4 鬼 姉 に バ レ た
図書館はデートする場所じゃないとひとつ賢くなった俺だけど、その日は帰りも帰ってからも、ずっとフワフワしてた。
なんていうか、イイ……。
暫定が付いてても、「彼女」が隣に座ってて、目が合うと微笑んでくれるとか、なんだこの幸せは。
正直、最近鈴木さんの事ばっかり考えてるときが増えてきた。
綺麗に切りそろえた髪の毛の下に覗くうなじが色が白くてドキッとする、とか。
何かというとすぐ恥ずかしがって赤くなってるのが可愛いな、とか。
もしかして、俺の方が彼女を好きになったかもしれない。
そんな感じにほわっほわしてた俺は、月曜の夜に奈落の底へたたき落とされた。
「篤志、彼女できたんだって?」
わざわざ夕食時にそんなことを言い出したのは、ふたつ年上の姉・
この姉、とにかく俺に対して暴虐君主で、小さい頃はオモチャ取られて泣いたのは日常茶飯事で、小学校の時も学年ごたまぜドッジボールとかすると真っ先に俺を狙ってきてた。
おやつもふたつに分けてあれば、必ず大きい方を取られる。
何かにつけて俺は勝てた事がない。
そして、俺の丹精込めた家庭菜園の野菜を食い荒らす。トマトなんかは実ったうちの9割明日菜が食べてるくらいだ。最近はこれが地味にきつい。
その明日菜が、茶碗と箸を持ってニヤニヤと俺を見ている。
俺はと言えば、飲み込んだご飯を喉に詰まらせて悶絶していた。
「彼女!? 本当?」
ほら、母さんが食いついたよ! 一応水も渡してくれてるけど!
俺は胸を叩きながら水で喉に詰まったご飯を流し込み、しばらく胸の痛みに呻いた。
「なんで」
「昨日女の子とふたりで図書館行ってたんでしょ? カナが、駅で待ち合わせしたところに出くわして、図書館まで尾行したって今日学校で教えてくれた」
「カナねーちゃん暇人かよ!」
ちくしょー! これだから地元嫌だよ!
待てよ、駅で待ち合わせしたところから見られてたってことは、俺が「似合ってる」って言ったこととか、照れすぎて鈴木さんが沈み込んだところとか、そういうことも見られてるってことで……。
「死にたい……」
茶碗と箸置いて顔を覆って呻いたら、悪魔のクスクス笑いが聞こえた。
「駄目じゃん、死んじゃー。彼女悲しむよー」
「それはヤダ……」
「あ、やっぱり彼女なんだ。引っかかった」
「鬼姉ー!!」
ジタバタしている俺と、実に楽しそうにそれを見ている明日菜を、父さんと母さんが生温かい視線で見守っていた。
「いつから付き合ってんの?」
もう、明日菜は全部俺のプライバシーを明るみに出すつもりだ。容赦がない。
でも、きっと下手に隠しておいてもバレたときのダメージがデカくなるだけだから、俺は観念して正直に答えた。
「入学式の日に、告白された」
「入学式ー!? 中学一緒の子?」
「違う。……その日に昇降口で26番目に会った人が運命の人って占いで言われたから、って」
「なにそれ、ウケる。それで? そんな酷い理由なのに付き合ってんだ」
酷い理由、と言われて俺はカチンときた。
それだけだったら、例え「お試し」だろうと付き合ったりしてない。
俺があの時「お試しなら」という答えを出したのは、彼女が凄く真剣だったからだ。
「馬鹿にすんなよ。彼女が真剣だったから、お互いに全然知らなかったけど、とりあえずお試しでいいならって付き合ってんだよ。図書館行って悪いかよ、俺たち、ちゃんとお互いのこと知ろうとしてる途中なんだよ!」
俺の剣幕が凄かったのか、明日菜がピタリと笑いを止めた。
「青春してるー」
「お前だって同じ高校生のくせに!」
「次はさ、図書館とかじゃなくてショッピングにしときなよ。ウィンドウショッピングでも楽しいし、あんた服見立てるの割とうまいから。アクセサリーの一個でも買って上げたら喜ぶよ」
「お、おお?」
明日菜は、普通の顔をしていた。俺の事をからかっているわけでもなく、罠に掛けてやろうという顔でもなく、普通に夕飯を食べているときの普通の顔。
これは……素直にアドバイスだと受け取っていいんだろうか。
俺が苦悩している間、父さんと母さんは顔を見合わせ、「大きくなったなあー」なんて言い合っていた。
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