小牧原美心はいただきますが言えない 12
階段を下った先には、一枚の張り紙と防火扉が待ち構えていた。
「何かしら……?」
來華が張り紙を読む。
―――――――――――――――
ここから先は最終フロア。下駄箱。
あなた達を逃がすまいと、クビキリさんは更に力を増して襲ってきます。
ターゲットを変更してから三十秒間は、新たに名前を呼んでもターゲットが変わりません。
精一杯逃げてください。
また脱出エンドとは別に、全てを解決させたグッドエンドがあります。
制限時間は三十分。
犠牲を払う覚悟が決まりましたら、扉を開けてお進みください。
―――――――――――――――
「……だそうよ」
「最後にすげぇ不穏な事書いてあるんだけど」
「……どんな内容なんだろう」
怖がる美心。
「なんにせよ、まずはアイツに捕まらない事ね。今は小牧原さんに憑いているけど、どうする?」
「今回は私も出来るだけ逃げて時間を稼ぐよ。三十秒の制限もあるし、次に回す人からなるべく離れた方がいいと思うの」
「じゃあオレと東雲で行動するか。小牧原はヤバくなったらオレに回してくれ」
「うん、分かった! ……ていうかテルキチ。さっきは私の事、美心って呼んでくれたのにまた小牧原に戻ってる」
美心が目を細めて言った。
「あぁそうか。つい癖で」
「小牧原さんは、そんなに吉祥寺君に下の名前で呼んでもらいたいの?」
「え? うーん。どっちかというと呼んでもらいかも。もちろん來華ちゃんからも」
美心は笑ってそう答えた。
「私からも……?」
「うん。だってなんていうか、そっちの方が友だ――……親しい感じがするじゃん」
友達と言いかけて言葉を変えたのを雪輝は聞き逃さなかった。
「……分かったよ。美心。こう呼べばいいだろ」
照れ隠しか、仕方なくといった口ぶりで雪輝はツンと言い放った。しかし美心の方は満足げに頷く。
「ありがと、テルキチ」
「いや、オレは結構テルキチなのかよ!」
「テルキチはテルキチだもん。これは一生変わんない」
そう言って美心は笑った。
「……まぁもういいや。そろそろ行こうぜ」
「うん!」
二人がそう言うと、來華が防火扉のくぐり戸のドアノブに手をかけた。無言で振り返り、雪輝と美心に一度アイコンタクトを送ると、その後恐る恐るといった具合で扉を開く。
くぐり戸を抜けた三人の眼前に広がるのは少し広めの下駄箱。
入って雪輝がまず思ったのは、クビキリさんから隠れずらそう。という事だった。先ほどまでのフロアは教室が二部屋あり、まだ隠れながら逃げることが簡単だったが、ここは部屋で区切られていない。一応下駄箱の列で壁が出来てはいるが、常に同じ部屋で追いかけっこをする事を強要される。その上であの三十秒のクールタイムのルール。謎解きはまだ出てきていないが、生き延びるという事に関しては、確実に難易度が跳ね上がっていると雪輝は感じた。
三人の前には、向き合うような状態で人の身長程の高さの下駄箱が五列並んでいる。右手側と正面の先は壁になっていて、左を向くと玄関と思しき扉が見えた。
雪輝と來華は美心を防火扉前に残して、二人でまずその玄関の元に向かう。扉は四桁のダイヤルロックで閉ざされていた。こちらの壁はガラス張りになっており、その向こうは外の景色のようなセットになっている。外は広くなく、数メートル程のスペースに茂みが置かれているだけで、二人の位置からも『出口』と書かれた看板が茂みの先に掲げられているのが見えた。
「今度は数字を探すのね」
「とりあえず探索するか。おーい美心」
雪輝は振り返って、防火扉の前に佇む美心に声をかけた。
「ダイヤルロックだ。四桁ある。とりあえず探索するから、美心も俺らと離れながら見てまわってくれ」
「わ、分かった……!」
雪輝と來華は玄関のガラス沿いに、一列目の下駄箱の超えた先に進む。
例の悪霊が潜んでいる可能性もあると考え、恐る恐る下駄箱と下駄箱の間を覗く二人。
しかしそこにあったのは……制服姿の首のないマネキンだった。
「……んぃっ」
來華が思わず声を漏らす。雪輝も額に汗を滲ませている。
「うわぁ……マジで寒気した」
「なんなのよこれ……」
雪輝の背後で來華は彼の裾をつまんだ。
離れて行動をしている美心も、二人の反対側から顔を覗かせてこの光景を目の当たりにした。口を手で覆い、目を見開いている。
下駄箱にもたれ掛かる様にして力なく倒れているマネキンは、女子生徒の制服を着ており、首から先が無く、その断面には赤い塗料が垂れる様について固まっていた。マネキンではあるのだが、この暗がりの中に制服姿で倒れている様相は、一瞬本物の死体の様にすら見える。血を垂らした首なしの女子生徒の死体。
眺めていても仕方ないので、雪輝は背中の來華の手を払い、意を決してそのマネキン一人でに近づいた。するとマネキンは音を立てて横に倒れる。
「うおっ!」
流石の雪輝も声を出して驚いた。
「……ビビらせんなよ」
向かいで見ていた美心が、ビビる雪輝を見て笑った。
「あははっ。テルキチ驚き過ぎ」
「うるせぇ。つか美心はちゃんと周りの方を確認してろよな。いつクビキリさんが現れるか分からないんだぞ」
「おっと、そっかそっか」
美心はそう言って周りを見渡した。
床に倒れたマネキンに触れる雪輝。血の部分のペンキは完全に乾いており、触っても手に着くことは無かった。ただ、制服がしっかりとした作りだった事もあり、まるで本物の死体に触れているような感覚を雪輝に与えた。
多少戸惑いながらもポケットに手を入れて中を探る。その頃には背後から來華も近づいてきており、マネキンをまさぐる雪輝の隣に腰を下ろしてその様子を伺っていた。
「何か入ってる?」
「いや……何も」
「スカートの方は?」
「スカートってポケットあるのか?」
「えぇ……その今触ってる所らへんの裏に」
指示通りに手を動かしてポケットを探す雪輝。その様子を來華が見つめる。
「……なんか、手つきがやらしいのだけど?」
「気のせいだよ!! ……あった」
強めに否定しつつ、左手側のホックの下にポケットを見つけた。浅めのポケットに見えたが、実際に手を入れてみると手首までしっかりと飲み込まれた。
「何か入ってるぞ……」
そう言って雪輝はポケットから一枚の紙を取り出した。
「……紙?」
「あぁ。何か書いてある」
―――――――――――――――
一人目。
殺す前に髪を切ってやった。
これでおあいこ。
―――――――――――――――
「これってもしかして……」
來華は上のフロアで拾った日記帳を取り出した。マネキンのポケットに入っていた紙はその日記帳と同じサイズで、破れていたページの中の一つにぴったりと当てはまった。
「吉祥寺君、胸ポケットは?」
「あぁ、そうだな。ちょっとまって」
そう言って胸をまさぐる。すると來華はまたその雪輝の手つきをじーと見つめた。
「おい、また変な事言うんじゃないだろうな……?」
「言わないわよ。で、どう? 何かない?」
そう尋ねた時、雪輝は胸ポケットから手帳のような物を取り出した。
「これは、学生証か……。おっ、名前が分かるぞ」
雪輝は学生証を開いて読み上げる。
「この生徒の名前は加藤由佳だ」
その名前を聞いて來華ははっとした。
「加藤由佳って――」「きゃぁっ!」
來華の言葉を遮る様に、下駄箱の裏で美心の短い悲鳴のような声が聞こえてきた。
「どうした!」
雪輝が叫ぶ。
「こ、こっちにも……し、死体がっ」
雪輝と來華は立ち上がって美心の方へ向かった。
一つ下駄箱を挟んだ先に美心は立っていて、その足元には、今度は男子生徒の格好をした首なしのマネキンが落ちていた。
「おいおい、二体目かよ……」
「これ、もしかして……」
來華はもう一つ下駄箱を挟んだ先に向かう。
そして、そこでも同じような光景が広がっていた。
「吉祥寺君……こっちにもあるわ」
「つーことは……」
下駄箱は全部で五列ある。一列目と二列目の間に加藤由佳のマネキン。二列目と三列目の間に美心の見つけた男子生徒のマネキン。その次に今來華が見つけた、これは女子生徒のマネキン。という事はその先にある四列目と五列目の下駄箱の間にもと思い、雪輝は走った。
「……あったぞ、四つだ。マネキンの遺体は全部で四つある」
雪輝は最後のマネキンを見つけて言った。それは男子生徒の制服を着ていて、他と同じように首から上が切り取られていた。
念のため、雪輝はその下駄箱の裏にも回ってみたが、そこには何も落ちていなかった。ただ壁と挟まれた通路になっている。
とりあえず順番に確認しようと、美心の見つけた二番目のマネキンの元に戻る雪輝と來華。
また同じようにポケットを漁ると、先程と同じく日記の切れ端と学生証が見つかった。
切れ端にはこう書かれている。
―――――――――――――――
二人目。
後頭部を殴り潰してから首をはねてやった。
これでおあいこ。
―――――――――――――――
学生証を調べると、その生徒の名前は『竹中浩二』である事も分かった。
「やっぱり……」
名前を確認して來華がそう呟いた。
「そう言えばさっきも名前に引っかかっていたよな」
「……ええ。予想しましょうか、残りの二体のマネキンは『本田奈津子』と『和田翔太』の二体よ」
「え?」
雪輝は驚きの表情で彼女を見つめた。するとその時、下駄箱を挟んだ先から美心の声が聞こえてきた。
「來華ちゃんの言う通りだよ」
美心が二枚の紙と二冊の学生証を持ってきて言う。
「ここの一つ先にあった女子が『本田奈津子』で、一番奥のマネキンが『和田翔太』くん。あとこれ切れ端」
本田奈津子のマネキンから回収した日記の切れ端。
―――――――――――――――
三人目。
腫れるまでビンタしてから首を切り取った。
これでおあいこ。
―――――――――――――――
和田翔太のマネキンから回収した日記の切れ端。
―――――――――――――――
四人目。
頭陀袋に入れてサンドバックにしてから首を切り取った。
これでおあいこ。
―――――――――――――――
「しかしどうして分かったんだ?」
雪輝が來華に尋ねる。
「吉祥寺君はあの日記帳をまだ読んでなかったわね。あの日記はクビキリさんが、生きてた時に受けたいじめを記した日記だったの。そこに書かれてた四人の人物が、今ここで首なしの遺体になっているわけ」
「……なるほど」
「例のダイヤルロックって確か四桁だったよね?」
美心が尋ねる。
「あぁ、そうだったよ」
「このマネキンの数も四つだし、やっぱり偶然じゃないのかな?」
「えぇ、まぁそう考えるのが自然ね」
「分かりやすいところで、その生徒たちの出席番号とかはどうだ?」
雪輝がそう言うと、來華はポケットから最初の教室で見つけた名簿を取り出して確認した。
「加藤さんは1番。竹中さんは7番。本田さんは9番で和田さんが16番。このままだと五桁になってしまうわね」
「まぁそんな簡単にはいかんわな」
「とにかく、それぞれのポケットに入っていた日記の切れ端を読み解きましょう」
「書き方のフォーマットは共通していたな。一行目の数字は恐らく殺した順番。二行目はその方法。そして三行目は『これでおあいこ』の定型文。これは何かの暗号か?」
「いいえ。二行目に書かれている文言が、日記にあった彼が受けたいじめと同じ内容だったから、恐らくやられた事の仕返しをして『これでおあいこ』って意味だと思う。これまでの問題の傾向から考えると、単純ななぞなぞとか、暗号とか言葉遊びとかでこの問題を作っているとは考えにくいわ。きっと見落としている言葉の別の意味があるはずよ」
「言葉の別の意味ね……」
雪輝が顎に手を当てて考えていると、少し離れた位置にいる美心が「そういえば」と声をあげた。
「來華ちゃん、日記帳の破れてるページは全部で五ページ分あるって言ってなかった?」
すると來華もその事を思い出す。日記帳の鍵を開けた時、確かに破れていたページ数を数えていた。そして美心の言う通りその枚数は五枚だった。
彼女は再度日記帳を開いて破れていたページを確認する。
「そうだった。確かに五ページ分破れていたわ……すっかり忘れていた」
「つまりもう一枚紙がどこかに隠れているっていうのか?」
來華は頷いた。
「よし、じゃあまたちょっと探索するか。下駄箱も横目程度にしか確認していないしな。階段側から順に調べてくよ」
雪輝はそう言って、入ってきた防火扉付近に戻ろうと動き出した。
するとその時、防火扉前に佇む悪霊と雪輝は目が合った。
「んなっ……!」
雪輝が声を上げると同時に悪霊も動き出す。その視界にはまだ美心が映っていないのか、ゆっくりと前に進んで、雪輝の横を通り過ぎた。
「あっ、ちょ! いる! クビキリさんいるぞ!」
慌て気味にそう叫ぶ。階段から三列目の下駄箱の裏にいた美心にもその声は届き、緊張が走った。
悪霊の詳細な位置が美心からは分からなかったため、とりあえず身を隠しながらこっそりと顔を出そうとする。するとその瞬間、背後から誰かが彼女の手を取った。驚いて振り返ると、それは來華だった。
「すぐそこにいるわ。こっち」
小声でそう言って美心の手を引いて走る。向かった先は五列目の下駄箱の側面だった。
「ここから様子を見てて」
「うん」
「私が目になるわ。近づいたら教える」
來華は美心を置いて小走りでどこかへ向かった。
一人になり、少し心細そうに隠れる美心だったが、すぐにまた來華の声が聞こえてきた。
「クビキリさんが三列目で曲がったわ」
その声で美心は彼女の意図を理解した。
すぐに体を動かし、反対側の側面に向かって移動する。こうやって來華の情報を元に常に悪霊と反対側に身を隠していれば、上のフロアの時みたいに悪霊の動く速度が上がるまでは、比較的安全に身を隠すことが出来るのだった。
今來華は悪霊の隣で歩いている。多少の不気味さはまだ感じていたが、もうだいぶその存在には慣れていた。悪霊の動きにも気を配りつつ、雪輝と同じように探索を進めている。
主には下駄箱を漁って破かれた日記の切れ端を探すのだが、悪霊を視界の内に留めておきながらの作業になったため、かなり行動に窮屈さを感じていた。
一方雪輝も、來華と同じ様に探索を行っていたが、美心との距離を意識して行動の範囲を限定しており、その後しばらくの間、三人プラス悪霊の微妙な距離感の均衡が続いた。
悪霊がほぼフロア内を一周したところで、雪輝と來華が防火扉前ですれ違った。
「どう、吉祥寺君?」
「見つかんねえな。そっちは?」
「こっちも……」
「そっか。でも気づいたことはある」
雪輝は目の前の下駄箱を指さして言う。
「下駄箱に入っている靴の数と向きがおかしい」
「えぇ。どう考えてもそこね。各列に一足から五足ぐらいしか入っていない上に、その向きは全て出口側に向かって横向きで置かれている……正直このゲームはよく出来ていると思うわ。だからきっと意味のない事で参加者を惑わせる事はしないと思うの」
「あぁ。それで一応色々考えてはみた……例えば五列の下駄箱を五線譜と見立てて、それぞれの靴の位置を音符に置き換えてみたり……でも意味のある文字列にはならなかったんだよな」
「アルファベットは? たしかドレミってアルファベットに置き換えれたと思うのだけど」
「それもやった。でも外れっぽい」
「そう……まぁそもそもその考えだと、靴の向きが全く関係していないしね」
「だよな……」
「靴の数は全部で十五足。クラスの人数とも微妙に会わないし、入っている所もてんでバラバラ」
「pcゲームとかなら全部を正しい位置に戻したら扉が開くとかありそうなもんだが、リアルでそれは無いだろうし……」
雪輝はそうぼやいて下駄箱の側面にもたれ掛かった。その時。
「……ん?」
もたれ掛かった下駄箱が雪輝の体重に負けて少しだけ動いた。
「え?」
「どうしたの、吉祥寺君」
「いや、今少し下駄箱が動いたような……」
向き直って今度は手で押してみる。少し力が必要だったが、下駄箱はゆっくりと出口側に向かって動き始めるのだった。
「ちょ、これ動くぞ」
すると來華は頬を床に着け、その下を覗く。
立った状態では完全に接地した下駄箱の様に見えていたが、このようにして覗き込むと、ほんの数ミリ浮いている事が分かった。
來華は下駄箱をコンコンと叩く。続いて今叩いた場所より下、床上数センチの位置を叩く。すると音が明らかに違った。密度感の無い、乾いた音だったのだ。それはまるで、床から上数センチの間が、空洞になっているかのような音だった。
「見えずらい様に隠してあるけど、恐らく中央にキャスターが付いているわ。接地してるように見せる為に、ダミーの足を取り付けているみたい」
「ってことはこれは意図的な仕掛けか」
雪輝は隣の下駄箱に駆け寄り、そこも力強く押してみた。するとまた同じように真っすぐ動く。
「これは……確定だな」
「見えてきたわ。それぞれの下駄箱に入っている靴の数よ」
「あぁ! そして横向きになっていたのは、その方向に動かせって意味か」
雪輝は下駄箱を確認し、靴の数を確認する。
そして側面に戻って下駄箱を押し始めた。
「これって下のタイルの数を目安に進めばいいんだよな?」
「恐らく」
その列にあった靴は三足。雪輝は三マス分前に押し出した。そのまましばらく待っていると、重みのかかったタイルが耐え切れなくなったのか、みるみるうちに沈み始め、下駄箱が手前に傾きだした。
「おぉすっげ」
その大掛かりな仕掛けに、雪輝はマンガのキャラの様に目を輝かせた。
離れた位置でその様子を見ていた美心も、思わず物陰から顔をひょっこりと覗かせたが、視界に悪霊も入った為、急いで顔を引っ込めた。
「すげぇけど……何なんだこれ?」
「吉祥寺君、反対側よ」
來華の指示通りに、下駄箱の反対側に向かう。するとこちら側は地面から数センチ浮いており、屈むと下駄箱の裏を見ることが出来た。
そしてそこには、小さな紙切れがくっついていた。
「あった! なるほどな」
「……よかった」
來華の安堵したような声。
「なんて書いてあるの?」
「いや、それが千切れてて、これ一枚じゃ読めないみたいなんだ」
雪輝が手にした紙は、日記の切れ端をさらに五等分程にしたものだった。
「多分、残りはあの四列の下駄箱の下でしょうね。急ぎましょう」
雪輝は急いで次の下駄箱を動かしにかかった。しかしこの最中にも悪霊は動き回っており、少しずつ速度も上がってきているように見える。來華は「小牧原さん、移動して」と指示を出しているが、下駄箱の位置が変わってしまったため、これまで通りにはいかなくなっている。
「下駄箱が動いて視界が良くなってしまってるわ……」
正直見つかるのは時間の問題だった。
そして雪輝が二列目の下駄箱も沈ませ、傾いて浮き上がった底から紙を回収した時。悪霊の動きが急に変化した。
「ぁぁぁああぁぁああ」
声を上げながら美心の元に向かって走っていく。
下駄箱が傾いたせいで、背の高い悪霊の視界に美心が映り込んでしまったのだ。
「マズい小牧原さん!」
來華が叫ぶと「うっそ!」と美心が声を上げて逃げ始める。
雪輝もそれに気付いて、いつ名前を呼ばれてもいいように身を隠した。
美心はしばらく走って逃げまわったが、やがて壁際に追いやられる。
「……て、テルキチ……じゃなかった。雪輝!」
美心が叫ぶと、悪霊は振り返り周囲を見渡した。その視界には雪輝を捉えることが出来ずにいたが、美心を追いかけている時と同じような速度で雪輝の捜索を始めた。
「マジかよ……」
雪輝は固唾を飲む。
「…………」
そんな雪輝の隣で様子を見ていた來華だったが、無言で佇み、何かを決したような表情を見せるのだった――
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