71 ?視点:敵

 アースと出会ってから。

 僕はまた白い世界にいた。

 

 あれまー。

 さっきまでベッドで寝ていたのに。

 お昼寝しようと思ってたのに。

 

 気分が乗らないが、なんとか身体を起こし、あたりを見渡す。


 「あなた、アースを仲間にしたそうね」


 近くにはいたのは女神ティファニー。

 相変わらず金色の髪が神々しく輝いていた。


 だが、女神様の顔を拝めない。

 彼女は背中を向けており、顔は見えなかった。

 なんか…怒っている?


 そう思ったが、取りあえず僕は女神の質問に答える。

 

 「はい。彼は必要だったと思ったので」

 「あの子はやめておきなさい。ろくなことがないわよ」

 

 女神は強めの口調でそう返してきた。


 えー。

 アースは使えると思うんだが。


 「なぜそんなこと言うんですか?」

 「もしかして、本気でアースが使えるとでも思ってるの?」

 「まぁ、はい」


 性格はちょっと面倒くさそうだけど、ステータスだけ見たら最強。チートだ。

 それに一国の王子で、大切にされている預言者。

 あれほど頼りになるものはいないと思うが。


 「ふーん。そうなの。でも、あのバカアースは使えないの」


 バカアースって。

 え?

 もしかしてだけど、女神様、アースのこと嫌ってる?


 へ? なんで?

 アースは預言者じゃん。

 神様の使いみたいなもんじゃん。

 なのに、なんで嫌うんだ?


 アースと女神様、ケンカしちゃったのか?


 「女神様って、今アースとケンカ中なんですか?」

 「いいえ。ケンカではないわ。私が一方的に嫌ってるの。あの子、私の邪魔をするから」

 

 へー。一方的に嫌ってる、か。

 女神様が誰かを嫌うっことあるんだな。

 僕のイメージでは、たとえどんなひどいことを言われようとも、女神様は「全ての民を愛してます」って言って、本気でみんなのことが好きで、みんなのお母さん的存在と勝手に思っていたが。


 まさかの預言者嫌い。


 すると、女神様はこちらに顔を向ける。

 せっかくの美人顔なのに、眉間にはしわが寄っていた。


 「もし、あなたがバカアースと組むというのなら、私は気まぐれで邪魔をするかもね」

 「邪魔? なぜ?」

 「アースとつるむからよ」

 「えー。邪魔をされるのは困るんですが」

 「なら、アースと関わらずに、私をとっとと倒すことね」

 「倒すのは……無理なことかと」


 冷静に考えたら、人間VS神様。

 どう見ても勝ち目がない。

 この前は、自信満々で女神様に戦いに行った僕の方が狂っていた。


 「じゃあ、私はあなたたちの邪魔をするわ」

 「…………」


 正直、訳が分からない。

 自分で僕を転生させておいて、自分を殺さないと邪魔をするって。

 この女神のしたいことはなんなんだ?


 僕はただルーシーと一緒にいたいだけなのに。

 ルーシーを幸せにしたいだけなのに。


 …………もういいや。

 

 この女神とまともにやってたら、いつまでたってもルーシーを幸せにできない。

 ライアンから離すこともできない。


 「分かり……分かった」


 本当は僕を最高の世界に転生させてくれた人と敵対はしたくなかった。

 でも、女神様…いや女神が僕の邪魔をするというのなら。


 「僕の邪魔をするあんたは僕の敵だ」


 女神が邪魔をしてきても、華麗に避けてやる。


 「じゃあね、ティファニーさん・・・・・・・・


 そうして、僕は目を閉じた。




 ★☽★☽★☽★☽




 ティファニーと敵対することを宣言した後。


 僕はアースの下で働くようになっていた。

 最初は、部下として働く気はさらさらなかった。


 でも、アースが『僕が君に協力するんだから、君が僕の仕事を少しぐらい手伝ってくれてもいいんじゃなーい?』とニマニマしながら言ってきたので、仕方なく彼の部下に。


 まぁ、アストレア王国の内情を知れたので結果オーライ。


 そして、アースの元で働くうちに、僕は王城の人たちに覚えられるようになり、僕は王族に使える魔法使いの少年として認識されるようになった。


 それに伴って、名前も少しだけ変えた。

 テラ――――アストレア王国で働く時にはこの名前を名乗っている。


 これは、アースが勝手にステラ僕の名前を略して、“テラ”って名前で各方面に紹介されてしまったため、現在もそのまま使っている。


 また、僕は部下として働く時は女の子ではなく、男の子。

 だから、服装も変更した。

 最初は女の子らしい格好のままでもいっかなと思っていたんだけど。

 でも、アースから。


 『君、心は男の子なんでしょー? もういっそのこと、男の子の格好をしちゃえばー?』


 と提案されたので、僕はそれを採用。

 アースの服と同じようなデザインのフード付きローブを着用することにした。

 深いフードで目元も隠れ、なおかつ忍者のように口元も布で覆い、顔が見えない状態。

 さらに白いパンツを穿き、白いブーツを履く。


 鏡で見ると、全身が白、白、白、真っ白。

 所々に金の装飾がついていたため、シーツを被った感じはなく、上品さが感じられた。

 でも、汚れがついたら目立ちな服だな。

 高そうだから汚さないように気をつけよ。


 見た目はというと、正直女の子か男の子かどっちか分からなかった。

 なので、僕は声を低くする魔法を使って、あたかも男の子がしゃべっているようにした。

 そのせいで、女性に声をかけられることが多くなったけど。


 家はというと、アストレア王国には引っ越してはいない。

 実家からアストレアへと通いだ。


 アストレアまで行くのにそれなりに距離はあるが、アースからもらった転送魔法が込められている魔石をもらったため、移動にはそれほど困らない。

 長期の仕事の時には、アストレアに泊まるようにしていた。


 ちなみに。

 アースから命令される仕事は様々だった。


 が、多かった仕事としては、貴族派の監視かな。

 そいつらが犯罪事をしていることが分かると、証拠を掴み、自分たちで捕まえるか、警察に捕らえさせていた。


 まぁ、いわゆるスパイみたいなことをしていた。

 いや、公安か?

 どっちでもいいや。


 そんなスパイみたいな仕事の中で、人を殺すこともあった。

 いや、やむをえなくだよ?

 相手が人質を殺そうとしたから、先に殺した。


 初めての人殺しだった。

 同僚は「人助けのためだから仕方ないっす」とか言ってたけど、僕には違和感があった。

 

 捕まえるためにやむを得ず怪我をさせるのは仕方ない。

 が、殺すのはどうなんだろうと。


 そう思いながらも仕事を続け、何人か人を殺してしまった。




 ★☽★☽★☽★☽




 そうして、アースの部下となってから数か月が経ったある日。

 ラザフォード家の令嬢がお茶会を開く――そんなことを耳にした。


 ルーシーを一目見たかった僕は、そのお茶会に行くことにした。

 もちろん、ゲストとしてはいけないので、ラザフォード家の臨時のお手伝いとして行くことに。


 しかし、お茶会当日。

 アースからの仕事が遅れ、ラザフォード家の到着が遅れた。

 

 ヤバい、ヤバい。

 遅刻とかマジヤバい。

 

 絶対メイド長に怒られるだろうし、下手すればルーシーを見ることもできないかも。

 案の定、メイド長が険しい顔で待っていた。

 

 「テスラさん、遅いじゃない」


 やば、怒られる。

 僕は叱責を覚悟し、目をつぶる。


 「来る途中で、何かあったの?」


 しかし、メイド長から叱りの言葉はなく、予想とは違う質問がきた。


 「え?」


 僕は思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

 怒ら……ないの?


 「手に怪我をしているみたいだけど、まさか事故にあってはいないわよね?」


 あ、これはさっきの仕事でしちゃったやつ。

 とは言い出せず、適当な言い訳を作り出す。


 「あ、その……ちょっと妹が熱を出してしまいまして、それでドタバタして少し怪我をしてしまいました。すみません」


 ごめん、レイラ! 

 僕のウソに出してごめん!

 心の中で必死に妹に謝っておく。

 

 「え? それ妹さん大丈夫なの?」

 「はい、母もいますし、医師にも見てもらったので大丈夫です」

 「そう……それなら着替えて準備してもらえる? 仕事は着替えの後に教えるから」

 「はい、ありがとうございます!」

 

 メイド長、優しい。

 だが、そこからもうドタバタ。

 めちゃくちゃ忙しくて、ルーシーを見に行く時間なんてなかった。


 だが、お茶会が始まって一時すると。


 「テスラさん、表にこれを持って行ってくれる?」

 「はい、分かりました」


 ようやくティーカップを持っていく仕事を頼まれた。


 やったー!

 表に出れるー!

 ルーシーを見れるー!


 そんなうきうき気分を抑えつつ、姿勢よくお盆を持っていく。

 いくら貴族の子どもがたくさんいようとも、全く緊張はしなかった。


 「は?」


 が、僕は動揺してしまった。

 なんと、あの攻略対象者たち4人が一緒に席についていた。

 ゲームの中では4人が集まることなんてないはず。


 まぁ、リリーはヒロインのサポーターだから、ヒロインとともに攻略対象者たちと関わる機会はあるかもしれない。

 だけど、幼少期ではないはず。ヒロインがいないこと関わることないはず。

 

 なのに、なんで……あの4人が一緒に?


 そうして、ぼっーと隅の席にいる4人を見つめていると、バンっと背中に何かがぶつかってきた。


 「あっ!」


 そのせいで、持っていたトレーが大きく揺れ、そして。


 パリッンっ――――!!


 高級そうなティーポットとカップを割ってしまった。

 周囲の視線がこちらに集まる。

 何人かの令嬢がこっちにやってきた。


 「うふふ、あなた、何をしているの?」

 「さっさと片付けてよ、汚いわ」

 「どんくさいメイドさんね」

 「この子、小さいわ。子どもみたいじゃないの」


 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 これは目立ってしまう。

 とりあえず令嬢たちのことは無視して、僕は急いで、ティーカップのかけらを拾いあげ、下がる。


 戻ると、メイド長は顔をしかめていた。

 ああ。今度こそ、怒られる。


 「随分と顔色悪いわね。あなた、下がってなさい」

 「え? ……あ、はい」


 と言われたものの、ルーシーの姿を見たいので、もう少し仕事をしようとした。

 でも、結局見れなかった。


 あの後、なぜかあの4人が暴れだし、大騒ぎに。

 僕は給料をもらうことなく、家に帰った。




 ★☽★☽★☽★☽




 次の日。

 僕はアースのところに向かった。

 彼は相変わらず自分の屋敷に引きこもり。

 

 王子様がこんなとか、僕は女の子だったら悲しむな。

 なんてことを思いながら、ボスがいる部屋へ。


 「ステラ、おはよー」

 「お疲れ様っす、ステラさん」


 部屋に入るなり、そこにいた2人にお帰りの挨拶をされた。

 1人はアースで、書類を眺めていた。


 もう1人はというと、僕の同僚のリアム。

 サングラスをかけており、一見チャラそうに見えるが、意外と仕事ができるやつ。

 特に忍びとして動くのには非常に有能。

 

 だから、アースはリアムを近くに置いているんだろう。

 そんな有能サングラス男、リアムは主人とは異なり、せっせと書類に書き込んでいた。


 「昨日、ルーシーのお茶会に行ってたんだってー? どうだった?」

 「忙しかった。それにあまりルーシーを見れなかった」

 「あら、ざんねーん」

 「でも、攻略対象者の4人がいた」

 「こうりゃくたいしょうしゃー?」

 「カイルとリリー、エドガー王子、あとルーシーの弟キーランだ」


 キーランは弟だからいて当たり前だが、あの3人と一緒にいるのには違和感がある。


 すると、アースは「エドガーまでいたのー? あら、びっくりー」と大げさに驚く。 

 コイツ、真剣に聞いていないな……まぁ、毎度のことだからいいけど。


 「その3人とルーシーの弟キーランが一緒にいたんだ。なんでだと思う?」

 「さぁー? たまたまじゃなーい?」


 アースは興味なさそうに言ってくる。

 たまたまだったらいい。

 何も気にすることはないと思う。


 だが、もし、僕と同じように転生者だったら?

 その転生者が、あの乙ゲーを知っていて、ルーシー推しだったら?


 思わずぞっとする。

 ああ、キーランが転生者だったら最悪じゃないか。

 

 もし、キーランたちが転生者だったら、ルーシーが取られてしまう。

 そうだとしたら――――――僕はどうすればいい?

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