53 リリー視点:主人公と共闘

 前衛が私で、後衛がステラ。

 

 この体制で宮廷魔術師が来るまで、持ちこたえる。

 それが1つの目標。

 できそうであれば、魔女を倒し、拘束。

 拘束が難しい場合は最悪殺害する。


 相手が黒月の魔女とはいえ、人殺しは正直避けたいところ。

 かといって、ルーシー様や自分が死んだら意味がない。


 ええ。

 ルーシー様だけじゃなくて、私も死ぬわけにはいかない。

 だって、ルーシー様が悲しむもの。


 私は殺人覚悟で、魔女へと走り出す。

 そして、魔法を放った。


 薔薇の蔓を伸ばし、魔女を拘束。そして、棘を巨大化させ、刺す。

 しかし、魔女の体は泥となり、すり抜けていく。

 魔術師相手だと本当に厄介だ。

 他の魔法も極めておくべきだったと後悔が生じる。


 が、今は私1人じゃない。


 「私、あなたたちには用がないの。あの月の聖女に用があるの」

 「なら、私たちを倒してから行くべきですね」


 魔女の移動先に向かって、ステラは光線を照射。

 泥魔女に一部光線は直撃するが、レジスト。そして、泥となって避けられる。

 光線がやむと、なんともない様子で、元の姿に戻っていた。


 「私のお姫様に危害を加えるやつは、誰であろうと敵です。殲滅します」


 と言って、私はすばやく首を切ったが、魔女はすぐに泥になる。

 腕を切っても、足を切っても同じことだった。


 対する魔女は闇魔法らしきものを放ってきたが、ステラが私を防御。

 ステラの防御魔法はなかなかのもので、魔法攻撃が直撃することはない。

 一時すると、魔法はダメかと思ったのか、魔女は物理攻撃を入れてきた。


 スカートで動きにくいだろうに、蹴りを入れてきた。

 私はその蹴りを剣で受けるが、魔女の足は泥化。切れない。

 その後すぐに拳がやってきて、一発顔を殴られてしまった。


 私は一旦距離を取る。


 口の中に広がる血の味。

 ………………口の中が切れたか。

 ペッと唾を吐き捨てる。

 やはり血が混じっていた。


 すると、ステラが治癒魔法をかけてくれた。よく見てるわね。


 「ありがとう」

 「いいえ」


 そして、彼女は周囲にいる人たちがいなくなったことを確認すると、大量の光線を放つ。


 剣で魔女の体は切れない。すぐに泥になる。

 かといって、魔法をしても、同じこと。私の魔法なら特に避けられる。

 ステラが光魔法で攻撃しているけど、そっちはレジストされる。


 さらに、物理攻撃を入れてきた。魔女のくせに。


 ――――――どうすればいい? 


 どうすれば魔女に勝てる?


 「リリーさん! 胸に何かがあります! 左胸です! 心臓付近!」


 その瞬間、ステラがそう言ってきた。


 「あら、もうバレちゃったの」


 魔女は笑っていた。何が楽しいのか知らないけど、笑っていた。

 胸に何かがある。


 私は左胸を狙い、薔薇蔓を伸ばす。

 魔女は胸を守るように、防御魔法を展開。


 「テーネブラモルス!」


 同時にルーシー様に向かって、2度目の即死魔法を放ってきたが、ステラがレジスト。

 攻撃を受けているのに、即死魔法を使うなんて……いい調子だわ。

 きっと魔女は焦ってる。

 やっぱり胸に何かがある。


 あるのは魔女の心臓? そこを刺せば殺せる?


 「ガキ2人にやられるのは癪に障るけど、月の聖女を見つけたことだし、今日はよしとしましょうか」


 魔女はそう言って、バッと両手を広げる。

 今だと思い、剣を右胸へと刺す。

 そして、剣先に、カツンと何かが当たった。


 「………………え?」


 その瞬間、魔女は爆散。

 すぐに蔓で防御したが、ドレスにべちゃべちゃと泥が散った。


 この魔女、自滅した。泥となって自滅しやがったわ。

 爆発がおさまったと思い、魔女の方を確認。

 すると、そこには黒い服と泥、そして、粉々になった赤い魔石があった。


 「魔女は人外だったの……?」

 「いえ、これは魔女本体ではなく、魔女が操作していたものでしょう」


 いつの間にか、ステラが隣にいた。彼女も泥だらけだった。


 「なるほど……」


 なんだ、魔女じゃなかったの。操り人形と戦っていたの。

 にしても、強かった。

 操り人形がこのくらいなら、魔女本体はもっと強いはず。


 「ステラさん、よく操り人形って気づきましたね」

 「……光魔法を放った時にコアが見えたんですよ」


 そう言って、ステラは砕けた赤色の魔石を手に取る。


 「魔女本体なら、コアなんてない。もしかしたら、と思いまして。確信はなかったんですけど、予想が当たってよかったです」

 「そうですね」

 

 私も赤い魔石を手に取る。そこには術式の一部らしきものが描かれていた。


 「……あと、操り人形は魔石がコアになることをよく知っていましたね」

 「ええ。知人がこいうものを趣味で作っていましたので、少し知っていたんです」


 ステラは「知人はこんなに動かすことはできていなかったですけど」と言って、笑う。

 

 ………………そりゃ、そうでしょうね。


 趣味レベルでこんなものを作れるはずがない。

 この操り人形はあたかも人間のように動いていた。

 コアである魔石を見る限り、遠隔操作のための大量の術式が組み込まれていたと考えられる。


 きっと、魔女はこの人形を遠隔操作していた。

 そんでもって、即死魔法を使ってきた。

 フェイクである可能性もあるけど、身代わり魔石が壊れたから、たぶんあれは即死魔法。


 そんな消費魔力が大きい魔法を2発放ってきたんだから、人形自体がかなりの魔力を保持していたことも分かる。


 そう考えると、魔女は通常の魔法以外にも魔法工学にも精通しているとも予測できる。それも高度な技術がある。材料もある。

 まぁ、魔王軍側に魔道具技師いるという可能性もあるけど。


 ともかく、黒月の魔女は――――非常に厄介な敵だ。

 そんな魔女がルーシー様を殺そうとした。

 そんな魔女は放置するわけにいかない。


 だから、さっさと倒しておくべきなんでしょうけど。


 ――――――――でも、引っかかることがある。


 魔女にとって、月の聖女っていうのが何かあるのかしら?


 『恨むのなら、私ではなく、月の聖女として生まれた自分を恨んでちょうだい!』


 なんて、言ってたし。

 ルーシー様ではなく、月の聖女を狙いにきた感じがする。

 ゲームでは一切そんな話はなかった。だいたい魔女はまともに登場しないし。

 もしかして、私たちが転生しちゃって、話が変わったから、ゲームにはない話が組み込まれた?

 結果として、魔王が魔女に命令して、聖女を殺しにきたってだけかしら?


 なら、なおさら魔女も殺しておかないと。ついでに魔王も。


 でも、私1人じゃ無理ね。

 ちらりと横の彼女を見る。


 今回はステラがいないと、私はやられていた。

 きっと、とっくに死んでたわ。


 そんなことを考えながら、操り人形の残骸を観察していると、背後から声が聞こえてきた。


 「リリー!」


 振り向くと、彼女が走って来ていた。


 「ルーシー様! 大丈夫ですか!?」

 「ええ、私は大丈夫よ。リリーこそ、大丈夫?」

 「はい、大丈夫ですよ。なんともありません」

 「そう、それはよかった……本当によかったわ」

 

 見ると、ルーシー様は泣きそうになっていた。

 ………………そりゃあ、そうよね。

 即死魔法なんてかけられそうになっていたんだもの。

 とても怖かったはず。


 と考えていたが。

 

 「本当にリリーが無事でよかった」

 

 と言われた。ルーシー様は声を震わせていた。

 彼女は私のことを心配して、泣きそうになっていたようだ。


 正直、抱き着きたかった。

 だけど、今は止めておく。

 今抱き着いたら、ルーシー様が汚れてしまうから。


 お姫様を魔女の泥なんかで汚すわけにはいかない。

 しかし、ルーシー様は私に抱き着いていた。


 「ルーシー様!? ドレスが……」

 「服なんかどうでもいいの」


 ルーシー様の服に泥がついてしまう。

 けど、ルーシー様は気にすることなく、私にハグをしてきた。


 「ありがとう、リリー」


 ぎゅっと強いハグだった。

 一時して、離れる。

 そして、お姫様はにこりと笑ってくれた。

 

 「………………ルーシー様、私かっこよかったですか?」

 「ええ、かっこよかったわ」


 ――――――――ああ、今日は幸せな日かもしれない。


 黒月の魔女と会って戦って好きな人が殺されそうになったけど、でも、それでも。

 今日は幸せな日だ。

 推しで、好きな人にかっこいいと言われたのだから。

 

 お姫様が笑ってくれているのだから。


 「リリーは随分とドレスが汚れてしまっているけど、それお気に入りって言ってなかった?」

 「はい、そうですけど、気にしないでください。ドレスよりルーシー様の安全が最優先ですので」


 そうだ。

 ルーシー様が生きているってだけで私はいい。

 ルーシー様を守れた、そこが大切だ。


 その後、ライアンもこちらにやってきた。

 そして、彼から「ありがとう」と言われた。

 別に、私はライアンのためにやったわけじゃないけど、「騎士団長の娘としてあたりまえのことですので、気にしないでください」と一応返答しておいた。


 また、一時して、宮廷魔術師と騎士団とともにお父様がやってきた。

 お父様は「よくやってくれた、リリー」と言われた。彼は少し誇らしげだった。


 ちょっと嬉しかった。


 その後、調査のためか、宮廷魔術師からいくつか質問を受けた。

 魔女は何を話していたとか、どんな魔法を使ってきたかとか。

 その際、水魔法が得意な方に泥を落としてもらって、火魔法と風魔法を得意とする方に服と髪を乾かしてもらった。


 泥で気持ち悪かったけど、少しすっきりできた。


 でも、疲れたし、ちゃんとお風呂につかりたいな。

 まぁ、帰ってお風呂に入ることもできるけど………………。


 「ルーシー様」

 「はい、なんでしょう?」

 「銭湯行きましょ!」

 「………………銭湯?」


 この近くに銭湯があったはず。

 せっかくだし、ルーシー様と入りたい。

 

 「いいわね。行きましょうか」

 「はい!」


 やった! 推しとお風呂なんてそうそうないわよ。

 男子キャラに転生しておけばと散々思っていたけど、今改めて思う。

 転生したのが女子キャラでよかったぁ――!!


 心中喜んでいると、ルーシー様は。


 「ねぇ、ステラさんもどう?」

 「え?」

 

 と、ステラを誘っていた。

 ………………別に誘わなくてもいいのに。


 と思ったけど。

 彼女も頑張ったことだし、よしとしましょうか。

 すると、ステラは手で鼻を押さえていた。


 「ステラさん!?」


 彼女はぼたぼたと鼻血を出していた。そして。


 「い、いえ……わ、私は、き、今日は遠慮しておきます」


 と言って、断った。

 ルーシー様は「そう……」と言って残念そうにしていたが、私は心の中で1人ガッツポーズ。

 そして、私は1人、ルーシー様のお身体を拝むことができました。


 いぇい!

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