朝食界のカリスマ

基津佐(もとつさ) まきじ

第1話

今日は私が生まれた日。

あなたは自分が生まれたての頃のことを覚えていますか?

いつどこで、誰があなたを生んだのか。

そして、そのときの生みの親は、どのような思いであなたを生んだのか。

私は覚えています。

なんでかって? それは秘密です!

生まれたての私たちは、基本親や環境を選べません。

同じ場所で生まれた仲間たちとも大抵離れてしまいます。

ですがずっと一緒にいる仲間もいます。

だいたい4〜8で。



数日が経ち、私たちは母親と共に家へ向かいました。

広い庭、とてもきれいな部屋、生まれた場所にはなかった未知のものたち。

ここが我が家か……と興奮を隠しながらも感じます。

私たちの親、そして環境はとてもいいようです。

母親は私たちを抱えて、カゴのようなものの中にそっと置きました。

それから母親は風呂に入り服を着替え、歯磨きをしてから寝てしまいました。

どうやら仕事の帰りに迎えに来てくれたのでしょう。

私もその日はすぐに眠りにつきました。



ドタドタッ──地震のような揺れと、大きな音が私を夢から乱暴に引きずり出しました。

私は一目瞭然、ならぬ一耳瞭然でこの音の主が元気な子供の足音だとわかりました。

あまりにも元気が良かったので、不快な気分にはなりませんでした。

しばらくすると、母親が私を抱き起こし、私の体に何かベビークリームのよいなものを塗りました。

私はそのまま母親に運ばれて、暖房の効いた部屋で台に座り冷えていた体を温めました。

母親は私のことを心配してか、近くで私を見ていました。

先程塗ったクリームのようなものが、温かさによってどんどん染み込んでいきました。

ほれから、何かが焼けるような芳ばしい匂いが部屋中を歩き回ります。

私が温かさに酔いしれているうちに、着々と朝食が用意されていきます。

私はこれから初めての朝食。

緊張と興奮で私はさらに赤くなります。

既にテーブルには家族人数分の料理が並べてありました。

そして私の正面にはちょうど母親が座っています。




今日は初朝食記念日。

昨日は私の初めての日。そして今日が私の終わりの日。

「いただきます」家族が口と手を揃えて言いました。



私は思う……!



私を美味しく召し上がれ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝食界のカリスマ 基津佐(もとつさ) まきじ @gyrowolf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ