血だ! どうしよう!
ホヅミとシュウは荒野を抜け、今度は打って変わって快適と言える程の森の中を歩いていた。というのも、途中には川もあって十分にホヅミの喉を潤してくれていて、更には道が
「ねぇシュウさん? この後王都に着いたらどうするんです?」
シュウはうんともすんとも言わない。そして聞こえていないはずがない。だが先程からホヅミが語りかけても何も返答してはくれないのだ。
「シュウさん? 王都ってもうすぐ着くんですか?」
するとシュウは鋭い目つきでホヅミの方に振り返る。やっと何か言葉を返してくれる気になったのだろうかと期待した。だが向かってきた拳にホヅミは慌てて屈む。
「ピギャアア!?」
「ちっ、弱ぇやつばっか狙って何が楽しいんだよ。俺を狙いやがれ!」
その怒声に周りに潜む生き物達が尻尾を巻いて逃げていった……様な気がしなくもない。
「もう嫌だよこんなのぉ」
ホヅミは自身の後ろに散乱した肉片に、目に手を当てる。
「おい、ホヅミ」
とシュウが口を開くものでホヅミは二つ返事で耳を傾ける。
「熱い。お前扇風機になれ」
「うんうん……は?」
言葉の理解が追いつかないホヅミは
「お前風魔法しか使えねぇんだろ? だから風魔法で扇風機やれ」
「は?…………は?…………は?」
言葉を失うホヅミにシュウは舌打ちしたかと思うと、ぐっとホヅミに
「は? じゃねぇよ。てめぇ水魔法教えてやったのに何で
怒鳴り声で
「そもそも使える魔法と使えない魔法の系統があるだなんて知らないもの!! 水魔法教えるって言ったんだから、水の系統の魔法が使えるかどうかも考えて、水魔法がちゃんと使える様になるまで
「アンッ!? 何だてめぇ喧嘩売ってんのかコラァッ!!!」
「怒鳴ってれば言いなりになると思った? 大体何が語尾をワンよ! 子供なの? 悪趣味すぎ!」
「俺はもう十七だコルラァッ!!」
「まだ子供じゃないの!! 子供の癖して酒なんか飲んで気取ってたの? だっさ!! 未成年!!」
「グルルルル…………ふぅ……もうそろそろ着くぜ。着いたらすぐに
「それとも、この世界に来たばかりのお前に何か有益な情報でもあれば聞くが?」
何か言い足りなそうにしているホヅミを見て、あてつける様に問う。
「え? ……ない……です」
「けっ」
シュウは足を止める。巾着袋からカチャカチャと音を立てて何か取り出した様だ。鉄の輪っかに長い
「あ、それ。何だっけ……す、す……」
「これは
「はぁ……」
「で、こっちは…………ただの鉄で出来たリードだ」
「へぇ……で、それで何するわけ?」
「決まってんだろう?」
シュウはホヅミに寄って、首元に手をかける。手にしたリードの首輪部分を手際良くカチッと
「うんうん、似合ってるぞ」
とにこやかに微笑むシュウ。
「あ、ほんと? えへへーじゃなあああぁぁぁいい!!!!!! さっきの今で、まだこんな悪趣味な事させるんかああ!!!」
「は? 違ぇよ。作戦だよ作戦」
怒声に対して怒声で返すでもなく、先とは比べ物にならないくらい落ち着いた口調でシュウは答えた。むしろ優しささえ感じるその
「作戦?」
「ほら、
「あ、はい」
これまたカチャリとすんなりホヅミの腕に
「ほいじゃ、行くぜ」
そしてシュウはホヅミにかけたリードを引いて、ホヅミはその後をついていく。
「って……これ……作戦? ほんとに作戦なの? ……何の作戦?」
「ごちゃごちゃ言うな」
そうこう言い合ってるうちに、くねった道のない真っ直ぐな道に入る。道の先には大きな鉄の城門。
「あ! 見えた! あそこだよね! やっと着いたぁー!」
「ちっ、あーうるせぇいちいち
見えたとは言ってもやはり多少なりとも歩かなければならなくて、着いたというにはまだ早かったのかもしれない。けれどホヅミとシュウは"無事"にハイシエンス王都に辿り着く事が出来た。そして城門前に到着すれば当然まず門番が反応する。
「何か身分を証明する物を」
「ほらよ」
シュウは腕を掲げた。その腕には綺麗な
「そ、そそそ、それは!? アルストロメリア王国の
兵士は地面に膝をついて頭を下げている。しかしそれに驚いたのは兵士だけではない。
「え? ちょっと待って? それ、ソウルリングだよね? 勇者だけが持ってるっていう」
「は? ソウルリング? 何言ってんだお前」
何の事だか分からない素振りにホヅミは開いた口が塞がらない。エルフの村の村長の言葉が頭の中で再生される。綺麗で高価そうな腕輪なものだから勝手にソウルリングだと決めつけてしまっていた。
「通っていいな?」
「はい! お止めするなど
呆然としているとシュウに急にリードを引かれたホヅミは
「お待ちを、あなた様でしたらお通し出来るのですが、こちらの……
「こいつは俺の奴隷だ」
(は!? は!? は!?)
これがシュウの言った作戦だろう。確かにホヅミには身分を証明する物がない。そういった意味ではシュウの作戦は手っ取り早く分かりやすいものだった。その上ソウルリングを持っていないシュウが勇者でない可能性も出てきてさすがにホヅミは黙ってはいられない。
「シュウさん? ちょっと待ってシュウさん?」
「あ? 何?」
「ちょっと、聞いてないよ。色々……聞いてないよ?」
シュウがやれやれといった表情でため息をついた。
「あの、ごめん。私やっぱり帰らせてくれますか? ソウルリング持ってないのに勇者って、私を騙してたんですか? こんな恥ずかしい格好までさせて……もしかして私を奴隷として売り飛ばすつもりじゃないでしょうね?」
いくら出身が同じ日本だとしても、この突然連れてこられた世界で生きていくために奴隷売買に手を
ホヅミは考えれば考えるほどにシュウの事を疑わしく思えてきた。
「ちっ」
シュウは面白くなさそうにそっぽを向いている。ホヅミはシュウのその態度でやはりそうなのだと確信した。今なら兵士に頼めば助けて貰えるかもしれない。ホヅミは助けを求めようとした瞬間
「ああそうだよ。これも勇者
「やっぱりそうだったのね! 兵士さん、助けてください!」
とそのやり取りに
「あ、あの、
シュウはわざと兵士に腕輪を見せつける
「兵士さんお願い! 私を助けて!」
「お前、俺を止めることすら
兵士は二人に圧倒されて、今にも泣きそうになっていた。
「この卑怯者! こんな事をして、同じ日本人として恥ずかしい! 有り得ない! 悪魔!」
「アアン?」
シュウは鬼の様な形相でホヅミを睨み返した。
「ちっ、めんどくせぇな。いい
「ひっ!…むっ……んっ」
その行動にホヅミはまた開いた口が塞がらないでいた。シュウの顔が離れる
「あ、聞こえましたよ? そいつ奴隷なんですってね。しかも人間の。僕にもちょっと触らせてくださいよ」
「俺の
「へ……へい、わ、分かってますよ。ほんの冗談ですってば」
首のリードを引かれるがままで
「目を覚ませ!!」
ぱっと正気に戻ったホヅミ。どうやら
「何だおめぇ、泣いてんのか? まさかほんとうに奴隷にされると思ってたのか? 馬鹿なやつだ」
シュウがてきぱきとリードの首輪や
「まああんまり
バチン。
無意識だった。ホヅミの目の前には、赤い
「………………………」
「………………………」
二人はお互いに何も言葉を出せなくなって、しんとした空気に包まれていた。路地の外はガヤガヤと騒がしい。さすが王都。人が多いせいだろう。
「えっと……その……昔、似たような事があって……その……」
シュウは顔を合わせる事はなかった。それどころか、背を向けて路地の外へと歩き出した。
「今から
「え? うん……」
そして路地を出る前にシュウは足を止めた。
「悪かった」
『いいから俺を信じろ。これは演技だ、お前の友達を助けに行くための』
門の前、放心する中で聞いていたシュウの言葉を心に、ホヅミはシュウの後についていく。
「色んなお店があるね」
露店だけでなく、
「あれ? 何語の文字か分からないのに読めるよ! 何で?」
「それは俺も分からねぇ。この世界に勝手な招待ぶっこいた奴が、勝手なサービスお見舞いしてくれたんだろーよ」
「あれ、あの子何であんなにボロボロな服着てるの?」
「あれは奴隷だ。この世界では普通なんだとよ」
「あんな小さい子が?」
シュウは首を横に振る。
「小さいからだ。親が魔物に殺されただ野盗に襲われただで
やけに詳しいシュウに対して
「これは聞いた話だ。勘違いすんじゃねえ」
この異世界では空気は良い。でもそれはあくまで成分的なもので、雰囲気という面では空気は日本と変わらないか、それ以下だろう。日本と似た息苦しさを
「分かってて助けないの? あれだけ力があるのに? どっかの王国の紋章が入ったご立派な腕輪だって持ってるくせにぃ? 勇者だって名乗ってるのに」
「うるせぇ!俺だってな…………とにかく、
それを聞いてホヅミは
「ふーん。アルストロメリア王国だっけ?
「ぶふぅーっ!!!?」
「てめぇ、な…何でそこまで言い切れるんだ!アン!?」
「別に言い切ってないわ。
「な!?」
シュウは頬を染めて、更には目が泳いでいた。どうやら図星の様っただ。ニト町からこの王都までの道のりでは散々
「とにかくだ……女王がどうだのは関係ねぇ。王国の紋章が入った腕輪、こいつを身につけるって事は、少しの問題でも戦争に繋がり
「へぇー…………女王様なんだ」
「んはっ!?」
吹き出す空気もなく、代わりに内蔵が飛び出そうになるシュウ。
「てめぇいい加減にしろよ……?」
「良いじゃん別に。恋の相談乗るよ?」
「このっ…………はぁーー」
大きくため息をついたシュウは諦めた様に前へ向き直る。
二人は下町の広場にドンと構える
「ちょっとシュウさん! あの上半身裸の人、今私達を見て鼻で笑いましたよ?! 良いんですか! 小馬鹿にされてますよ!」
「うるせぇ無視しとけ」
詰め寄るホヅミをあしらって、とっとと
「わぁ」
ホヅミは思わず口が開く。真正面奥には正装をした受付嬢と思われる三人がカウンター越しに立っている。手前には四かける四の配置で十六台もテーブルが並べられていて、
するとホヅミの初々しいに態度に、
「こういう所、あんまり得意じゃないかも……」
身構え
「あ、待ってよぉ」
ホヅミは慌ててシュウの後を追う。シュウの向かう先は右奥。壁際に丸椅子がいくつか並んでおり、内一つに男が座っていた。男は太っていて腹が出ている。武器は腰の短剣以外何も身につけている様子もなく、
「おいツキジ、お前に
酒に
「おやおや……ひっく……見知った顔じゃねぇか…っく」
「この王都にいる、エピルカという貴族について聞きたい」
「ひっく……エピルカ……ああ、エピルカ=シエンス伯爵ね……っく」
ツキジは腕をふらふらと持ち上げて、三本指を立てた。
「三枚だ」
「銅貨か?」
「っく……銀貨だ」
シュウは不満気にツキジを見下ろす。
「高いんじゃないのか?」
「ひっく……何を言ってんだ……貴族様の情報は高ぇんだぞぉ? っく、銀貨三枚くらい当然だろぉ?」
ホヅミは思い出していた。シュウをの雇用費は銀貨四枚だ。さすがに雇い主のために、
「…………今出せるのは銀貨一枚だ。後払いする。急ぎだ、必ず払う」
「ぬぁにぃ?…っく、さすがにあのアルストロメリアのシュウさんといえど、それはいけねぇ」
「頼む、時間がない。待ってくれるなら、銀貨五枚、いや八枚出そう」
ツキジは両の掌を上げてやれやれと言ったように首を振る。
「いーや、今出してくれ。でないと情報は渡さねぇ」
「……ちっ」
ふとツキジはホヅミの方に目が移る。
「ん? そいつぁ、あんたの連れかい?」
まじまじと下から上まで見詰められて、ホヅミは少し恥ずかしい気持ちになる。
「ど……どうも」
「まあ……どうしてもってぇなら……そうだなぁ……ぱふぱふさせてくれたら……銀貨一枚でもいいんだがなぁ……いけるかい? 嬢ちゃん」
「だ、だめだよ。絶対、だめだからね! ほ、ほら、これ借り物だから、絶対だめ!」
「は?」
ホヅミの
「よし分かった今決めた。無理矢理にでもお前から情報を引き出してやる全身の骨ずたずたにされる準備は出来てんだろうなアアンッ?!!」
「わ、分かった……分かりました……シュウさん。銀貨一枚で……一枚で大丈夫ですってば」
シュウの凄まじい
「ほっ…………それじゃあ先払いで銀貨一枚いただきますよ」
言われてシュウはポケットから銀貨を一枚取り出してツキジに手渡す。ツキジは先ので酔いが覚めたのか、しゃっくりも引っ込んでしまったようだ。
「へへっ……確かに。伯爵について何が知りたいんですか?」
「そいつの家と、趣味趣向……もし知っているなら、商取引の履歴を教えろ」
「ほほぅ、金品をせびるおつもりで?」
ツキジはシュウの発言に興味を示して、にやにやとしている。それを「とっとと話せ」とシュウは強引に急かす。
「近頃の伯爵の様子からすると、何やら怪しげな魔道具や魔本に
それを聞いたホヅミはそのエルフの多くがエルフの村の者ではないかと考える。そうだとすれば、リリィ共々に助けられる可能性が出てくる。
「ああそうそう、
「魔物を?」
シュウはしばらく考え込んでいた。
「どうにもきな臭ぇ……ホヅミ、お前だけの問題じゃねぇかもな」
「え?」
ホヅミに見向きもせずに、顎に手を添え眉を
「どんな魔道具か魔本かは分からないか?」
「
騒がしいフロアで一人静かに思考を巡らすシュウ。何かを決断したかのように顔を前に戻した。
「助かった。また来るぜ」
「あ、待ってよシュウさん」
シュウが向かったのは宿屋だった。夕焼け色の空は今日の旅路の終わりを告げているようだ。やがて闇がやってきて、次に光り輝く時までに魔法の力を蓄えているかのように。
「あーすっかり暗くなっちゃったね」
「お前、今日泊まるところあんのか?」
「え?」
聞かれて、ホヅミは今使えるのは銅貨二枚だけである事を思い出した。
「ちなみにこの王都の下町で、銀貨一枚でやっと一泊だ」
「あーあはは……そうなんだ……」
これは野宿するしかないだろうかとホヅミは辺りをキョロキョロする。どこか小道で壁に寄りかかって眠る事も視野に入れていた。
「お前、ここがどこだか分かってんのか? こんな所で野宿なんてしようもんなら真っ先に
「えっ!? そ、そんな」
驚くホヅミの様子を見てシュウはため息をつく。
「まあお前に死なれちゃ、助けたお前の友達に恨まれそうだからな。俺の部屋に泊まりな」
「えっ!? そ……それは……それで……」
ホヅミは人差し指同士を突き合わせて
「何だ、嫌なのか? はっきりしろ!」
「だ、だから……へ、変な事しない?」
ホヅミは思わず声が小さくなってボソボソと
「は? んな事しねぇよ。てめぇふざけてんのか?」
その返しにはホヅミも
ホヅミは小学生の頃に出来た男子の友達がいた。しかしその男子とつるんでいく内に、ホヅミは自身の本心を打ち明けてしまう。それを誤解されて、ベッドの上に無理矢理押し倒された経験があった。無理に
「ふざけてない……約束して? 何もしないって」
ホヅミにとっては同じ年頃の男子と同室というのはトラウマを刺激する恐怖の一つでしかない。それを分かってか分からずか、ホヅミの様子を察したシュウが、頬を指で掻きながら目線を逸らす。
「何も……しねぇよ。俺は何もしねぇ」
それ以上シュウが何も言う事はなく、二人は宿屋に到着する。宿屋の中は
「いらっしゃい。お二人さんかい? ごめんね、生憎今ほとんど部屋が埋まっちゃってて、一部屋しか空いてないんだよ」
「その一部屋を借りたい……お前はそれでいいか?」
「え? う、うん」
少し不安がりながらも
「一人分の代金で良いよ。銀貨一枚ね」
「よろしく頼む」
シュウは部屋の札を受け取り階段を上がっていく。
「あ、あのぉ……
「あっちだよ」
シュウとは反対方向にホヅミは行く。扉を開けるとそこはぼっとん便所。便器がなく、中央にポカンと穴が空いているのみだ。
「ふぅ〜」
用を足し、傍に折りたたまれた紙を使って汚れた箇所を拭く。すると不意に下腹部に痛みが走る。
「何? えっ、血、血?」
(ど、どうしよ私……死ぬの?)
ホヅミの顔から血の気が引けていく。救急車を呼んでと言ってもこの世界では通用しない。そもそも救急車など存在しない。病院に行こうにもお金がない。場所も分からない。
ホヅミは折りたたみの紙をごっそりと下着の中に詰め込んだ。
「おばさん、ありがとう!」
「どうしたんだい慌てて」
「何でもないです!」
ホヅミは急いで今日泊まる部屋へと向かう。
「な、何だお前! 何慌ててる!」
「どうしよう……私……私……死にたくない」
「ああ??」
ホヅミは厠で自身の体の出来事について語った。それを聞いていたシュウは顔を赤くして怒っているようにも恥ずかしがっているようにも取れたため、ホヅミはとかく不安になる。
「おいてめぇ……マジで言ってんのか?」
その言葉にホヅミは見当外れな面持ち。
「お前、生理って知ってるか?」
言われてホヅミはぽかんとするが、次第に顔を赤くしてあわあわと口を閉ざす事が出来ない。
「あわわわわ」
「何で女のお前が分からねぇで男の俺の方が分かるんだよ!」
「ひゃあっ!? ご、ごめん」
シュウは大きくため息をついた。
「まあいいや、俺はとりあえず汗流してくる」
呆れたシュウは更衣室へと向かった。更衣室の扉がガチャンと閉まる音で、ホヅミははっとする。
「ま、待ってシュウさん! ど、どうしよう! どうしたらいいの私!」
と浴室の扉を開けるとシュウが着替えをしている途中で上半身裸に下着一枚だった。
「てめぇ入ってくんじゃねぇっ!!」
「ひゃいぃーっ!?」
シュウは勢いよくガタンッと浴室の扉を閉める。
「ねぇ! どうしたらいいの!」
「知るか! とりあえず紙でも詰めとけ!」
ホヅミはとりあえず言われた通りに辺りの紙を探した。
二人は丸いテーブルを挟んで椅子に腰かけていた。
「ったくよぉ、てめぇ何年女やってんだよ」
「ご……ごめん」
女の体を手に入れてからまだ数日しか経っていないだなんてシュウには言えない。そもそも入れ替わりの事は言ってはいけないタブーとしていつの間にかホヅミの中に浸透していた。
「ちっ、まあいい……そういえば、
「あ、ううん。まだ……ていうか忘れてた」
「今日はさっきの通り人が多い。明日明るくなってからまた行くぞ。もし今回の
ホヅミはシュウのスーパーパワーを思い出していた。ホヅミからすればあまり乱暴な能力は欲しくはないが、リリィを助けられるなら何でも良かった。エルフのサーラと魔法の修行も頑張ってはいたが、あれだけではリリィを連れ去ったエピルカに
トントン、ノック音がして扉は開かれる。
「夕食を持ってきたよ。あんたら旅人だろう? たんとお食べ」
持ち込まれたのはバスケットに詰め込まれた焼きたてのパン、
「いただきます!」
ホヅミは挨拶をする。しかしシュウは何も言わずに食事に手をつけていた。
「シュウさん? ちゃんといただきます言わなきゃ」
「んあ? くだらねぇ。んな事するかよ」
その様子にムッとするホヅミ。
「ちゃんと挨拶しなさいよ。じゃなきゃ作ってくれた人にも食べ物にも失礼よ」
「んあ? ……ちっ……うっせぇな」
毒づきながらもシュウは渋々持っていたパンを置いた。
「いただきます!……」
それを見てホヅミは満足。シュウも再度パンを手に取って口に運ぶ。
二人は
「ごちそうさまでした」
「……ご、ごちそうさまでした!」
言い慣れないながらもちゃんと言う事を聞いてくれた。初め出会った時はとんでもない
「そういやお前……友達を助けたら、エルフの村で暮らすのか?」
「え? たぶんそうなると思うけど……」
言われてみれば、そもそもユーナラ町という所に入れなかったから野宿する
「そういう
ユーナラ町に何かがあるのかもしれない。
「俺も何だかんだでこの世界の方が住みやすい様だからな。喧嘩だってし放題だし」
と、にかっと笑うシュウ。それは魔物を相手にという事だろう。魔物が
「元の世界なんかつまらねぇ。お前もそうだろ?」
「え? うん」
元の世界になんて戻りたくもないホヅミだが、結局世界なんてどこに行っても変わらないのではないか、本当の私を知ればエルフの皆も毛嫌いするのではないか、と今も心配は募るばかりである。
「シュウくんは本当に私の友達を助けるだけなの?」
「あ? どういう意味だ?」
「同じ日本人でしょ? 一緒に行動しようよ」
シュウはミルクを一杯注いで口に運ぶ。一口飲むとティーカップをテーブルにゆっくりと置いた。
「俺は弱い奴を仲間にしない」
「なっ! ……別に良いじゃん! 弱かったらいけないわけ?! それにリリィなら強いと思うよ!」
「それならその友達だけを仲間にするだけだ」
その発言には怒りを通り越して何も言い返せなかった。
「今日ここに来るまで、お前は何度狙われた?」
言われてきょとんとするホヅミ。
「大抵の魔物は弱い奴から狙ってくるんだよ。つまらねぇ。マジでつまらねぇ。おめぇが後ろに入れば俺は存分に戦えねぇんだよ」
「な、何それ! あれだけ強いんだから別に守ってくれたって良いじゃん!」
「んあっ!? 舐めてんのかてめぇ!!」
膨れっ面なホヅミにがんを飛ばすシュウ。
「
声がした。
それはいつどこから入ってきたのかシュウでさえ読めてはいなかった。緑色の鳥の羽がついた漆黒のベレー帽に漆黒の外套を身に纏う者。肌の色は真っ青で、ホヅミにさえ瞬時に人間でないと認識が出来た。奥には開け放たれた木製の両開きの
「てめぇ! どうやって入ってきやがった!」
「御覧の通り、窓からですよ」
「違ぇっ! 俺の聞いてんのは、結界を
結界とはエルフのサーラが言っていた、魔族や魔物を弾くものだろう。
「ふふふ、それは答えられませんねぇ」
「…ちっ」(ちくしょう!今の今まで気づきもしなかった。魔の
ホヅミは足が竦んでいた。ふとその魔物はホヅミの方を見やる。
「リリィ王女、失礼ながらあなたの不安定な力が一番弱っている今を狙うのをお許しください」
「へ? へ? 王女? リリィが?」
「あ? 何言ってる?」
ホヅミとシュウの二人は魔物の言葉に何が何だか分からない様子。
「おや? これはまた
魔物はホヅミの元へ歩いていく。それを遮る様にシュウは立ちはだかった。
「何だか分からねぇが、人違いじゃねぇのか? おめぇさっきリリィ王女とか言ってたろ? こいつの名前はホヅミだ。リリィなんて名前じゃねぇ!!」
「ふっ、ふははは! リリィ王女、まさか自身の正体を隠すためにこの様な
「いい加減にしやがれぇ!!」
シュウは魔物に殴りかかる。しかし魔物の目つきがおぞましいものへと
「がはっ!?!?」
魔物の手はゆっくりとホヅミへと伸びていく。ホヅミはあれほど強いシュウが
「おや? 何だか様子が変ですね。まさか本当に? 少し過去の記憶を覗いてみましょう」
魔物はホヅミの頭をがしりと掴む。その手は人間とさほど変わらない大きさで、肌の色が真っ青な所以外は同年代程の人間だ。
「あ、ああ、あ、あああ、ああ、ああああああああぁぁぁあああ……」
魔物が手を退けるとホヅミは我を取り戻す。
「おかしい……これは本当に勘違いの様だ。それにしても今の光景は……まあ良いでしょう。とんだ徒労でした」
魔物は振り返ると窓の方に向かっていく。
「な、何だったの?」
呆然と床に座り込むホヅミ。興奮冷めやらぬといった様で腰を抜かしたまま立ち上がる事も出来ないでいる。
「うぐっ……くっ……」
「し、シュウくん? シュウくん!」
シュウの姿を見てようやく足が反射的に動いた様だ。駆け寄って石壁に叩きつけられた彼をそっとベッドの上に寝かせる。
「ど、どうしよ! 口から血が、血がぁ!」
「騒ぐな! 俺の巾着袋に注射のキットが入ってる。
それを聞いてホヅミは慌ててシュウの巾着袋を
「……ちっ……何なんだあいつは。何で結界の中に入ってこれたんだ! 何で俺は気づかなかったんだ! くそっ! くそっ! くそっ!」
ベッドを力いっぱいに殴るシュウ。
「私も驚いたよ。シュウくんよりも強い魔物がいるんだね」
「んあっ!! 何だてめぇ喧嘩売ってんのか!」
「ち、違うよ落ち着いて」
ホヅミは違和感を覚えていた。先程シュウが魔物に容易く吹き飛ばされていた。シュウとの旅の最中、ホヅミはよくシュウの戦いっぷりを見ていた。そのどれもが魔物をパンチ一撃で粉砕する程だ。攻撃を受けたとしても腕で軽く受け流していた。
「んな事よりおめぇ、あいつの口にしていたリリィっておめぇの友達だろ?」
「え? ……うん……そう」
「なぜあの魔物がお前とお前の友達を間違える? 容姿が似てるのか?」
似ているなんて言えば、シュウはリリィを助けてはくれないだろう。詰め寄るシュウにホヅミもこれ以上は隠しきれないと観念する。
「実は……ね……」
ホヅミはこの異世界にいたリリィとの入れ替わりについてシュウに話した。
「てめぇ何で隠してやがった?」
「だってややこしいじゃん。てゆうか信じてくれるの?」
「今更誰が疑うかよ」
入れ替わりを話さずとも、シュウはホヅミの友達を助ける仕事を引き受けていただろう。入れ替わりの事実は言わずとも何も不都合などない。むしろややこしい事実に混乱を招く可能性が多少でもあった。ホヅミの判断は間違ってはいない。シュウはそう思い至ると、呼吸を整えた。
「お前の……お前の友達の? 力が弱まっている今を狙うだとかも言っていた。お前の友達はいったい何者だ? 」
「分からない……あ、でも魔法が上手みたい」
というのも、ホヅミから見たリリィの言われようだった。魔物にも
「まあ何であれ入れ替わってるのが幸いしたって事か……ちっ……こんな結界さえなけりゃ」
「え? 結界?」
「何でもねぇ!とりあえずもうあいつは来ねぇだろ!」
シュウは言うと手に黒いグローブを嵌めて、巾着袋を肩にかける。
「俺はちょっと外の風に当たってくる」
「え!? ちょっと、さっきの奴来たらどうすんの!」
「言ったろ! 来ねぇよ。いや、今はそれどころじゃねぇ」
言うとシュウは扉を開けて部屋を出ていってしまった。
「それどころって……私はどうなってもいいの?」
小言を呟くと、再び扉が開く。
「ベッドは使っていい」
「いいの? やったぁ!」
バタン。言い残すと、それからもう戻ってくる気配はなかった。一つしかないベッドを譲ってくれるあたりは良い所なのかもしれない。しかしシュウにも言われたが、やはり先の魔物がまた襲ってくるかもしれない不安はあった。そのせいか眠りにつくのが
真夜中。
ホヅミは夢うつつ。そんな中聞こえる話し声に、少しだけ意識を傾けていた。
「ああそうだ。結界を破らずに結界の中に入ってきやがった。全体の壁も見て回ったが、何も異常はなかった。門番も俺達以外は誰も通していないとさ」
「俺達? シュウよ、仲間が出来たのか?」
「は? ち、違ぇ。勘違いすんな。依頼を引き受けただけだ」
「ふ〜む、依頼のぉ、むふふ」
一つはシュウの声、もう一つは女の人の声だった。
「それでだ、この王都でエピルカという貴族がエルフの奴隷をたくさん買い込んでいるらしい。他にも正体不明な魔道具や魔本もだ」
「ほぅ、それは興味深いの。エピルカ……確か侯爵家の」
「伯爵だ」
「え?、ああそうじゃったそうじゃった」
気さくな笑い声に、シュウは舌打ちをする。
「これ、舌打ちするでない! 妾(わらわ)も人間故、忘れる事くらいあるのじゃ!」
「あー分かった分かった。でだ、今引き受けている依頼でその貴族と一悶着を起こす。同時に色々と探るつもりだ」
「あまり目立つでないぞ? これは極秘、なのじゃからな? それにお主、結界の中ではあの怪力は使えないのじゃろう?」
結界の中では怪力が使えない?それはシュウのスーパーパワーの事だろうか。とすれば、今日出会った魔物に一撃で倒されてしまったのはそのせいなのだろうか。
「迷惑をかけるつもりはない。腕輪は外していく」
「そうかそうか。さすがじゃのぅ、妾はそんなそなたにフォーリン、フォーリンらぶじゃ! きゅんきゅん」
「切るぞ」
「ま、待て、悪かった。だからもう少し話さんか? 妾も城で退屈しておるのじゃ」
「そうかお互い言うべき事は伝えたんだなじゃあな」
テレビの音が消えたかのように、空間には
「お前、起きてるだろ」
「わぁっ!?」
「やっぱり起きてたか」
すぐ近くで声が聞こえたかと思うと、シュウの顔が目の前にあって、ホヅミの鼓動は激しい。
「さっき聞いた事は全部忘れろ」
「女王様の事でしょ? 結界の中で怪力が使えないってどういう」
「いいから忘れろ」
言うとシュウは宿屋のおばさんに借りた敷き布団を床に、体を預ける。しばらく経つとすやすやと
(忘れろって言ったって……忘れられないよ……あの力が使えないって、じゃあシュウはどうやってリリィを助けるつもりなんだろう?)
ホヅミは掛け布団を顔半分にまで持ってくる。
(それにシュウと女王様って……相思相愛?)
不安や知欲に目が冴えて、ホヅミはなかなか眠れないでいた。
窓の傍では小鳥達が声を揃えて合唱している。薄目を開くと、窓ガラスからは眩い朝日が差し込んでいた。
「ふんんーっ」
ホヅミは上半身だけ起こして背伸びをすると、左を見る。床に敷いた布団の上ではまだシュウが眠っているようだった。
「あれ?」
ふとホヅミは掛け布団の中から除く赤い何かに気づく。捲っていくと、白い布団は
「あが、あがが」
思えば下腹部の痛みが昨晩よりも強い。足を掛け布団から出すと太ももの
「ど、どうしよ……あ、宿屋のおばさんなら何か分かるかも!」
ホヅミはベッドから起き上がると立ちくらみ。思わずくらりとそのまま床に倒れてしまう。
「あ、あれ?」
「何だよ……るっせぇ……んあ? 血の臭い?」
シュウは飛び起きる。倒れたホヅミと
「お、おい! 大丈夫かよお前!何だよ、こんなにひでぇのかよ!……おい! ホヅミ!」
「ああ……シュウくん……もう大丈夫。ちょっと立ちくらみがしたみたい」
ホヅミはゆったりと体を起こした。
「私おばさんの所に行ってくるね」
「ふらふらじゃねぇか。いったい何しに行くんだよ」
「せ、生理なら……どうしたらいいか聞いてこなきゃ」
シュウはホヅミを止めて、その体を抱き抱える。そのままベッドの方へと逆戻りした。
「そういうの昨日にしとけよな……時間あったんだからよ」
目を逸らしながら頬を染めるシュウは、ホヅミをベッドに下ろすと部屋の外へと向かっていった。
それからしばらくするとシュウが何かの
「これ」
「あ、どうも」
シュウが渡してくれたのは、着替えのワンピースや下着と、
「それは
「あ、ありがとう」
ホヅミは浴室へと向かう。
「それからその服洗濯しといてやるから、浴室のバスケットに入れて外に出しとけ」
「うん、分かった。ありがとう」
シュウは目も合わせずに指す。どうやらおばさんに生理について聞くのがとても堪えたらしい。
ホヅミが着替えを終えてシャワーから帰ってくると、シュウは洗濯の途中だった様だ。だが驚いたのはその異様な光景。この世界には洗濯機の様なものはない。そんな中シュウは床に
「初めて見るか? 水魔法の使える人間にしか出来ねぇけどな」
シュウは傍にあった洗浄粉を水の塊にふりかける。すると水は泡立っていき、洗剤の匂いがホヅミの鼻を
「まあ、入れ替わってるなら、元のお前の体で水魔法を使える可能性は十分にある」
衣服は一箇所に落下した。ホヅミは一つ手に取ると、先程まではかなり薄汚れていたと思えるほどに綺麗になっている。水気もなく、とても良い匂いがしていた。
「そうやって洗濯するんだ」
「ずいぶん前に宿屋の人間に聞いたんだよ。本来なら宿屋の人間に任せるんだが、俺はそれがどうも落ち着かねぇ」
シュウは立ち上がると、掌に
「洗濯終わったから、またそれに着替えな。食事を済ませたらすぐ出発だ」
衣服を拾い集めたホヅミがまず、先に浴室で着替えを済ませて、次にシュウが浴室で着替えを済ます。しかしシュウの様子に何か足りないものを感じていたホヅミは、シュウが腕輪をつけていない事に気づいた。
「腕輪は外していくの?」
「言ったろ。あの腕輪は外していくって」
ノックが鳴って、シュウは扉を開ける。宿屋のおばさんが食事を運び込んできた。
「おばさん、さっきはありがとうございます。助かりました」
「あら良いのよ。困った時はお互い様、助け合っていきましょう?」
朝食はシチューだった。ホヅミにとっては見た事のない野菜やお肉の入った美味しいシチュー。二人のお腹を温かく満たした。
二人は宿屋を後に、昨日寄った
「何? どうしたの? さっきから」
「な、何でもねぇ」
そんなシュウの様子を不思議がるホヅミ。不意に下腹部がズキりとした強烈な痛みに襲われた。
「うっ……」
「おい大丈夫か!」
心配そうな表情のシュウがすぐ横にあった。
「うん、ちょっとズキッてしただけ」
「そうか」
やや
「か、勘違いすんな。これからお前の友達を助けにいくのにお前は必要だからな」
とそっぽを向くシュウを見て、ホヅミはクスリと笑う。
「あ、そういえば。今から行く
「何でもいい。使える能力なら使うだけだ」
二人は
「おはようございます。本日は依頼をお探しですか?」
「いいや、こいつの能力を見たいんだが」
「
「髪の毛を一本いただきます」
さっと素早い動きで受付嬢はホヅミの髪の毛を一本抜いてみせた。避ける間もない程の速度で、笑顔の下に
「うふっ、ではこの髪の毛をお手に」
ホヅミの出した掌に乗せられる髪の毛。そのやり取りにますます
「……
そう受付嬢が優しく
「わぁっ!? 髪の毛から何か浮かび上がってる」
「この魔法は分析系統の魔法の一つです。対象のDNAを含んだ物を媒介にして発動する魔法です。
受付嬢はウインクして見せる。が目の前の能力表示に目を奪われているホヅミには届かず、受付嬢はがくりと肩を落とす。
ホヅミの能力は……リリィの体の能力はというと、まず使用可能魔法系統があり、そこには全魔法と記されていた。
続いて固有魔法は分析、蘇生、天√※§°*、増幅魔法と記されている。
固有能力は魔力供給、※◎>▽°#∽√と文字化けしていた。
「あ、ああ、ああああ」
称号:魔物と人間のハーフ、†≧<√◎*
ホヅミは開いた口が塞がらなかった。
「何だ、どんな能力だったんだ? まあ
と自信満々に聞くシュウ。ふと下の方に、本・固有能力入れ替わり作動中とあった。本・固有能力とはつまり、ホヅミの本体の能力が入れ替わりの能力という意味だろうか。
「どうしたんだ? 何て書いてあるんだ。俺にも見せ」
ホヅミは
「何してやがるおめぇ!」
「や、やだなぁシュウくん。女の子のものを覗き見しようだなんて、はしたないですよ?」
「あ゛あ゛っ!? 何寝惚けてやがんだ!たかが能力だろうがコラ!」
ホヅミは友達の衝撃の事実に
「とりあえずもう行こう? 受付嬢さんありがとうございました!」
「あん!!押すなコラ!お前の能力見ねぇと先進まねぇだろうが!!」
ホヅミはシュウの背中を入口に向かって押していく。
「あら、元々私の能力なんか宛にしなくても友達を助けられるだけの
「は? いやいや、お前の能力が利用出来そうなら利用するって話だろうが! おい!」
「いいからいいから。知られたら恥ずかしい女の子の秘密も書いてあったの!」
それにはシュウも言葉が引っ込んだ。
「ちっ、何なんだよそれ」
二人は
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