女の子になったので、女装を楽しみます!

雪の降る冬

第1話体調を崩しました

みんなは女の子になってみたいと思ったことはあるだろうか?

霜雪しもゆき紅桜あおは昔からそんな気配はあった。

女の子みたいなオシャレがしたい。

もっと可愛くなりたい。

もっと可愛いい自分が見たい。

そんな時期が僕にもあった。


その願望ねがいは日に日に強くなり、小学校を上がるごとに抑えられなくなっていた。

卒業式が終わってすぐに僕は家族に話した。


姉は、そんな僕を受け入れてくれて、可愛い服を貸したりしてくれた。

母と父も、ある程度は許容できる人ではあった。

けれど、親として俺には立派な男になってほしいという願いもあり、自分たちの前以外でならと譲れない点だけを提示して許してくれた。


その日を境に本格的に女装をするようになった。

元々、姉の服をひっそりと着ていたこともあった。

けど、今はそんな我慢をしないくていい。


そう思えて、あの時を思い出すだけで胸は躍った。

遠慮なく女装が出来て、姉も僕の事を全力で応援してくれた。

僕が可愛くなるためにいつまでも付き合ってくれていた。

そして、姉に可愛いと言ってもらえて、それだけで幸せだった。

誰かに可愛いと言ってもらえることだけが僕の楽しみだった。


けれど、中学生として過ごしていくにつれて、自分を呪っていった。

日が進むにつれ、僕の容姿は、僕の望むものとは真逆の姿へと変わっていった。

男性らしい姿へと進んでいった。


そして、中学校を卒業するとともに女装をやめた。

入学したてはとても嬉しかったのに、3年生の後期は女装することに嫌悪を抱いた。

もちろん、今でも女装したい。

もっと可愛くなりたい。


僕は典型的な性同一性障害だった。

でも、体は僕を否定するかのように育っていく。

それが嫌で女装をやめた。


姉は優しい人だったから気持ちを押し殺してまで辞める必要はないと言った。

いつまでも僕の味方だと言ってくれた。


でも、僕が嫌だった。

可愛い自分とかけ離れていく姿を見るのが辛くてしょうがなかった。

女装するたびに理想の僕になれなくなっていく苦痛に耐えられなくなっていた。


だからこそ、一方的にやめたのだ。

そして、もう終わりにしようと。

これは自分のためだ。

社会に出ていく1人の人間になるためにもう二度としないんだ。

と心に誓った。


それからと言うもの、女装をまったくしなくなった。

代わりに友達と一緒にいる時間を増やした。


高校は友達と一緒の所を選んだ。

その友達は遠山とおやまいつき

家で遊ぶ仲だった唯一の友だち。

高校に入ってもそれは変わらなかった。

ただ、彼にもこのことを伝えていない。


高校に入ると変わることもあった。

いや、変えたことがあった。

1人暮らしをするようになったのだ。


あの家に居ればまた我慢できなくなると思ったからだ。

1人で生活すれば忙しさで気がまぎれると考えたからだ。


両親に伝えると2つ返事で許してくれた。

姉は、最初は反対していたが、たまにチェックをしに行くという条件で許してくれた。


それからの一人暮らしは思っていたように忙しかった。

慣れないことの連続ばかり。

ただ、それも想定の内だった。


そんな中にいたのに、俺は気持ちを抑えられなかった。

可愛い自分をどうしても求めてしまう。

だから、少しだけなら大丈夫。

その少しのゆるみから、女性のような手入れをして、美しい体を求めてしまうようになった。

それだけでなく、化粧や美容の勉強をして、姉にも相談して見たりして、何とここの気持ちを抑えつけていた。

それで満足した気持ちにさせていた。


それから1年。

その気持ちにも変化が起きた。

女装をしたいという気持ちが薄れてきた。


理由は何となくわかっていた。

中学の友達、高校からの友達といる時間が単純に楽しかった。

俺に第2の楽しいと思えるものが生まれたからだ。


こいつらといればそれでいい。

女装以外の楽しみが出来たからこそ、気持ちの変化が訪れた。


ただ、これまでやってきたことをやめたわけではない。

今でもそれは続けている。

この2つの事で完全に封印ふたが出来ていた。


そんなこんなで、俺の高校生活は充実で来ていた。

それに、学校では美男(勝手につけられた)という称号あだなを付けられた。

男性が化粧や美容に詳しい事は嫌がれることだと思っていたが、案外そうでもなかった。

逆に女子に受けた。

たまにクラスの女子と、化粧や美容関連の話で盛り上がるほどにだ。


きっかけは姉の化粧品を買ってくるように頼まれた事だった。

学校帰りに行く予定だったが、化粧品は何を買えばわからなくて迷っていた。


これまでは自分用のものばかりについて研究してきた。

俺は男性用のものしか知らない。

女性用のものは全くの無知。

だから、男性と女性のものでは商品が大きく違うからこそとても困っていた。


その日は結局クラスの女子に聞くことにした。

女子といってもクラスのリーダー的な位置にいた黒瀬くろせ未菜千みなちさん。

とても優しく、誰にでも笑顔を向ける委員長。


俺が聞いた時も、優しく教えてくれた。

それからと言うもの、彼女の紹介から多くの女子友達とつながった。

そして、みんなからその手の話を聞いたり教えたりするようになった。


昼休憩なんかは特にその手の話をよくするようになった。

俺自身の興味と、彼女たちの興味があったからだ。

お互いに色々なことを教え合い、次の日にやってみた感想を伝えたりなど、多くの話を聞けて参考になった。


もちろん男子とも仲は良くしている。

高校から友達になったやつの一人は外の関係が広く、もう一人はうちの関係が広かった。

壱課いちか神事しんじは、外見はまじめな印象的だが、少しチャラい。

だが、コミュニケーション能力が高く誰とでも仲がいいため、外の友達が多い。


広瀬ひろせ永久とわは男性であるが、その容姿は中性的で女性とも見れる。

そして、人間性も出来ているので男子たちからとても気に入られている。


そんな充実した高校生活も、突然終わりを告げた。




―――――――――――――――――――――――

―――――――――――

――――

――




『明日はどうする?』

『俺は空いてるよ。』

『どうせなら、みんなで集まってゲームしようぜ!新作のゲームも届くし!』

『いやいや、連休の最初の日はゲームに走れば課題の山で最終日終わるって!』

『ならどこかで勉強か?』

『図書館とか?』

『図書館かー。それなら学校医の方が良くね?』

『学校って空いてるの?』

『空いてないな。』

『じゃあ、図書館確定?』

『図書館が嫌なら、紅桜の家とかは?』

『確かに!』

『一人暮らしで、他の目が無くてやりやすいよな。』


サウンドをオフにしていたスマホを見るとメッセがたまっていた。

最初の方は無駄話だったので、さらっとスクロールした。

そして、ついさっきまで話していたので最後だった。


ちょうど俺の家で勉強会をしようと言う流れ。

ただ、俺にだって事情はある。

素早くフリックしてメッセを送る。


『明日は姉が来るから無理だな。』


するとみんな俺が反応するのを待っていたかのように既読が付いて行く。

そして、みんなからメッセが。


『マジか!』

『明日は例の日か。』

『という事は一緒に勉強するのも無理そう?』


ただ、姉が来ると言っても、家が使えないだけの事。


『それは大丈夫。家を姉に任せればいいだけだから。』


するとそれぞれから反応が。


『それなら、俺の家でいいか?』

『了解。』

『グッド(絵文字)』

『了』


みんなも賛成し、俺も賛成する。

結果、明日は遠山の家に集まることになった。



そして次の日。

目が覚めると同時に体の異変を感じた。

吐き気や頭痛がひどく、体全体が重く感じる。

それに、全身が焼かれているようで苦しい。


この状態ではさすがに今日は出かけられない。

近くに置いてあったスマホを取って、3人に連絡。

みんな起きていたのか、すぐに既読が付き心配のメッセが来た。

すまないと言うメッセを送り、次は姉に連絡。

ちょうど家に来るから、ついでに薬も持ってきてもらうように連絡した。

こっちも既読が付いたが返信はなかった。


そして最後に管理人さんにも連絡を入れる。

このままだと姉が来ても俺が出迎えられないから家に上げられない。

だから、管理人さんに事情を説明して、姉にマスターキーを渡してもらっておかないといけない。


するとすぐに返信が来た。


『それなら、氷柱ちゃんが来た時に一緒に行くね。』


という文面。

この文面から分かるように管理人さんと姉はちゃん付けで呼び合うような仲(管理人さんが一方的に)。

管理人さんは本名を望月もちづき百々もも

俺は百々姉と呼んでいて、姉と管理人さんは高校生の時からの友達。

だからこそ、俺が頼めば姉にマスターキーを渡してくれる。


さらに俺が昔女装をしていたことを知っている人間。

しかし、そんな俺に嫌悪感を抱きはせず、今日まで優しく接してくれていた。

時に、化粧品店を回る仲でもある。

それぐらい善人な人だ。


ちゃんと連絡をすましたら、後は寝るのみ。

こういう時は無理をせず寝ておくべきだ。

俺は布団にもぐり直してそっと目を閉じた。



――――――――――――――――――――

―――――――――

――――

――




扉の開く音がした。

寝ていたはずなのに思ったより聴覚が敏感だった。


「お姉ちゃんが来たわよ!」


その後すぐに大きな声。

いつもなら元気な声だなと笑っていられたが、今は頭に響きただうるさいだけで迷惑この上なかった。

それにしても、こっちは寝ていると分かっているのにさらには病人と伝えていたんだ。

なのに、この有様。

普通病人がいるとき大声出さないだろ。


一旦心を整理する。

姉がうるさいのは一万歩譲って良いとして、今は体の自由があまりない。

今朝起きてから時間が経っているのにもかかわらず、一向に治る気配はなく苦しいままだ。

だから、出迎えれない。

それに、さっきの大声で、頭に響いてさらに悪化している気がする。


こうなったら出迎えるのは諦めるとして、布団にもぐる。

しんど過ぎて寝ていたいのだ。

俺は布団にもぐりこんで、この苦しみを忘れさせようと努力した。


ただ、姉はそんなことを気にせず俺のベットがある部屋に入ってきた。

扉の開く音でそれが分かった。


「まだ元気がないの?それとも寝てるだけ?」

「起きてるよ。けど、頭痛がまだして寝てるんだ。だからあまり大きな声を出さないでくれると助かる。」

「そっか。それと風邪もひいてる?声がいつもと違うわね。」


言われて気づかなかったが、確かにいつもより高い気がする。


「ちょっと風邪薬を買ってくるわね。」

「んー。」


姉が買いに行くのを感じた後、また寝ることにした。


それから俺が起きたのは13時ごろ。

姉が俺の事を配慮してくれたのかなるべく音をたてないようにしてくれていたらしい。

おかげでぐっすり眠れていた。


姉に揺すられ、心地よく目が覚める。

それと共に、美味しそうな匂いが鼻に漂ってきた。


「お昼ご飯作ったけど食べれる?」

「あー、うん。食べる。」


頭痛はまだしているが、それ以外は今のところ大丈夫。

朝ご飯を食べていなかったので、お腹も少しは空いている。


「ついでに薬も飲もうね。さ、布団から出てきて。」


姉に言われて、毛布を取る。

俺は上半身だけだして姉の顔を見た。


「…‥…え?…………あ、え、…う?‥……んんん??????」


姉は俺が起きるなり固まってしまった。

しまいには俺の体中をじろじろと見渡していた。


「どうした?」

「……あ、その、いや、えっと、誰かな?」


意味が分からない。

自分の弟に向かって誰って。

あまりにひどすぎるだろ!

それに、なぜかテンパり始めたし。


「おふざけとかはやめてくれよ?今日はしんどいんだから。」

「あ、うん。ごめん?………て、え?なんで私怒られてるの?え?」


マジで姉の様子が変だ。


「ちょっと動かないでね?」


そう言うなり姉は自分のスマホを取りに向かった。

そして、スマホを取るや否や誰かに連絡していた。


『ねえ、さっきはお昼ご飯食べてていいよって言ったけど、今すぐ来て!‥‥うん、うん。‥え?今すぐ無理?化粧がまだ?……そんなことどうでもいいから早く来て!…何があったかって?大変なの。弟が…ついに手を出しちゃったの!‥‥誰にって?そんなの、幼女に決まってるでしょ!冗談って?違うって、本当なの!だから今すぐ来て!うん。本当だから今すぐ!』


向こうは俺に聞こえてないと思っているらしいが、バカでかい声が頭に響いている。

会話的に、相手は管理人さんの百々姉だな。

それにしても聞えてくる言葉は怪しいものばかり。

俺が幼女に手を出したって?

そんなことするわけないだろ!


「何を電話で言ってるんだ!冗談にしてはシャレにならないって!?」


俺が注意すると、何故か俺を憐れむ様に見てきた。


「あの子にそう言うように言われたのね。可哀そうに…。でも大丈夫。もうすぐ助けが来るわ。」


そう言って、姉は俺を抱き締めた。

何故か子供扱いをされているようだった。

しかし、今日の姉はいつもより一際大きく感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る