徒然なるままに短編を書き散らす

くまで企画

徒然なるままに短編を

砂の王

 その日、彼はエジプトを創った。


 高くそびえる砂でできた三角形の建造物。

 指ひとつで川を流し

 そこには文明の礎が築かれた。


 彼は自分を神であるとは言わなかった。

 だが、思うがままに地形を生み出すその力は

 ――まさしく神の御業であった。


 以前、彼は巨大な砂の城を造った。


 砂の城は、風に晒され、

 時間とともに小さく削れてゆき

 そしてなくなった。

 

 幾度ともなく、

 築いたものは姿を消していった。

 だが、彼を悩ませることはない。


 神というのは、

 とかく気まぐれな存在なのだ。


 彼は深い谷を創ろうと考えた。

 こればかりは骨の折れる一大事業だと

 誰の目にも明らかであったが、

 彼はやる気であった。


 そう、彼は砂を自由自在に操る

 ――砂の王なのだ。

 

 その時であった。

 砂の王を呼ぶ声が響く。


「もう、おうちかえるよ」


「はーい」


「お砂場遊び楽しかった?」


 彼は振り返ることなく、

 砂の王国を後にした。


 それから数日間――

 振り続けた雨が創造物を飲み込み

 そこにはただ砂だけが残った。

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