メトロノーム
ピッ、ポッ、ポッ、ポッ、ピッ、ポッ、ポッ、ポッ――
「突然何なの?メトロノームなんか取りだして」
「最近さ、学校の周りで変な事件が立て続けに起きてるって話、知ってるか?」
金髪頭の少年、
学校から5分ほど歩いたところにあるカフェ。洒落た店構えで内装も最近の流行を抑えてはいるのだが、客足はあまり良いとは言えずもっぱら学生の放課後のたまり場となっている。
「聞いたことあるわ。猫の事件よね」
由香里はそう言うと記憶を辿りながら噂の内容を思い出す。
事件の発端はこうだ。近くの小学校の通学路で猫の死骸が発見されたのだが、不可解なことに胃袋の中でカード型のメトロノームが鳴っていたというのだ。しかもそれはわざわざ手術を行って外から入れられたものだという噂だ。
「な?気味わりぃだろ。で、この世紀末の名探偵の俺様が事件を解決してやろうというわけだ」
「世紀末って。あんたのその頭の悪さじゃどんなに頑張っても荒ぶる脇役がいいところね」
「んだと?おい由香里、今のはちょっとひどくねぇか」
由香里は表情を変えずに口元だけニヤリとしてみせた。
「とにかく、だ。今回のこの事件を善良な市民である我々が解決しようというわけだ。うん」
「え、なに?勝手に巻き込まないで。危険なことには近寄りたくない」
「とかなんとかいっちゃって。お前謎解き大好きだろうが」
学校で事件の話してたらこーんなに耳おっきくしてたじゃねぇの、と淳也は右耳に大きく広げた手のひらをあててみせる。
お待たせしました、と注文していた飲み物が2人の目の前に出される。
――ややあって、淳也は声のトーンを下げて話し始めた。
「俺な、実は2年の
淳也の話によると、つい最近学校を出たところで四宮と出合い頭にぶつかったらしい。
「で、その時にあいつ何落としたと思う?これと同じメトロノーム落としたんだぜ」
*
一週間後。2人は再びカフェにいた。今日はそれぞれの調査結果を報告する日だ。
まずは俺からな、と淳也。
ギターの練習をしているという四宮はどうやら一人で事件現場近くのスタジオに入り浸っているらしい。後をつけたところ遅い時間までスタジオにいたとのことだった。
「な?人気のない時間帯に一人で事件現場にいるんだぜ。怪しいだろ?」
由香里は得意げな淳也を一瞥すると質問を投げかける。
「それっていつの話?」
「ふっふっふ。3日前の話だ。どうだ」
「ダメね。不合格」
なっ、と淳也。
「その日も事件は起きてるのよ。アリバイ成立ね」
ぐぐぐ、と淳也は悔しそうに唸ってみせる。由香里の入手した情報では、当日は事件現場近辺で髪の長い女性が目撃されたとのことだった。
「うーん・・・メトロノーム持ちの謎は解けたけど犯人は不明。振り出しってわけか」
「そういうこと。んじゃ私ね」と由香里。
由香里は同じ学校にいる一つ年上の従兄に頼んで、四宮の家で直接話を聞いて来たらしい。
「それって潜入捜査じゃねぇか!なんだよそれズルいぞ」
由香里は淳也の憤慨を気に留める様子もなく話を続ける。
「彼の家にウィッグがあったんだけど、それに動物の毛がついてたの」
「それだ!」
「まだ何も言ってない」
黙れ、と言わんばかりに淳也を睨みつけると由香里は話をつづけた。
「でも、本人はそもそも使ってないんだって。それに毛が付いたのは多分お兄さんの職場の出し物が理由。学校は関係ないわ」
「そうなのか。四宮の兄貴か・・・そういや、カフェで店長してるらしいな、その兄貴」
コーヒーのバチスタがなんとか――と淳也が曖昧な知識を披露する。
(・・・?)
――何か引っかかる。由香里は妙な不安を覚えた。
「ね、この話やめない?もう出ないよ何も」
「でもなぁ、俺の直感が警告を発してたんだよな。絶対次は猫じゃ満足出来なくて人になるぜ。絶対そう。案外その兄貴があやしいんじゃねぇかな」
あーあ、もっと楽しいことないかな、と飽きたように淳也は両腕を天井に向けて背伸びをする。
そろそろ閉店だから帰ろう、と由香里。
店内には2人だけ。入り口にかかった看板も既に裏返されており、店内側からOPENの文字が見える。
「ん?何か音がきこえねぇ?」
淳也は席を立つと、耳を澄ませるようにして店の奥へと歩いていく。由香里の耳にも、カウンターの奥の方で何かの電子音が鳴っている様に聞こえた。
ピッ、ポッ、ポッ、ポッ、ピッ、ポッ、ポッ、ポッ――
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