第76話準々決勝その1



一夜明けて俺はベッドから起きてグッと背伸びをした。

ヴォイスのマッサージのお陰で身体は疲れもなく絶好調になっていた。


「ヴォイス。いつもありがとうな...。」


俺は小声で言ったつもりだったんだが、


「むふふ...。嬉しい。」


ベッドで横になっているヴォイスは笑顔でそう答えた。


「起きてたのか...?」


俺は少し恥ずかしくなって顔を赤らめる。


「恥ずかしがってるマスターも可愛いですね。」


「そんなこと言ってないで準備するぞ。」


「もう...そんなに急がなくてもいいのに...。」


俺達は準備を済ましてアルト達と合流した。

そして、昨日と一緒でアルトとリアは図書館へ、俺とヴォイスとラテはコロシアムに向かった。


「ヴォイス、ラテ!

今日も掛け金は全部俺に賭けておいてくれよ!!」


「当たり前じゃない!!バッチリ稼ぐわよ!」

ラテ...目がお金になってるぞ...


「そうね!マスターは必ず勝ちますから...美味しい料理...」


ヴォイス...お前は食い気かよ!!

まぁいいけど。


「ちゃんと周囲の警戒とリングの警戒もしておいてくれ!!」


「「はぁ~~い!!」」


緩い返事が返ってきた。

本当に大丈夫か...心配になってくる。

俺達は別れて、俺は控え室に向かう。


控え室に入ると昨日より禍々しい気配のヘンリーとカマエルが遠くに座って居た。

俺はボロックの側に行く。


「おはよう。ボロック。」


「コウ...。おはよう...。コウ、何か変じゃないか?」


「ボロックも気付いたか...この禍々しい気配に...

他の選手は洗脳はされてないみたいだ。

だけど油断は禁物だぞ。」


「あぁ。注意して置くよ。コウも気を付けて!」


「あぁ。」


2人はカマエルに注意しつつモニターを眺める。


「さて大会3日目。

本日は準々決勝と準決勝を開催します。

残りの選手は8名、誰が決勝のコマに進むのか!!非常に楽しみであります。」


オォォ~~!!!

相変わらず会場の熱気がスゴい。

実力者だらけだから楽しみになるのは当然か...


「さて、本日準々決勝第1試合のオッズを発表します。

東洋の流浪人ムサシ・コジロウ選手2、2倍!

対するBランク冒険者コウ・タカサキ選手15倍!!

オッズに差が出てしまいましたね。

昨日の試合内容でしょうか!

試合開始まで残り10分。

賭けるならお早めにお願いします。」


15倍ってヤバくない?


(マスター!!スゴいですよ!!この試合でかなりの大金持ちになっちゃいます!頑張ってください!!)


あぁ...

ヴォイスが喜んでくれて何よりだ。

なんとも緊張感なく俺は闘技場に進んでいった。


遅れて、ムサシも入ってきた。対峙するとわかる。彼は達人だ。

レベルでは俺の方が全然上、だけどもムサシの持つオーラが物語ってる。


「それでは準々決勝第1試合始め!!」


カーン!!


試合が始まった。

俺より先に動いたのはムサシだった。


「朧月。」

彼はそう言うと辺りに薄い霧が発生する。

と思った瞬間。

ムサシが分身した。一人...また一人...。

合計10人。

俺は目を瞑り集中する。

本物は1体。残りの9体は幻。

ムサシの気配を探るが感知しづらい。

この薄い霧のせいか...

俺は二本の剣を霧を飛ばすように力一杯振った。

その剣圧で竜巻を出して霧を飛ばす。

幻影も全て消し飛びムサシ本体が現れてそこに剣を振るが感触がない。


すると、俺の後ろから気配がした。

「もらった。朧2段斬り。」


俺はとっさに剣を縦に構えて防御体勢をとる。

...が一段目の剣撃が俺の剣をすり抜ける。

そして、二段目の剣撃がもろに脇腹に入った。


ズシャッッ!!


斬られた傷口から鮮血が激しく宙に舞う。


「ちぃぃ。厄介な技を出しやがって...。ヒール。」

俺は即座に回復をする。

今度は俺の番だ。

俺は心を落ち着かせた。

川の流れのように自然にムサシに近づいていく。

これは師匠との修行で覚えた技だ。


ムサシは俺に剣撃を振るうが俺は川の流れのように全ての剣撃を受け流していった。

そして、ムサシが出した一瞬の隙を逃さずに、


「剣聖。一の剣。波紋水明。」


俺は剣を鞘に入れて、ムサシの腕を



トン...。


と叩いた。


ムサシは何事もなくキョトンとしている。が...

次の瞬間すさまじい衝撃が次々とムサシを襲う。


波紋水明はもんすいめい

静かな水面に波紋が広がるように徐々に威力が膨らんでいく剣技。


本当は剣を鞘にしまわないで行うのだがそんな事をすれば殺してしまうと思ったのでかなり加減して攻撃をしたのだった。


その衝撃でムサシは場外まで吹っ飛んでいった。

そして、腕の骨はぐちゃぐちゃになっていたのだった。


「勝者!!コウ・タカサキ!!

救護班は直ちに来てください。次の試合まで20分休憩とします。」


自分でやった事だがムサシは大丈夫だろうか?

そんな心配をよそに場内は俺が勝つとは思ってなかったらしく、ブーイングの嵐だった。


なんなんだコイツらは...

苦戦すれば文句。勝てば文句。

だからギャンブルする奴は嫌いだ。


そんなこと思っているコウだが彼も前世ではギャンブルで狂ってた所もあったので本当は何も言えないのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る