第161話、本当の同調。
ラウルから力の制約を解いてもらった俺はゼウスの剣撃を跳ね返す。
(ヴォイス。街に結界を張れるか?)
(あの衝撃に耐えられる結界は少し難しいと思いますが、できる限りはやってみたいと思います。)
(あぁ。頼む。)
魔法は無しだな...。街が壊れてしまう。
仕方ない、剣技で行く。
圧倒的な力の差を見せてやる。
俺は浮遊魔法で空に浮かんでいるゼウスに近づく。
「ん?どうした?降参か?」
「バカを言うな。
ここからは俺のターンだ。」
俺は集中して構える。
辺りの音も消え、聞こえるのは心音のみ。
ドクン...。
ドクン...。
ゼウスが一瞬動いた隙を見逃さなかった。
[一閃乱舞]。
俺が速すぎるのか、全ての動きが自分の動きまでもスローモーションに見え感じた。
一撃。
さらに一撃。
俺の全ての攻撃がゼウスに当たる。
ゼウスは反応できていないのか全く防御が出来ていない。
無情にもソーマの身体は攻撃に耐えられなくなり手足が斬られて地面に落ちていった。
「ここまでの力を隠し持っていたとは...。
驚いたぞ。コウ・タカサキ。
だが...。」
ソーマの身体から斬られた手足に向かって黒い影が伸びて回収し、手足がくっついた。
「不死身かよ...。」
「我は神だからな。このくらいは造作もない。しかし、いいのか?」
「何がだ...?」
「この街全てが人質ってことだ。
こんな風にすればお前は動けまい。
ゼウスが街に向かって極大の炎魔法を放つ。
(マスター!私の結界じゃ持ちません!!)
クソッ!!マジかよ!!
俺は[瞬歩]で極大の炎の下に入り結界魔法のサポートをする。
しかし、炎は段々強くなり結界だけでは押さえられない。
「それなら...。炎ごと凍らせてやる。
俺の放った氷魔法が巨大な炎を包みこんでいった。
「お前にとってはこの街は重しだな...。
隙だらけだぞ。」
俺の耳元から声が聞こえた瞬間。
ゼウスの腕が俺の身体を貫通させた。
「ぐわっ!!」
「あった...。くくく。」
ゼウスが腕を引き抜くとその手には俺が魔族が現れたダンジョンで手に入れた2本の魔剣があった。
収納魔法に干渉したってことか...。
そんなことが出来るのか。
距離をとって貫かれた身体に回復魔法をかけようとしたのだったが。
貫かれたハズの身体は何ともなっていなかった。
何故だ...?
俺が不思議そうな顔をしていると、ゼウス不敵な顔でが語り始める。
「クックック。
何不思議そうな顔をしているんだ?
お前は我の大事な依り代だからな。
まだ壊すわけにはいけない。」
(アニキ。
アイツはアニキに...。)
ラウルの言葉が聞こえているがすごく遠くに聞こえる。
あぁ...。分かっている。
俺は今おかしい...。
分かっているのだがゼウスの言葉を聞くと何故か段々と殺意が沸いてくる。
殺したいという衝動にかられる。
俺がそのまま殺意を持ってゼウスへと構えた。
(お兄さん!!抑えて!!このままだと私たちも...。)
(悪意が流れておかしくなるの...!?)
抑えたい...。
しかし、抑えられない。
何故?
俺の中の疑問は膨らむと同時に殺意まで膨らんできた。
「そんなに殺意を持って
お前の殺意にこの身体は耐えきれると思うのか?
お前がどう思うかは我はどうでもいいがな。
その方がお前の身体を乗っ取りやすくなるからな。クックックッ。」
ゼウスは分かりやすく挑発をしてくる。
これは罠だと分かっているが沸き上がる殺意が止まらない。
(バカヤロォォーー!!)
ラウル?
(アニキ!!あんな分かりやすい精神魔法に何呑まれているんだよ!?)
精神魔法?
そんな素振りは...。
(オイラが状態を緩和してやる。
オイ!!アニキの中にいるアンタ!!)
(わ、私ですか...?)
(アンタしか居ないだろう。
アンタはアニキの
何やっているんだ!?
アニキを守るのがアンタの役目じゃないのか!?)
(私は...何をして...?)
(しっかりしろよ!!今アニキは精神魔法を喰らってヤバイんだ。オイラが抑えているがオイラだけじゃ抑えられない。アンタも手伝ってくれ!!)
(は、はい...。っていうか貴方は誰なんですか?)
(そんなのは後回し!!早くしろよ!!)
(は、はい!わかりました!!
えっと、精神魔法ってことは、それを解呪すれば良いわけで...。これだ!!
ヴォイスが魔法を唱えると聖なる光に包まれる。そして、俺に渦巻いていた殺意がスーッと消えていった。
「ありがとう。ラウル、ヴォイス。冷静になれた。」
(本当アニキ、頼むぜ~!!オイラには戦う力はないんだからさ!!)
(マスター...。すいません。
他の事に気を取られていてサポートするのが遅れました...。)
他の事...?
(はい...。その事は後で話します。)
分かった。
とりあえずは
俺は改めてゼウスと向き合う。
ゼウスは何やら不機嫌そうに、
「殺意が消えたか...。つまらん。
お前の中にいる裏切り者の仕業か...。
興が冷めた。まあ、本来の目的は果たしたしよしとするか。」
「目的?」
「寛大な我が教えてやろう。我の目的はこれだ。」
ゼウスは2本の魔剣を手に取ると、
「我が命ずる。アズライール、カマエル。
我の元に戻れ。」
すると、2本の魔剣が真っ赤に光り人の姿に変わっていく。
その姿は、帝国で倒したハズのアズライール。
もう一人は王国剣舞祭で倒したカマエルだった。
2人はこちらを恨めしそうに見た後、ゼウスに吸収されていったのだった。
「ほう、これは中々心地いい。
2人のお前への恨み、憎しみの力が我に入っていく。」
俺は今起きたことに言葉が出ないままにいた。
俺はとんでもない事をしでかしてしまったんじゃないか?
俺が止めるしかない。俺が...。
聖剣を持つ手に力が入る。
(アニキ、落ち着いて、大丈夫だから。)
(私たちがついてるよ。)(一人じゃないの。)
(マスター。私たちを信じてください。)
みんなの言葉が心に染みる。
俺は何一人で焦っていたんだ...。
俺には信じてくれる仲間がいる。
力を合わせてくれる皆がいる。
信じよう、皆を。
信じよう、自分を。
俺はそっと目を閉じる。
感じる...。
ラウル、アスタ、リスク。そして、ヴォイスの想いが。...願いが。
これが本当の、
目を開けると俺は七色のオーラに包まれていた。
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