37 なんで? 中編

 突然立ち止ったルーシー。

 彼女の瞳の先には例の2人がいた。


 そして、そんな彼女を彼らはそっと見ていた。

 

 「ついに出会ってしまったのね」

 「姉さん、大丈夫かな」

 「……まだ、出会っただけだ。ライアンルートに入ったわけじゃない」

 「そうだけど、ルーシーの方は………」


 ルーシーについていた4人。

 彼らは、彼女から少し離れたところで見守っていた。

 カイルが声を掛けても、ルーシーは動かず、あの2人を見つめている。


 時間が経つにつれ、ルーシーの表情が暗くなっていく。

 そして、ステラたち2人が握手を交わした瞬間、ライアンが睨んできたことに、4人は気づいた。


 「なんでアイツ、ルーシー様を睨んでるの? 私、あのクソ王子を一発——」

 「………リリー。落ち着け。相手はこの国の王子だぞ。いくらイラついたといっても——」


 「じゃあ、エドガー様ならできますね。ご兄弟ですからね。王子同士が殴り合ったって問題ありません」

 「問題大ありでしょ」


 「キーランは黙ってなさい。さぁ、エドガー様、あのクソ王子を殴ってきてくださいませ。私、アイツをボコボコにしたいと、怒りがおさまりそうにありませんの」


 そう言って、リリーはエドガーを真っすぐに見つめる。

 彼はそっと目を閉じた。そして——。


 「………………俺も同じだ。よし、行ってこよう」

 「ちょっ、エドガー様」

 「………………なんだ、キーラン。お前も腹が立たないのか?」


 「いや、僕も同じですけど………だから、『行ってこよう』にはなりませんよ。姉さんがすぐそこにいますからね。それに、リリーはどうせ冗談半分で言ったんですから」


 「何言っているんですか、キーラン。冗談ではありませんよ…………まぁ? 私はエドガー様のように、王子であっても、殴るようなことなんてしませんけど」

 「ほらぁ」

 「もっと計画を練って、どん底に落としてやるわ。殴るよりも痛い目見せてやるわ」


 そんな冗談を交わす3人とは違い、カイルは黙っていた。

 黙って、彼女を見ていた。


 カイルの胸の内は心配な気持ちでいっぱい。

 誰もルーシーの心を奪えず、婚約破棄もできず、これからどうなっていくかで他の人以上に心配になっていた。


 そして、今、ルーシーは主人公とライアンの出会いを目撃。

 もちろん、ゲームのような展開になることにも心配になっているが、それ以上に彼女が辛くなっていないかも気にしていた。

 

 カイルは彼女の隣にそっと向かう。

 ちらりと見ると、ルーシーは何かに怯えているよう。


 「ルーシー、大丈夫?」

 「え?」

 「なんだか、暗い表情してたからさ? 大丈夫かなって」

 「え、ええ……大丈夫。ごめんなさい、途中で立ち止まって」

 「いいよ。気にしないで」


 大丈夫と言いながらも、彼女の顔は先ほど違い、真っ青。

 全然大丈夫じゃないことは、カイルも察していた。


 「ねぇ、ルーシー」

 「何?」

 「ルーシーはあそこにいる2人が気になるの?」


 さっと風が吹く。

 ルーシーの紫色の瞳は確かにライアンたちに向いていた。

 しかし、カイルが尋ねると、彼女はふいっと顔をそらす。


 「いいえ、別に。殿下が誰と関わっていようと、私には関係ないわ」

 「でも、君、あの2人を見て————」

 「さぁ、行きましょう。入学式に遅れちゃう」


 カイルの言葉を遮り、ルーシーは歩き出す。

 彼女の足はまるでその場を逃げたがるかのように、速足だった。




 ★★★★★★★★




 次の日。

 私、ルーシーは結局サボることなく、授業を受けた。

 本当は受けたくなかったけど、友人たちがあまりにも受けろとうるさいので、仕方なく受けた。

 

 あーあ、午前中は散歩日和だったのに。

 もったいないことをした。

 なんて後悔しながら、食堂を向かう。


 「ルーシー、なんだかんだ言いながら、授業をちゃんと真面目に受けてたね」


 と隣のカイルが言ってきた。

 キーランたち3人も彼の言葉にうんうんと頷く。


 「授業に出るなら、真面目に先生の話を聞きたいと思ったのよ。それに…………」 

 「それに?」

 「それに…………先生の話も意外と面白かったのよね」


 意外と先生の講義は面白かった。

 始めの授業ってこともあって、オリエンテーションが主だった。

 けど、ちょいちょい先生が雑談挟んでくれて、その雑談が面白くって。


 よし、あの先生の授業は必ず受けるようにしよう。

 お腹がぐぅーと鳴らす。

 恥ずかしくて、さっとお腹を手で押さえた。


 結構大きな音だったけど、カイルたちは気づいてないよね?

 周囲を確認しようとすると、確認できなかった。

 というか、人がいなかった。


 あれ? どこ行った?

 もしかして、途中ではぐれた?

 食堂へのルートはこれで合っていると思ったんだけど。


 後ろを振り向くと、4人は立ち止まっていた。

 

 「………………あれ、みんなどうしたの? 立ち止まって」

 「いや、なんだかあっち騒がしいから、気になって」

 「騒がしい?」


 人が集まっている方に耳を澄ますと。


 「なんだ! あの獣は!」

 「まさか魔獣!?」


 という声が聞こえてきた。

 そんな様子に私は思わずため息をつく。


 全くもう、騒がしい連中ね。

 あんたたち、私と違って、魔法使えるんだからさ? 

 入り込んできた魔獣ぐらい、自分でなんとかしないさいよ。


 1人が無理なら、数人で倒せば————————。


 「え?」

 

 騒ぎを無視して、食堂に向かって歩いていると、その魔獣がこちらに向かって走ってきていた。


 「へ?」


 ————————あの子、なんでこんなところに?

 ようやく魔獣を目にした私。

 思わず素っ頓狂な声を漏らしていた。


 「ルーシー、あれって………」


 人の大きさぐらいある水色のデカワンちゃんは、真っすぐに私の胸に飛び込んできた。

 受け止めきれず、私は押し倒され、顔をペロペロされる。


 「あなた、なんで、なんでこんなところに!?」


 騒ぎになっていた魔獣は——————私のペット、ミュトスだった。

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