! あそこに看板立ってる!」
「昨日見た
「まさかぁ」
昨日見たものと似たような分かれ道に、リリィの言う看板があった。近くまで来て読んでみると、左に行くとニト町、右に行くとソウハイ山と表記されている。
「良かったぁ。ちゃんと前に進んでたんだよ、ボク達」
リリィは
途中とある魔物が一匹現れた。イノブーという黒い猪の魔物だ。いつもの様にリリィが前に出るが、倒した経験のある魔物で自信があったのかリリィに話してホヅミが
「
「ぶひぃっ!?」
一撃で
「凄い凄い!」
パチパチパチ。リリィは自然に素直に拍手していた。
それから弱めな魔物が何体か襲ってきたのだが、調子づいたホヅミは積極的に魔物との戦いを買って出る。何度も何度も風魔法を唱えては徐々に魔法の発動を体で慣れていくホヅミ。途中リリィが他に使える魔法はないのかと聞いてきたが、あとは身を躱すために使用する基本の
「ありがとうリリィ!」
それから二人は林の街道を抜けると、見渡す限りの大草原を目にする。先に見えるのはニト町。ようやくといったところでホヅミは背伸びをする。
「リリィ! 早くぅ!」
「待ってよホヅミん!」
いつの間にか走り出していたホヅミ。リリィも嬉しくなってホヅミを追いかける。そして二人はニト町の手前まで着いた。
「ああーっ!!」
突然ホヅミは足を止めて叫び声を上げた。
「ホヅミん?」
ホヅミは大切な事を忘れてしまっていた。リリィは魔物と人間のハーフで、結界に入れるか入れないかもはっきりしていないのだ。
(思い出した、リリィは結界に弾かれるかもしれないんだ!)
リリィは不審に思うが素通りする。そもそもホヅミがリリィは魔物と人間のハーフであると知れたのは
「
リリィは自身に薄い魔法壁を張る。その魔法にはホヅミは覚えがあって、まだ何のための魔法か分からなかった。するとリリィはどんどん前へと進んでいく。
「ホヅミん! 何してるの! 早く行こ!」
焦るホヅミを置いてけぼりにリリィは町に足を踏み入れていた。それにホヅミは胸を撫で下ろす。
ホヅミ以上にリリィの方がリリィ自身の体について詳しいはず。何も
「ねぇ、さっきのぺらぺらーって?」
歩きざまにまだ結界に入っていないのかもしれないと警戒しながら、リリィに使用した魔法について
「え? 何でもないよ。ただのおまじない」
リリィに上手く茶化された様にホヅミは感じる。疑念を抱きながらもホヅミは、リリィと共に町に入りまず
「すみません、この町の
「ここを真っ直ぐ行くと突き当たりにあるよ」
リリィが聞いたおじさんは
入口から真っ直ぐ突き当たり。とても分かりやすい場所にある。それだけ
(あれ? やっぱり、たまたま結界にかからなかったのかな? それともさっきのぺらぺら何とかが?)
ホヅミは
「ここがニト町の
ニト町の
「へぇ〜ここが
屋内は教室が約三個分の面積といったところで、二階への吹き抜けが続いている。入口からの真正面には、カウンター越しに二人の受付嬢が立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。本日は依頼をお探しですか?」
左の受付嬢は言う。
「今日は私とこっちの友達の能力照会をしたいです」
「ん? ホヅミんはもう見たんじゃないの?」
またもや
「えっと……ほら、入れ替わりのとこしか見てなくて……他のはうっかり見落としちゃったっていうか……何ていうか」
「??」
「受付嬢さん、お願いします!」
リリィは腑に落ちない様子で首を
「かしこまりました。それではお二方の髪の毛を一本
プツン。王都と同じようにニト町の受付嬢の髪の毛を抜き取る動作がとてつもなく速く、呆れるホヅミに何もされていないのにと頭に刺激が走って驚くリリィ。
「これをお手に」
ホヅミとリリィは掌を出して、その上に受付嬢が髪の毛をそっと乗せる。
「
ホヅミにはホヅミ自身の能力が、リリィにはリリィの能力が表示された。
(やっぱり! 入れ替わりって私の能力だ!)
ホヅミの固有能力には入れ替わりと表記されていた。その他にも使用可能魔法には風、氷、回復とあり、何より回復魔法はリリィの助けになれると喜ぶホヅミ。
「ねぇねぇリリィ! 固有魔法
固有魔法については
「!?」
称号、その
(ちょっと待って、もしかして勇者って日本から来た人から選別されてる?)
その一つの
(ていうか私勇者なの? 何で勇者? 勇者って何するの? 魔王とか倒さなくちゃいけないわけ? そもそも何で私なのぉ!?)
心で
「リリィ、リリィってば」
「えっ!?」
自身の名を呼ぶ声にリリィはぎょっと我に返り、ホヅミへと顔を向ける。
「大丈夫?」
額から汗を流すリリィをホヅミは気遣う。
「だ、大丈夫大丈夫! ちょっとびっくりしちゃったんだよ! やっぱりボクって天才! 何でも出来ちゃうみたい!」
慌てる手振りでホヅミの心配を取り払う。
それから二人は今後の生活をどうするかの談義を始める。ホヅミは
「やっぱりここは
燃えるリリィ。そして先ほど勇者通告を受けたホヅミは結局そうなるのかとその必然性に
二人は再び受付嬢の元へと赴いた。
「ボク達、
意気盛んに申し出るリリィ。その隣ではホヅミが元気のなさそうにどんよりとしている。
「かしこまりました。では
と受付嬢に差し出された紙と羽根ペン。
「ホヅミん!
自身の名前をさっさと書いて、もう一枚の用紙をほらほらとホヅミに手渡す。ホヅミは気乗りしないながらも渡された羽根ペンで署名した。驚いた事に書こうとする文字が勝手に異国の文字になっていく。これも異世界仕様なのか。
「ホヅミ……ミキ……」
本来ならば家名は後に書くものなのだが、家名を先頭にした。もちろん名前は女の子の方。ここは日本でない、異世界だ。別にどんな名前を書いたって誰から文句を言われる事はない。
「あれ? 家名がミキっていうの? 何か家名の方が名前っぽいね」
ズコー!
横から
「ではこちらをお受け取りください。これは昇級メダルといって、初級の方は石から始めていただきます」
起き上がったホヅミとリリィにそれぞれ渡されたのは丸く圧延(あつえん)された小さな石。
「順に、石、銅、銀、金、白金、ミスリル、アダマント、そして最上級のオリハルコン。硬貨と間違え安いので、取り扱いにはご注意を」
「依頼はどこで受ければいいですか?」
「依頼書があちらの掲示板にて張り出してございます。依頼の難易度は昇級メダルに肖(あやか)って、受諾に必要な線引きとしての必要最低ランクが記されております。また依頼の報酬は
受付嬢の指す壁にはたくさんの紙が張り出されていた。見ればちらほらと賞金稼(バウンティ)ぎと思われる者が依頼書を物色中だ。
「ありがとう!」「ありがとうございます」
笑顔で手を振る受付嬢を背に二人は掲示板に立ち寄る。たくさんの依頼書が隙間なく敷き詰められている。適当に選んで読んでみれば、ペットの猫探しやら荷物運び、長期鉱山発掘作業員募集という依頼書もあった。
「これ面白そうじゃない?」
リリィが言う面白そうというのは討伐依頼書だった。どこぞの魔物の親玉が暴走したとかで、その魔物の討伐報酬は透貸1枚。
「この透貸って?」
「白金貨百枚分……えっと、一番安い石貸百万枚分。これだけあればホヅミんの言ってた飲食店だって作れるよね、きっと」
聞いてホヅミは驚くが、さすがにそんな簡単に手に入ってはおかしいだろうとホヅミは内容文に目を凝らす。
「ね、ここのクラスUって何?」
「それは魔物のクラスだよ。あっ、ホヅミんは知らないんだっけ。魔物っていうのは強さでクラス付けされてるんだ」
リリィの説明によると、一番弱い魔物はFクラス。そこからE、D、C、B、Aときて、
「たぶんボクなら倒せるよ」
「でも、よく見たら書いてあるよ? 最低ランクアダマントだって」
「ん? ありゃ、ほんとだ」
リリィとホヅミは気を取り直して再び依頼書を探す。
「これなんかどう? 初めての人向けじゃない?」
「なになに……子供の面倒を一日見てください……えぇ〜、こんなんじゃちょっとしか稼げないじゃん! たったの銀貨三枚だよ?」
と面白くなさそうにリリィは言う。
「それより、これどう? これならランク不明って出てるし、ボク達向けだと思うんだよね〜」
と見せられる依頼書はまたも討伐依頼。クラス不明、最低ランク不明。報酬透貸十枚。
「不明、不明、不明って……これ絶対危険なやつでしょ」
「そんなことないよ! だってボクがいるじゃん?」
「ここ、よく見てリリィ。
言われて自身の取った依頼書と睨めっこするリリィ。
「いくらリリィが強くたって、危なすぎだよ」
「うーん、分かった……別のにする」
ほっと息を吐いて視線を落とした先に、ホヅミはとある依頼書を目にした。内容はソウハイ山の
「これ、これならどうかな?」
「どれどれ?」
ホヅミ自身の提案だったが、ドラゴンという迫力のある
「いやぁでもやっぱり……ドラゴンだと怖いかも」
自身の能力とあった条件に、報酬の白金貨二十枚に、つい欲が出てしまった。この世界の物価はあまり分からないホヅミだが、このニト町の宿泊で銅貨八枚。白金貨一枚自体が銅貨百枚分の価値はあるのだ。白金貨一枚だけでも、今ホヅミが
「アンデッド……? あっ!昨日のホヅミんが倒した骸骨ってアンデッドだよね! いける! いけるよホヅミん!」
きらりと目の輝くリリィ。
「ううん、やっぱりいいや。別のにしよう」
「大丈夫! だって触れただけで倒しちゃうんだもん! ボクが飛翔魔法でホヅミんを抱えて、後ろを取れば簡単だよ!」
「でもドラゴンだし」
胸を叩いてどっしりと構えるリリィ。
「ボクがホヅミんを守る!」
「そ、それじゃあ……報酬も高いし……これにしようかな?」
少し懸念ではあったがリリィの頼もしい態度に身を預けた。だが後々、この判断はホヅミやリリィを苦しめる事となる。
ホヅミとリリィの二人はニト町を出て、ソウハイ山の
危険! 凶暴なアンデッドドラゴンが出現!
一般人の立ち入りを危惧して立てかけた看板は、二人には関係のないもの。怯んだホヅミだが、前を行くリリィと離れないようにしっかり後についていく。
まだお昼くらいのはずなのに辺りは薄暗い。空を見上げると灰色の雲が埋め尽くされている。
「ん?」
ホヅミの頬には濡れた感触が伝う。指で
「雨が降ってきた」
「そんな!
「かさ? ……ああ、
「ちょっと待ってね………
リリィはホヅミに手を翳して魔法を唱える。すると雨はホヅミの体に当たって
「今のは?」
「今のは魔法壁。これでしばらくは大丈夫だよ。でもすぐ切れちゃうから、そん時はまたかけ直してあげる」
リリィは自身にも
「どれくらいで切れるの?」
「うーん、三分くらい?」
「え!? じゃあすぐじゃん! いいよ、雨くらい。ちょっとくらい濡れたって全然平気だから。リリィは魔法を温存して」
目的地の洞窟までの距離は分からないが、ずっと魔法をかけ続けるとなると大変だ。しかしリリィの顔にはどうということは無いという静かな余裕さえ見られる。
「ボクならなんて事ないよ。千回くらいはかけられるから。それよりも、風邪引いちゃったら大変でしょ?」
千回と聞いて呆れ返るホヅミ。それから十回以上は魔法をお互いにかけ直したリリィ。二人は森を抜けるとようやくソウハイ山の麓の
「ここが例の洞窟だね」
リリィが言うと疲れた様子もなく、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と中央に立てられた看板を避けて洞窟の中へと入っていく。ホヅミもその後についていくと中はとてつもなく暗く、先が全く見えない様子だった。
「
バッと空洞内は明るく照らされる。それでも奥までは見えない。
二人は先を進む。右にも左にも何もない。あるとすれば散らばった岩の
「近いよ」
リリィが言う。二人はこれから対峙するであろう魔物に心構えを
「広い」
「あそこに何かいるよ?」
ホヅミは大空洞の奥の
「ぐぁおおおおおお!!」
「ひぃっ!」
ホヅミは悲鳴を漏らす。雄叫びは大空洞内を反響し、二人の肌にじりじりと伝わる。緊張感は高まり、やがて襲いかかる影。
「下位火炎魔法ジェラ《ジェラ》!
リリィは天井に向けて魔法を放つ。リリィの魔法は大空洞全体を照らし、ドシドシと地鳴りを立てて歩く影をもすかさず明るみにする。その姿は巨大な恐竜の骨。翼の骨格を持つそれは、ホヅミの見た事がない"ドラゴン"である証なのだろう。
「
リリィはホヅミを抱えて飛んだ。アンデッドドラゴンは見上げる。リリィは後ろを取ろうとしたが、アンデッドドラゴンの動きは思っていたより早く、一旦着地。リリィは続けて火炎魔法、そして飛翔魔法、火炎魔法、飛翔魔法を繰り返してアンデッドドラゴンの
「
「ぎゃあああああおおおおお!!」
リリィの火炎魔法がアンデッドドラゴンの怒りに火をつけてしまったのか、洞窟を揺らすほどの大声を上げる。
「ねえ何かやばくない!?」
アンデッドドラゴンのお腹周りにはだんだんと
「ばおおおおおお!!!」
アンデッドドラゴンから吐き出される息はとてつもない風圧を持って二人を狙う。
「あわわわわ冷たい! 何あれ冷気!? やばいやばいやばい! 死ぬ死ぬ死ぬ!」
直撃を避けて飛び回るリリィだが、付近を掠めるだけでもホヅミは
「リリィもっと早く! 早く飛んで!」
その瞬間リリィの意識に隙が出来てしまい、アンデッドドラゴンの吐く冷気が左足に直撃するホヅミ。直後左足の感覚がなくなり恐怖に見舞われる。
「ひいいぃぃぃっいいやぁああっ!?!? ……ひ、左足が! 左足が凍っちゃった! 凍っちゃったよリリィ!」
「え!? ど、どうしよ! 飛びながらだと回復とか熱魔法とか出来ない!」
「えぇーっ!?!?」
焦る二人にアンデッドドラゴンの冷たい息の
「そうだホヅミん! 今からホヅミんに飛翔魔法をかけるよ! で、アンデッドドラゴンのところまで飛ばすから!」
「え? う、うん。分かった!」
リリィは自身の
「ひっ!? おちっ落ちるぅーっ!」
二人の体は降下していく。
「
ホヅミの体は降下が止まり、リリィの意志でアンデッドドラゴンの方に飛ばされる。アンデッドドラゴンはどちらを狙えばいいか少し迷った様だが、すぐにホヅミに狙いを定める。
「こっち向け骨ぇ!!」
リリィは威勢よく叫ぶと、腰の短剣をアンデッドドラゴンに向けて
その隙にホヅミの体はアンデッドドラゴンの頭上を取った。
「
リリィはリリィの体で
「え!? また落ちる!? 落ちるぅーっ!!」
ホヅミは魔法の働きかけを失い、アンデッドドラゴンの頭に乗っかると、頭蓋骨の凸凹にしがみついた。
「ぐおおおおお!(翻訳:そこはらめぇ〜)」
アンデッドドラゴンの動きが止まると、やがて力が抜けるように
「わわわわわわ!?」
ホヅミ投げ出されそうになるも何とか腕の力で耐え凌ぐ。大きな頭蓋骨から飛び降りるが、片足が凍ってしまっていたせいでバランスを崩してしまう。倒れた体を起こして、ホヅミは辺りを見渡した。
「リリィ!?」
そこには仰向けに倒れるリリィがいた。すぐに起き上がらないリリィは様子がおかしい。リリィの元へと向かおうとするが再び転けてしまう。
「痛ぁ〜」
ホヅミはもう一度立ち上がると、片足でけんけん飛びをしてリリィの元へと寄った。
リリィは自身を治療中の様で、その手からは
「心配しなくても大丈夫。もうすぐ動けるようになるから」
とリリィは笑って見せた。
リリィはホヅミに
「まさかあの高さから落ちたの!?」
「えへへ……でも倒せたから……いーよ」
「無茶し過ぎだよ……あの魔法って同時に使えないの?」
「そう……同じ魔法で弱い魔法なら誰でも同時発動出来るんだけどね……飛翔魔法二人分は無理」
回復が終わった様ですくっと起き上がると、リリィはホヅミの足に手を当てて
二人は依頼を完了した事を証明するため、アンデッドドラゴンの骨を持ち帰ろうとするが、どの部位の骨を持ち帰ると良いか悩んでいた。どれも大きくてとても町まで運べそうにない。相談の末リリィが足蹴りでアンデッドドラゴンの歯を折ってそれを持ち帰る事になる。そしてリリィは投げ飛ばした短剣を探して拾って、腰に収めた。二人は無事なのだが無事とは言い
小ぶりの雨でホヅミはリリィを案じて魔法壁を断るが、リリィは元気そうに大丈夫と言って
二人がニト町に入って
「アンデッドドラゴン、倒してきたよ!」
「お疲れ様でした。では
リリィの差し出したアンデッドドラゴンの歯を受け取る。
「
受付嬢は後ろの別室へと姿を消した。しばらくするとジャリジャリと音を立てながら小さめの巾着袋を両手にカウンターへと戻る。
「こちらが今回の報酬、白金貨二十枚です」
リリィは受け取るとホヅミんに手渡した。
「これ、ホヅミんが持ってて」
「え? …うん」
ホヅミは袋を開けて中を覗き見るとそこには白くきらきらとした綺麗な硬貨が何枚も入っていた。
「それじゃあ行こっか!」
「どこに?」
「決まってるじゃん」
二人は
「わぁ、色んなのがあるよ! うはっ! あは!」
喜ぶホヅミが潜ったお店は衣服屋さん。まず目の行くのは、白いレースをあしらえたドレスの並ぶコーナー。次から次へと手に取っては自身の体に合わせて、お店の鏡で見て楽しむホヅミ。どれにしようかと悩んでいると、後ろからリリィの声がかかる。
「ドレスもいいけど、あまり汚れが目立たない方が良いよ? お家もないし、仕舞って置ける場所もないからね」
「分かってるよー」
言葉が耳に入っているのか入っていないのかも分からないほどの喜びように、リリィは微笑んだ。リリィは別に、雨天時用の漆皮を予備含め四着手に取るとホヅミの様子を再度見る。ホヅミは女店主に捕まってしまっていて、何やら愉快そうに会話をしている様子が窺えた。
「ではでは! こちらのローブ何かはいかがでしょう? 素材の樹皮を最大に生かして、森のデザインをあしらえてございます!」
「うわぁ、素敵なローブですね!」
「見たところお客様は
デザインも気に入った上に便利な性能を持っていると聞いてホヅミはこれに決めたようだった。
「金貨五枚でいかがでしょう!?」
「買った!」
「ちょっとホヅミん!?」
普通でない金額にリリィは驚いてホヅミに声をかけるが、ホヅミの気持ちに押し負けるリリィ。
二人は店を後にすると今度は宿屋へと向かう。以前ホヅミがリリィの体でこの町の宿屋に泊まった事があったため、道に迷うことはなかった。
「これだけ使ってもまだ白金貨十九枚に金貨四枚に銀貨五枚だよ?」
宿屋にお金を支払って借りた二人部屋の椅子に腰をかける二人。新しい服を買えて嬉しそうなホヅミは言う。それ以外にはリリィが購入した雨具の漆皮や腰巾着二人分に、宿代が差し引かれている。
「それでもまだ足りないよ。それにここで暮らすなら、まずは家を何とかしなきゃ」
宿屋で銀貨一枚を支払って日々を過ごすのは、いずれ財布に痛手を追うことになると考えていたリリィ。
「アパートみたいな……借家みたいな所ってないの?」
「あると思うよ。町に来る事自体経験ないから、探してみないと分からないけど」
言われてホヅミは改めてリリィの境遇を思う。リリィはあまり村から出た事がないのであった。
「とりあえず今日はもう遅いしここでゆっくりしよう。んで明日借家探しに行こうよ……ふぁ〜わ」
とリリィは大きく
「リリィ、そんなとこで寝たら風邪引いちゃうよ。せっかく二人部屋なんだからさ」
「すぅー………すぅー………」
手遅れだった様で、ホヅミは仕方なくリリィの体に掛け布団を掛ける。
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