サボテン台風注意報。

今日も、じゃなかった。んと、とにかく暑い日注意報の日。

今週ずっと蒸し暑くて授業にも全然集中できなくて。こんな日はアイスでも食べに行きたい気分。

ふと、窓の外を分厚い雲が空一面を左から右へと流れる様に動いているのに気が付いた。そういえば、何日か前のテレビのニュースで台風が発生したとか言ってたような気がする。

「ねえ~、由香里ゆかりちゃん~。台風ってもう近いのかな~?」

私は教室の方に振り向くと、隣の席に座っている東雲しののめさんに声をかけた。

「そうね。今夜にも風が強くなるらしいわね」

あ、即答だっ。天気の事は興味なさそうにしてるのにちゃんと調べてたんだ。ありがとっ。

それにしても今夜かあ。なんだか気がかりなことが増えてしまった。

「そうなんだ~?じゃあ今日は早めに帰ってサボテン避難させないと~」

「あら?順大じゅんだいさんサボテン育ててるの?なんか意外」

意外ってどういう意味だろう?私がトゲトゲしてるものが好きなのが不思議だったのかな。

「そうかな~?サボテンってカワイイよ~。話しかけると元気になったりするの~」

由香里ちゃんサボテン嫌いなのかな?好きだといいな。

「へぇ、順大さんって面白い感覚を持ってるのね」

そう言って彼女は少し視線を逸らしながら、何かを考える様に唇に軽く人差し指をあてると、

「でも確かに、サボテンって人の感情に反応するっていう話を聞いたこともあるわね」

「そうなの!ちゃんと返事してくれるんだよ~」

つい嬉しくてそう答えたけど。

あれ?由香里ちゃんもしかして少し困ってる?サボテンの事詳しいから好きなのかと思っちゃったけど。違ったのかな。

私は不安になってきたので、少し首をかしげながら

「由香里ちゃん~、もしかしてサボテン嫌い~?」

思い切ってきいてみた。彼女は視線だけ私に向けると、

「特に嫌いとかはないわ。そうね、しいて言うなら何かを育てるのが苦手ってだけね」

そうか。由香里ちゃん植物の育て方を知りたいんだ。照れ屋さんだからきっと聞きにくいんだね。

私はサボテンの話をつづけることにした。

「それならよかった~。えっとね、サボテンはベランダに出してるから、台風が来ても折れたり痛んだりしないようにケースを補強するんだよ~」

それに雨に濡れると塩まみれに、と言おうとしてなんか違うと思ってそこは黙ってる事にした。

「なるほどね。台風だと雨だけでなく風で塩分も運ばれてくるから植物にはツライのかも知れないわね」

すごい!私の言いたい事わかっちゃってるんだ。さすが東雲さん頭いい人は違うなぁ。

嬉しくなってなんだかにこにこしてしまう。

「ねぇ。お願いだからそんなにキラキラした目で見つめないで」

照れる、って最後にボソっと言ったよね。実は私はそういうのも聞き逃さない人なのだっ。

でも、なんだか意地悪してしまってる様な気もするので別の話にしよう。

「そうだっ。因みに私、サボテンは―」

あっ。全然別の話になってない。うーん。でも引っ込めるのも変だし、続けていいよね。

「―あんまり日陰には置きたくなくて~、でも窓際で高温になっちゃうのもかわいそうだから~、え~っと」

「へぇ、結構デリケートなんだ」

「うん!でもねでもね、根腐れとかする時は思いきってバッサリいったりするんだけど~、ちゃんと消毒したりすればまた根が生えてくるんだよ~」

あ、由香里ちゃんさっきよりは穏やかな表情で私の話を聞いてくれてる。もしかしてサボテンに興味持ってくれたのかな。

「そうだ!今度持ってくるから由香里ちゃん育ててみたら―」

「いらない。無理」

ええええええええ!そこ即答するところじゃないよお。


でもなんか楽しい。こういうのを穏やかな関係、っていうのかな。

高校を卒業したらいつか離れ離れになっちゃうのかもしれないけど、ずっと友達でいたいな。


「ところで順大さん」

「ん~、何~?」

「2年の都築って人と兄妹になるのよね?私、順大さんのことなんて呼べばいいのかしら」

ええっ!もしかして、もしかしなくても新しいお兄ちゃんの事言ってるの?まだ言うのが恥ずかしくて誰にも言ってなかったのに。

突然の質問に無防備だった私は何も言えなくて耳まで真っ赤になってしまったらしい。

「あら?苗字が変わると結婚するみたいね、って言おうと思ったのだけれど」

言わなくても気にしてたのね、と彼女は少し意地悪くにやりとした顔をする。


さっきの前言撤回っ!ぜんぜん穏やかじゃないよっ。

もう!こんな気持ちでいたらきっとまたサボテンが花を咲かせちゃうんだ絶対っ。

私は頭の中が整理できないまま、思った言葉をそのまま口にする。

「もう!由香里ちゃんのせいだからね~!」


彼女は今日いち不思議な表情を私に見せた。

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