起きたらタイーダの酒場とかいう所に居た

きゅーびー

第1話 家に帰りたいだけのクソガキの物語


 いつものように目が覚める。

 目を開ければ知らない天井。

 ゴワゴワした布団の上で目覚めた。

 訳が分からない。


 俺は部屋でふかふかのベッドで寝ていた筈だ。


 けど目覚めたのは木造の家のベッドの上。


 疑問や不安は多々あるが、こうしていても何も解決しないのは明白なのでとりあえず動く事に決めた。


 考えるよりも先に動くのが自分の長所であるというのは理解している。



「何処だよここ……」




 とりあえず、ベッドから起き上がって周囲を見回す。


 まるで古臭いRPGゲームに出てくる宿屋のような簡素な部屋に辟易しながらも部屋の扉を開けて部屋から出た。


「なんで俺がこんな所で寝かされてんだ?クソが!イタズラにしては質が悪すぎんだろ!」


 悪態を付きながら部屋の外にあった木製の階段を見つけた。遠巻きに人が喋っているだろう声が聞こえてきた、何を言っているのかは聞き取れないが下に人が居る事は分かった。


「……危険かもしれねぇが、行かないって選択肢も無いな」


 一瞬考えたが、どうせこのままで居たとしても何も変わらないので多少慎重に階段を一段一段下りていく。


 木製の階段は降りる度に軋みを上げるが、その音は階下から聞こえてくる声や怒号にかき消されていた。


「うるせぇな……何をそんなに騒いでやがんだ……つかマジで何処だよここは!」


 訳の分からない状況にイラつきながら階段を下りていると、何やら酒臭い。


 それと見たことも無い鎧を着ている男が木製のジョッキ片手に何かを飲んでいるのが見えた。


「なんだよここは……あの鎧野郎ファンキーな狂った輩にしか見えんぞ……大丈夫かこれ」


 今まで自分が住んでいた日本では見たことも無い鎧姿の男に恐怖を感じながらも意を決して、階段を下りきった。


 そこには20個程の丸テーブルが置かれた広いスペース、そのテーブルの周りには鎧や甲冑、レザーで出来た防具を身に纏う人、人、人。


 流石の俺でも混乱した。


 起きたら訳の分からん場所に寝かされてて、起きて下に行けば訳の分からん防具を着けてる輩共が騒ぎながら酒を飲んでいるのだ。


 混乱するのも仕方のない事だろう。


「おっ!起きたのか!怪我は無さそうだったからポーションも使わずにとりあえずベッドに寝かして置いたんだが……お前さん何者だ?この辺じゃ見ない顔だし、武器も防具も無しであんな場所で気を失ってたし」


 俺の顔を下から覗き込むように赤髪のバーテンダー風の装いの女が声を掛けてきた。

 

 ド派手な髪色だが、顔は西洋風で整っているので不自然さは無い。


 言葉は通じるようなのでこちらからも返事を返す。


「知らん!ここは何処だ?お前は誰だ?」


 疑問は多いが、場所を聞かない事には帰る事もままならない。


「尊大な奴だなぁ……まるで貴族みたいな口の利き方だしよぉ……まぁ良いか!ここは冒険者が集う<タイーダの酒場>さ!そして店主はこの俺!タイーダ様だ!森で気を失っていたお前をわざわざ二階の部屋に寝かしてやった優しいお姉さんだよ!覚えときな!」


「そうか、それでここは何県だ?まさかとは思うが、九州じゃないとは言わないよな?」


「なにけん?きゅうしゅう?何言ってんだお前は?ここは王都にある酒場の一つさ!なんか変なもんでも食って頭可笑しくなっちまったんじゃねぇだろうな?」


「ふむ、少し考える時間をくれ……」


 赤髪の女タイーダに一言断ってから、今得ている情報から色々と考える。いつもなら考えるよりも先に動く俺だが流石にこの状況では考えざるを得ない。


 起きたら知らないベッドに居た。


 下へ行けば訳の分からん輩共が酒を飲んでいた。


 赤髪の女タイーダ曰く、森で気を失っていた俺を運んで寝かしてくれていた。


 武器や防具を身に着けるのが当たり前。


 日本であれば県や九州を知らない筈が無い。


 言葉は通じるので日本語で会話出来ている。


 王都という所にある酒場<タイーダの酒場>


 日本には王都なんて無い。


 導き出される答えは1つ。





















「国外かよ!」


 もうこれは誘拐だろう。


 一刻も早く日本領事館なり、大使館なりを見つけて日本へ帰る手段を見つけないとマズイ。




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