それでもボクは
ぴいたん
第1話 空はこんなに青いのに
プロローグ
仲間の血で染まっていた。
敵はただ一人。魔族男がたった一人。
ゴタール王国で勇者と呼ばれていた彼らでさえも、一人倒れ、また一人倒れていった。
魔族の男にはかすり傷一つすらつけることは敵わなかった。
最後まで戦い続けた少年も、ついに血の海に沈んだ。
魔族の男はそのまま立ち去った。
消えゆく意識の中、少年が思ったのは……それは……。
1
背中に大剣を背負った少年剣士、オルステッドさんは今日もふらふらとした足取りで街道を歩いていた。
オルステッドさんは、「コイツ大丈夫かな?」とハタから思われるような足取りで次の町をめざして歩いていた。
たしかにおなかは減っている。眠いというのもある。しかしこの歩き方は生来のものなので、どうしようもない。だが、いつも心配される。オルステッドさんにとっては不可解極まりなかった。
そんなふらふらした足取りでも、目標は達成することが出来る。そう、歩き続ければ目標は達成されることが多いのだ。
とりあえずオルステッドさんの視界には、トアールの町が入ってきた。うれしくなったオルステッドさんは、ほんのちょっとだけ歩調を速めたのだった。
トアールの町はゴタール王国の辺境の地にあるにしては、わりかし大きな町だった。
市壁もしっかりと築かれているし、大きな門もある。中はさぞ活気であふれているだろう。オルステッドさんは早速門をくぐり、さしあたっての目標である、「踊る子ヤギ亭」という宿屋を探した。
そこで人と会う約束をしているのだが、まあその前にお昼ごはんを食べるのもいいかな? そう思ったが早いか、オルステッドさんは食堂を探し始めた。
最早「宿屋を探す」という当初の目的は消え失せていた。
オルステッドさんは今何を食べたいんだろうか? よく考えながら町の中を食堂を求めて歩き回る。
麺料理もいいな。ライス料理も捨てがたい。パン食もいいな。でも、ここはガッツリ食べたいなぁ……。なんて考えていた。
迷えば迷うほど腹が減っていく。よだれも出てくる。
一歩歩くと、体力が一減っていく。そんな気分だった。しかしそれも仕方が無いことだった。オルステッドさんはこの二日間、たまごかけごはんすら食べずに、ずっと歩き通しだったのだから。腹が減って死にそうなんだ。そういうのも仕方なかった。
とりあえずいい感じの食堂を見つけた。「デカイ子ブタチャン」と書いてある食堂だ。デカイのか小さいのかよくわからないが、いい香りが店の中から漂ってくる。
オルステッドさんはとりあえず店をここに決め、中へ入ろうとした。
すると、オルステッドさんを呼び止める声が。
「お前よそモンだな?」
「武器を持っているな? 怪しいヤツだ。盗賊の仲間と見た! 引っ捕らえて尋問だな」
槍と軽鎧を身につけているところからして、トアールの町の兵士らしかった。二人は、あっという間にオルステッドさんを縄でぐるぐる巻きにして連行していったのだった。
遠ざかりゆく「デカイ子豚チャン」の看板を見て、オルステッドさんは頬を伝う何かを感じた。
確かにオルステッドさんは銀色の鎧に、ブルーに透き通る刀身を持つ不思議な大剣を持っていた。しかしなーんにも悪いことはしていない。ただただ食堂を探していただけだった。なのにしょっ引かれるなんて! オルステッドさんは基本的に無口なので何も言わないが、頭から湯気が出て蒸発した湯気が雲になりそうな勢いだった。
しかしそんな勢いもすぐに収まった。というか、長続きしなかった。腹が減ってそれどこれではないからだ。コレは署のブタバコで臭い飯を食べることになりそうだ。オルステッドさんは、落胆した顔で、兵士二人にズルズルと引きずられていたのだった。
「ヒャッハー!」
少し離れたところで、そんな調子乗ったわるものの声がした。
オルステッドさんが引きずられていった先では三人のわるものが大暴れしていた。
「水だー!」
「食料もたっぷりあるゼ!」
わるものどもは噴水の水をストローで飲んでいた。そんなことをしたらおなかを壊すだろうに。わるものはそんなこともわからずに、噴水の水を飲み、リンゴ売りのリンゴを奪って食べていた。
最早やりたい放題だった。
「お、おいお前ら! そんなところの水を飲むんじゃない! そして、リンゴを食べたならお金を払え!」
機嫌を悪くしたわるもの三人が、へっぴり腰の兵士二人に向かって歩いてくる。
「あ? なんだテメエは」
「この町の兵士だ。コイツもお前の仲間だろ? 一緒に連行してやる」
わるものはそれを見て笑う。
「バーカ、そいつはタダの旅人だよ、仲間じゃねえ! 誤認逮捕だ! さすがだなトアールの町の兵士様はよ!」
「嘘をつけ! お前ら全員連行する!」
「できるもんならやってみろ!」
わるものたちはナイフやら斧やら鉄の棍棒やらの武器を取った。コレは血を見るかもしれない。
「死体が三つ転がるだけだろうけどよ」
オルステッドさんは兵士を助けようと、ぐるぐる巻きにされた縄をブチ破ろうと力を込めた。
しかし力が入らなかった。まるでダメだった。満腹度ゼロのオルステッドさんには仕方ないかもしれない。
「ん? 焦げ臭いぞ?」
「何だ? って、オイ! お前燃えてるぞ!」
「ええー!」
と、唐突な人体自然発火現象が起き、わるものの一人は噴水の中へと飛び込んだ。
「オイ、オルステッドさん、何してるんだ」
白いローブに黒いマントの長髪な魔法使いらしい男が四人の前に現れた。
オルステッドさんの知り合いだった。彼こそがこの町に来た目的。旅の仲間である魔法使い、ストレイボウだった。
「まったく、町に着いたらさっさと宿屋に来いとあれほど言ったのに……どうしてこんなことになった」
面目なさそうな顔をするオルステッドさんに、ストレイボウは「ヤレヤレだゼ」と言わんばかりに、ため息をつくのだった。
ストレイボウは風の魔法を唱え、オルステッドさんの体をぐるぐる巻きにしている縄を切った。「ほら、もう行くぞ」
ストレイボウのおかげで、自由な体を取り戻したオルステッドさんだったが、そのまま行くことはわるものも兵士も許してくれそうになかった。
ストレイボウはため息をつき、頭を少しかいた。もう出会ったのだから、さっさと目標に向かって進みたい。なのにオルステッドさんときたら、この場でこの四人、(あ、今五人に戻った)とまともに戦うつもりなのだ。
負ける要素がないからストレイボウは高みの見物といく。そんなつもりになっていた。
しかしわるものたちは、全員が一気にストレイボウに襲いかかってきた。
自分はそんなに弱そうに見えるのか。そう思ったらまたため息が出た。
ストレイボウは向かってくるヤツらに杖を向け、初級の炎魔法「ファイアバレット」を適当に連打した。
それにビビり上がったわるものは、町から走って出て行った。
一方オルステッドさんは、今まさに大剣を引き抜いたところだった。
「なんだお前、どっか悪いのか?」
オルステッドさんは大剣をしまうと、うなずいておなかを押さえた。
「なんだ腹が減っているのか。そういえばオレもだな。どっかでなんか食べるか」
オルステッドさんはジャンプして拳を振り上げ喜んだ。ストレイボウもその様子を見て安心したようだった。
「おい、お前ら!」
兵士たちはまだ突っかかってくる様子だった。
「あ? なんか用か?」
ストレイボウの冷たい言葉に、兵士たちはびびり上がった。
と思ったら、兵士たちは武器のかまえを解き、二人に向かって敬礼をした。
「助かりました。あなた方を表彰したいので兵士長にぜひ会いに来てほしいのですが」
オルステッドさんはそんなことよりおなかがすいて仕方なかった。既にウシ肉串焼きの屋台に吸い寄せられていた。
「んなもんいらねえよ。じゃあな」
そう言ってストレイボウはオルステッドさんとともに、雑踏の中へと姿をくらまそうとした。
しかし兵士たちも食い下がってくる。
「お願いです。来てください」
ストレイボウは立ち止まり、苛立たしげに頭をかいた後兵士たちに振り向く。
「オレたちは宿屋「踊る子ヤギ亭」にいる。用事があるならそっちから来い」
兵士たちは敬礼し、ようやく二人を解放した。
さあ、飯の時間だ。
オルステッドさんとストレイボウは、先ほどオルステッドさんが見つけた食堂、「デカイ子ブタチャン」で遅めの昼食を取ることにした。
食堂で二人が注文したのは、ポークカツレツの定食だった。
ごはんとスープがおかわりし放題。これで二人で銀貨一枚で食べることが出来た。
銀貨一枚は普通なら一人分の食事代金だ。「デカイ子ブタチャン」は相当リーズナブルな料金設定だった。しかもカツレツはオルステッドさんの顔ほどもある特大サイズ。ごはんとスープのおかわりも三回して大満足だった。
食べ終わり店を出たオルステッドさんとストレイボウは、どこにも寄らずに宿に直行した。
オルステッドさんとしては、デザートにリンゴが食べたかったのだが、ストレイボウがそれを許してくれなかった。
ストレイボウは宿の部屋に着くと、杖を立てかけて椅子に腰掛けた。そしてどこからともなく取り出した本を読み出した。難しそうな魔導書のようだった。
オルステッドさんはと言うと、地べたに座って大剣の手入れを始めた。
「で? なにか収穫はあったか?」
オルステッドさんは大剣を砥石で研ぎながら首を横に振る。
「そうか、こっちもだ」
それっきり二人は話さずに過ごした。
ストレイボウが眠った後、なかなか寝付けなかったオルステッドさんは、窓から月を眺めていた。黄色い大きな満月だった。
そんな日は思い出すことがある。今思い出してもドキドキする。あの戦い。オルステッドさんとストレイボウは一緒に戦った。結果は惨敗だった。とてもかなう相手ではなかった。
だからオルステッドさんは……。
「眠れないのか?」
オルステッドさんは首肯する。
「仕方ないな。今夜は満月だし。気も高ぶる」
ストレイボウは眠る体勢を変えオルステッドさんに背を向けた。
「でもなオルステッドさん。明日は早く出るぞ」
オルステッドさんもそれはわかっていた。だが今夜は特に寝付きが悪かった。
「ベッドに入って目をつぶってろ。それだけでも体力は回復する」
オルステッドさんはその言葉を信じ、ベッドの上で目をつぶった。
オルステッドさんが寝入ったのはその十分後だった。
2
扉をハデにノックする音でオルステッドさんは起きた。
「誰だ?」
ストレイボウの声に返事したのは意外な人物だった。
「私は町長だ」
オルステッドさんはベッドから起き上がって、ドアを見る。
ストレイボウはドアが開けると、人何人か入ってきた。
オルステッドさんの寝ぼけ眼に町長の頭の輝きがまぶしかった。
「ファファファ……私はトアールの町長だ」
「で、その町長さんが何の用事だよ」
オルステッドさんは寝ぼけ眼をこすりながらストレイボウに同意する。
「お礼と、依頼をしたくてな」
町長は椅子に座る。どうも膝が悪いらしかった。まあ見た目からしてボールみたいな体型をしているから仕方ない気もするが。
「この度は町をわるものから救ってくれてありがとう」
町長は頭を下げる。もっともすぐに頭を上げたが。角度も浅かったし。
「これは表彰状だ」
町長の背後にいた、のっぽで金色の鎧を着た男が、オルステッドさんとストレイボウに何か紙を渡した。おそらくこののっぽが、兵士長なのだろう。
「で? 依頼ってのは?」
ストレイボウの率直な言葉に町長は笑うと、唐突に切り出してきた。
「我が町の兵士隊に入隊なさい」
命令形だった。
「拒否権は?」
「無い」
「なんでそんなこと、旅人のオレたちがしなくちゃならないんだよ?」
町長は立ち上がり、その場で窓の向こうを遠い目で見る。
「この町はわるものに狙われている。それは裏山のシュラユス山で魔導水晶が採れるからだ」
魔導水晶とは、天然の力で膨大な魔力を閉じ込めた水晶のことだ。
「魔導水晶を守れっていうのか」
「そうだ」
ストレイボウは肩をすくめる。
「ゴメンだね。オレとオルステッドさんには目的がある。それを邪魔するなら」
オルステッドさん、ストレイボウ、兵士長はそれぞれ武器に手を伸ばした。
「拒否権は無い。そう言ったハズだが」
町長の声のトーンがどんどん低くなっていく。
「ゴメンだね」
「兵士長!」
町長の声と同時に兵士長は剣を抜いた。その瞬間どこからともなく真っ黒な煙が。
犯人はストレイボウだった。魔法で煙幕を出したのだ。
「あばよ、町長さん。行くぞオルステッドさん」
二人は木の窓をブチ破って外へと飛び出したのだった。
「馬鹿な、ここは三階だぞ!」
兵士長が窓から身を乗り出した時には、オルステッドさんとストレイボウの姿はもう既に無かった。
「仕方ない。この町の戦力で護るとするか」
町長の笑い声が高らかに響いた。
「まったく、危ないところだったぜ」
トアールの町を出たオルステッドさんとストレイボウは、街道をまっすぐ進んでいた。
バッタを追いかけようとしているオルステッドさんをストレイボウは止め、街道へと戻した。
「まったく」
暴走しがちなオルステッドさんを止めるのは大変だった。でも、オルステッドさんがいないと、ストレイボウも困ることになるので、なかなかどうして困っていた。
思わずため息が出てしまう。
オルステッドさんがまたもどこかへ行こうとする。今度はチョウチョが飛んでいたらしい。ひらひらとした動きに、オルステッドさんはついて行こうとしている。
「ほら、行くぞ」
そんなオルステッドさんの首根っこをつかんで、ストレイボウは街道を歩いていたのだった。
街道を三十分は歩いただろうか? 気配を感じたオルステッドさんはストレイボウに目配せをする。
「わかっている」
その一言が帰ってきた直後だった。
矢が飛んできたのだった。
オルステッドさんは背中の大剣を引き抜き、飛んできた矢を弾き飛ばした。
草むらの影から出てきたのは、この間のわるもの二人だった。おそらく出てこない三人目が矢を放ったのだろう。
「へっへっへ」
下卑た笑いを浮かべるわるものたちは、いきなりオルステッドさんとストレイボウへと襲いかかった。
鉄の棍棒と斧が同時にオルステッドさんへと襲いかかる!
わかっていた。こいつらの目的は時間稼ぎだ。
先ほど飛んできたのはクロスボウの矢。その再装填の時間を稼いでいるのだ。
ストレイボウは目を閉じ耳を澄ます。
必死にクロスボウの弦を機械で引き上げている音が聞こえた。
「そこだ! ブルースコール!」
それはイカズチを落とす魔法。しかもその数は十に届きそうなほどだった。
わるものの悲鳴が、草むらの向こう側から聞こえた。
クロスボウを扱うわるものは倒したのだ。
「オルステッドさん!」
オルステッドさんは大剣を薙ぎ、斧と鉄の棍棒を吹き飛ばし、返す刃でわるものをどこか遠くへと吹っ飛ばした。
星になったわるものたちは、大空をバックに笑顔をキメていることだろう。
「おお、新記録だな」
ストレイボウの拍手に、オルステッドさんはお辞儀をして返した。
しかし、その大地を揺らすような大きな音をオルステッドさんとストレイボウが聞き逃すはずが無かった。交戦しようとするオルステッドさんの手を引き、ストレイボウは草むらの影へと隠れたのだった。
地響きをあげやって来たのは馬に乗ったわるものの集団だった。その数は百人くらいいそうだった。
わるものの集団は、そのままオルステッドさんとストレイボウの前を通り過ぎていった。
どうやらトアールの町に向かっているようだった。
わるものどもが通り過ぎた後、オルステッドさんとストレイボウは草むらの影から出てきた。
思わずストレイボウは舌打ちする。
「アレが……町に戻るぞ、オルステッドさん!」
オルステッドさんは大剣をしまい、ストレイボウに走る速度を速める魔法をかけてもらった。そうしてオルステッドさんはストレイボウを背負い、駆けだした。
「すまんなオルステッドさん」
走りながらオルステッドさんは耳を傾ける。
「さっき止めなければ、目標を取り逃がすことが無かったのに」
オルステッドさんは笑顔で首を横に振る。
「だがアレはオレの判断ミスだよ。ん? なんだって? 一人のミスは二人のミスでは無かったのかって?」
オルステッドさんは首肯する。
「そんなことより先を急ぐぞって? すまない。では思いっきり頼む」
ストレイボウを背負ったオルステッドさんは、全力で走り始めた。
風を切り裂きながらオルステッドさんは走り続けたが、結局トアールの町に着くまでわるものの集団に追いつくことは無かった。
3
わるもののと、町の兵士たちは市壁を挟んでにらみ合っていた。
「約束通りこの町を明け渡せ!」
わるものリーダー、ジードの叫びに対して、兵士長の答えは簡単にして明確だった。
「断る!」
「いいだろう! ならば戦うまでだ!」
それで前口上は終わり。隊列に戻ったジードは、一斉に町に向かって襲いかかった。
「馬鹿な。たかが百人足らずで、このトアールの町が本気で陥落すると思っているのか?」
矢の雨を降らせれば、わるものはほぼ全滅するだろう。
兵士たちは誰しもがそう思った。兵士長もそう考えた。兵士たちは矢の雨を降らせようと弓を引き絞り、放った! しかしそれも含めて、全てがわるものの思惑通りだった。
「先生、お願いします」
すると、赤い甲冑を身につけた男がわるものの後方から出てくる。
赤い甲冑の男は、手を前に出し呪文を唱えた。
大きな炎が飛んできた矢を燃やし尽くした。
兵士長は、いや、その場にいた兵士誰しもが驚いた。
そして赤い甲冑の男は、兵士たちが矢を再装填する前に、市壁に向かって爆裂呪文バスターボムを放った。
バスターボムは市壁にぶつかると、そこにあった市壁を四散させた。穴を開けたのでは無い。跡形も無く吹っ飛ばしたのだ。これでわるものに障壁はなくなった。
そこからはわるものの独壇場だった。
「怯むな! 町を守れ!」
兵士長は叫んだが、兵士たちは総崩れの様相だった。町が陥落するまでにあと一時間もかからないだろう。
赤い甲冑の男と、前口上を言っていたジードが町の中に入ったころ、ようやくオルステッドさんとストレイボウが町に到着したのだった。
「オルステッドさん!」
ストレイボウは、オルステッドさんに魔法を唱える。女神の加護を付与するその魔法は、オルステッドさんの力やスピードをぐっと高めるというモノだった。
女神の加護を得たオルステッドさんは、大きく穴の開いた、市壁があった場所へと走って行った。もちろんそれにストレイボウも続く。
そこは地獄だった。わるものは暴れ、町に火を放っていた。噴水の水は飲み尽くされ、リンゴは食べ尽くされていた。
「お前ら! さっさと目標のモノを探してこい!」
ジードの怒号に返事をしたわるものどもは、町中に散開して何かを探し始めた。
「すぐに見つかりますんで」
ジードは赤い甲冑の男に揉み手をしながら媚びへつらっている。
そんな中、オルステッドさんは町の中央、噴水広場にたどり着いた。
「なんだテメエは! 何? オルステッドさんだって? 知らねえよそんなヤツ!」
すると噴水付近にいたわるものたちに、オルステッドさんをボコボコにするよう指示を出した。
相手が悪かった。
オルステッドさんは大剣を振り、次々とわるものたちを星の彼方へブッ飛ばしていく。
「何やってんだテメエら!」
オルステッドさんが噴水の辺りのわるものをほぼほぼ全員ブッ飛ばした後、別の方からわるものが何かを叫びながら走ってきた。
「頭ァ! 見つけましたぜ」
わるものの手には、手のひらには入りきらないほどの大きなブルーの水晶が握られていた。
「時間を稼げ」
ジードに命じた赤い甲冑の男は、すぐさまそのわるものに道案内をさせた。
ジードはガタイの良さを生かし、巨大なハンマーでオルステッドさんに攻撃してきた。オルステッドさんはジードを見上げる。なかなかにデカイ。ハンマーに当たったらかなり痛いだろう。
しかし。
オルステッドさんの相手ではなかった。
オルステッドさんはその巨大なハンマーを片手で受け止めたのだ。
「グググ……この! ちびすけのくせになんてパワーだ……」
オルステッドさんはハンマーを片手で吹っ飛ばした。
「コイツ、目が赤い?」
武器を失ったジードを殴り飛ばし、気絶させた後、手持ちのポケットケージにジードを突っ込んだ。そして、振り向く。ストレイボウが来たのだ。
「ようやく追いついた」
その時にはもうオルステッドさんの目は元の色に戻っていた。
ホッと一息ついた後、とりあえず、ポケットケージをその場に置いておいて、オルステッドさんは赤い甲冑の男が消えた方へとストレイボウを急がせる。
「なに? 赤い甲冑の男の目的は魔導水晶?」
「やはり邪神の復活が目的か……急ぐぞ! オルステッドさん!」 オルステッドさんとストレイボウは赤い甲冑の男を捜して走り始めた。
途中三人ほどわるものを星にしつつ、大きな倉のような施設の前についた。
看板には、「魔導水晶貯蔵庫」と書かれている。ここに赤い甲冑の男がいるに違いない。
オルステッドさんは馬車が通れそうな大きな扉を開ける。
中には赤い甲冑の男が一人たたずんでいた。
「おい、お前」
ストレイボウの呼びかけに、赤い甲冑の男は振り向く。
赤い甲冑の男は、赤い刀身の剣を引き抜いた。そしてゆらりと体が揺れたかと思うと、オルステッドさんめがけ駆けてきた。
オルステッドさんは大剣で応戦する。
赤い甲冑の男が持つ剣は、レイピアのように細い。一見すると刺突専用の剣に見える。しかし赤い甲冑の男は、そんな剣で切りつけてきたのだ。
しかもそのパワーはオルステッドさんに負けていない。むしろオルステッドさんより強いかもしれなかった。
オルステッドさんはなんとかその男の攻撃を振りほどく。
赤い甲冑の男は、バックステップで少し距離を取る。
「その力、やはりお前魔族だな!」
赤い甲冑の男は体勢を立て直すと、赤い鉄仮面を脱ぎ捨てた。
「だとしたらどうする?」
仮面を脱いだその下にある顔を見てオルステッドさんとストレイボウは確信した。長い耳、青い色の肌、そしてシルバーの髪。どれもこれもが赤い甲冑の男が魔族だと示していた。
「貴様を叩き潰す!」
ストレイボウは相手を炎で囲む魔法、「レッドケイジ」を放った。赤い甲冑の男は炎で囲まれ、身動きできなくなった。
「オルステッドさん!」
オルステッドさんは言われるまでも無く、赤い甲冑の男にむかって走る。
しかし、赤い甲冑の男もまた、炎のオリの中から飛び出したのだ。
剣同士がぶつかる音が響く。
オルステッドさんとストレイボウは善戦していた。しかし、それ以上に赤い甲冑の男は強かったのだ。
オルステッドさんたちは、徐々に徐々にと追い詰められていった。
一番の問題は、ストレイボウの攻撃魔法が、一瞬の足止め程度にしか通用しないところだった。ストレイボウは苦虫をかんだような顔をしつつ、強力な魔法を唱えていた。
頼みの綱のオルステッドさんも、同じくらいのパワーなのに、手数の差で押され気味だった。
「いいぞ、その顔。もっと見たい”」
赤い甲冑の男は笑いながらオルステッドさんを追い詰めていく。
ついにオルステッドさんは、赤い甲冑の男にブッ飛ばされ、壁に強くたたきつけられる。
オルステッドさんの目の前で、星がくるくる回っていた。
「さあ、次はお前だ」
赤い甲冑の男は、ストレイボウににじり寄る。
ストレイボウは呪文の詠唱に入った。
「フフン、何を唱えようが無駄だ」
「ならコイツでどうだ! デストレイル!」
杖の先から、漆黒の光線が赤い甲冑めがけ飛んでいく!
闇魔法デストレイルは、赤い甲冑の男に当たる。「やったか!」
しかし赤い甲冑の男は健在だった。
「この対魔力コーティングを施してある、デモンズメイルを破壊したことは褒めてやろう。しかし、そのためにお前は残酷な死を遂げることになる」
赤い甲冑の男は、身にまとっていた赤い鎧の破片を脱ぎ、再び赤い刀身の剣を取った。
その時だった。オルステッドさんが目覚めたのだ。
体中が痛いが、そんな文句は言っていられない。さしあたっては大剣を杖に起き上がる。
「DDシステム、スタンバイ」
オルステッドさんはそうぼそりとつぶやく。
「そうか、まずは貴様から生け贄に捧げてやろう」
赤い甲冑の男は、オルステッドさんに向け走り始めた。
「お前、目が」
再びオルステッドさんの目が赤く輝いていたのだ。
「貴様ら! まさか!」
「『デーモンデストロイシステム』通称DDシステムオレたちはその被検体だ」
ストレイボウの目もまた、真っ赤に輝いていた。使ったのだ。ストレイボウもDDシステムを。
「レッドバレット」
炎の弾丸が赤い甲冑の残っている部分を貫いた。
「ぐあっ!」
赤い甲冑の男は、右のふくらはぎを焼かれ、その場にうずくまる。
「この、汚らしい改造人間どもが!」
「オルステッドさん!」
オルステッドさんは飛び上がり、上段から気合いとともに赤い甲冑の男に斬りかかった。
赤い甲冑の男は、赤い刀身の剣でそれを受ける。しかし、その攻撃の重さは今までとは段違いに重かった。
さすがに赤い刀身の剣は折れ、オルステッドさんの一撃は致命傷となった。
「このピサリオ、常に邪神とともに有り!」
そんな断末魔をあげ、赤い甲冑の男は息絶えた。 赤い甲冑の男は光になり、どこかへ消えてしまった。
そこで気づいた。
「また、話を聞く前に倒しちまったな」
オルステッドさんもストレイボウも、目の色を元に戻しながら反省した。
彼らの旅は、魔族を討伐する旅。倒しきってしまっては、次の目標がどこにいるかわからない。
「ま、なんとかなるかな」
オルステッドさんはそれに同意した。
エピローグ
「まったく、しつこい町長だったな」
オルステッドさんは首肯する。
魔族を倒したオルステッドさんとストレイボウを、自分の護衛につけたいとしつこかったのだ。
しかしなんとか二人は振り切り、トアールの町を今度こそ後にした。
「ま、北のゴン高地に行けば、魔族もいっぱい居るだろう」
さしあたってはそこに向かうしか無かった。とりあえず二人は北へ向かって歩くのだった。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます