第2話 はじめてのエルフ
『日本政府から緊急放送をお送りします』
古いテレビから女性アナウンサーの声が響く。
ところでだが。
セーフ・ルームには古いブラウン管テレビが置いてある。
それは学校の校庭の隣にあるゴミ屋敷。
通称:魔女の家の前の車道に捨ててあるのを拾ってきたモノだ。
本当は拾っちゃいけないのだろうが、誰も拾わなそうだし、何よりも車の邪魔そうだったので、部室に持って来てしまった。
後悔はしていない。
秋の父さんは町の電気屋で、テレビを拾ったというと、内緒で色々とやってくれた。
どうも僕たちの前にここを使っていた先代のレトロゲーム部の部員が、アンテナケーブルを部室にまで引いていたらしく、売れ残りのデジタルチューナーをセットすることで、我が部室でも地上波デジタル放送がみれるようになった。
といっても、このテレビでは普段、ゾンビ映画しか見ないんだけど。
『繰り返します。日本政府から緊急放送です』
DVDを見ようと点けたテレビからの、迫真な声に僕らは息を呑む。
テレビの画面はテレビ局内から、記者会見場のようなところの映像に切り替わる。
『只今、未知の身体構造変異ウイルスが確認され、専門家会議との協議の結果、非常事態宣言を発令する事と相成りました。えー、このウイルスの発生源は不明……』
藍色の防災服に身を包んだ、官房長官が原稿を淡々と読み上げる。
『……感染経路は粘膜接触との事ですが、このウイルスは感染者の、えー、“性的な興奮をうながし”、その思想を極端なモノに変える性質を持っております』
「ブフッ……!」
秋が、真面目なオヤジから発せられる“性的な興奮”というワードに吹き出した。
『また、感染者は体を一度融かされ、金髪碧眼で尖った耳のいわゆるエルフに似た姿に変質するという事でございます』
「くくっ……!」
今度は僕が笑いをこらえられなかった。
エルフに変質するって……どんなウイルスだよ。
『感染者は男女ともに女性に変質するので、日本国民……特に男性の方は外に出るのを控えて頂きたいと思います』
「ブフッ……プフフフッ……ブブブブブブブブブブバ……」
「変なニュースだな、ドッキリかよ。……秋?」
秋が壊れた冷蔵庫みたいに振動しだした。
何かがおかしい。
テレビの中のオヤジはそんな事、お構いなしに続ける。
『このウイルスのもう一つの特徴は、その潜伏期間が多種多様なことです。今まで安全だと思っていた知人が突如変質することも十分にあり得ます』
隣に立っていた秋の顔がドロドロに溶けていく。
「ヒッ……!」
驚いた僕は――部室の壁に立てかけられた、チェーンソーを手に取った。
そして、金髪碧眼のエルフが目の前に出来上がり、さらにその後、血しぶきが上がった。
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