Q8:彼女の友達に会う? 会わない?[ハーフ&ハーフ]

 スマートフォンをいじりながら、彼女が何気なく言う。


「そうそう。こないだ友達と話してたら関川くんの話になってさ」

「友達に僕のコト話してるの?」


「もちろん、みんなに、じゃないけどね」

 当たり前のようにいう彼女。


 でも僕はちょっとドキドキする。

 僕はどんなふうに紹介されているんだろう?

 ちょっと気になったりもする。 


「でさ、そろそろ、私の友達に紹介したいんだけど……どうかな?」


 突如として突きつけられたイベントに僕は一瞬返答に困る。


「関川くんが、そういうの苦手なのは知ってるんだけど……ダメかな?」


 彼女が上目遣いで僕を見る。


 僕の頭の中ではいろんな思惑がグルグルと回っていたが、こう答えることにした。


「そうだね……」











「会ってみようかな」

「えっ」

 その答えは彼女の予想していたものとは大きく外れていたのだろう。彼女は目を見開いて、スマートフォンを手から落とした。その大きな瞳を潤ませている。

「本当に……いいの?」

「もちろんだよ。君のお陰で僕もだいぶ立ち直れたんだ」

「関川くん」

「今度は僕が君のために、なにかをしたい」

「ありがとう」

 静かに泣く彼女を画面越しに撫でる。


 僕が引きこもってからもう十年近い。オンラインゲームばかりして、ギルドを作っては追い出されたり、迷惑がられたり。ネットの世界にも居場所を見失っていた去年、ゲームで出会った彼女とはなぜかすぐに仲良くなれた。

 以来、彼女とは毎日のようにPCでテレビ通話やVCヴォイスチャットでゲームもしてきた。お互いの人となりもよく知っている。現実に会ったことはないけれど、彼女だけでいいと言い続けてきたけれど、彼女が望むなら彼女の友達フレンドと会ってみてもいいだろう。


 友達フレンドとは、ネットゲーム上の知り合いのようなものだ――彼女もまた、引きこもりなのだ。


「だけど、僕のコミュ障は並大抵のものじゃないからね。君の友達フレンドに嫌な思いをさせたらゴメンよ」

「大丈夫。いい人たちだよ」

「たち?」

「今度のボス狩りはやっぱり二人じゃ厳しいから――今招待OKって送ったよ」


 ピロン。

 友達フレンド申請が来た。


 ピロンピロン。

 さらに二人の友達フレンド申請が来た。


 ピロピロピロピピピピピピピピピピ――


 次々と送られてくる100件近い友達フレンド申請に、僕は意識が遠のいた。


「僕、やっぱり無理かも……」


 ピピピピピピピ――僕のか細い声は通知音に掻き消された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る