全人類エルフ化!? ~僕は絶対に美少女になりたくないので、対ゾンビ戦術で無双します

松葉たけのこ

プロローグ

第0話 エルフ相手のサバイバル。


エルフとは、男の理想ファンタジーである。


古くはゲルマン神話……北ヨーロッパの民間伝承から登場し、J・R・R・トールキンによって成型された空想上の妖精。

空想であるからにして、その存在は理想である。


艶めき流れる金色の髪、目の覚めるような青い瞳。

端的に言って、最高級の美少女。

考えてもみろ。そんな存在が現実にいたら、どうなるか。

全人類の男たちが、その前にひれ伏して靴を舐めるに違いない。

プラトン先生だって、多分猛烈にペロペロだ。


そんな目標には決してなり得ない理想を心に抱いていた、あの頃。

僕はあまりにも、脳無しであった。



譲二ジョージししょー! 早くキスしようぜ」



露崎つゆさき譲二じょうじ、17歳童貞。

現在、サバイバル部の部室(セーフルーム)にて籠城中。

閉め切った扉、そして机を有刺鉄線で縛ったバリケードの向こうには、空想にして理想に過ぎなかったはずの存在が群れを作っていた。

金髪碧眼のエルフ。妖精ども。



「そうだよ、譲二くん。もう諦めたまえ」

「あの女の子のことなんて、忘れちまえよ。ジョー」

「なー、エルフになるのは楽しいぞぉ?」



日本の何処かで新種のウイルスが発生した。

ウイルスは粘膜が触れ合うことで感染し、うつれば例外なくエルフの美少女に変態する。

そう。それが男であってもだ。



「げえ……ろ過装置の水、砂っぽい味する」



僕は木炭と砂利の入った、ペットボトルを睨む。


いやいや、飲める水があるだけでも有難いだろうに。

水は生命線だ。感謝こそすれ、この神とも呼ぶべきろ過装置を睨むなんて。

不敬だ。不敬罪だ。処刑! ……なんて、一人で盛り上がっててもしょうがないか。

賢者モードになってしまったので、暇つぶしに映画でも見よう。



「今日は、ナイト・オブ・ザ・リビングデッドの気分!」



まあ、これでこの映画を見るのも24回目なんだけど。

カーテンの閉まった真っ暗な室内で、旧型のブラウン管テレビを、ボロいソファーに座り、食い入るように見つめる。


僕が籠城を始めてから、すでに2週間が過ぎようとしていた。

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