17 リリー視点:負けない!
1年が経ち、私は9歳になった。
日々努力をした私はついに無事お母様の条件をクリアし、ルーシー様に会う許可が下りる。
そして、さっそくルーシー様に会うためにお茶会に参加することにした。
それは王子主催のお茶会。
そこになら、王子の婚約者であるルーシー様は必ずいるだろう。
そして、迎えたお茶会当日。
会場に向かうなり、彼女をすぐに見つけた。
彼女はあのライアン王子の隣に立っていたのだ。
もう少しキリッとしたところがあると思っていたが、目にしたルーシー様はとても静かそう。
他のご令嬢に挨拶をしながらも、私の目はずっとそのルーシー様のお姿を捉えていた。
………………2人きりで話ができればいいのだけれど。
しかし、ルーシー様はいつの間にか2人の男とともにベランダへと向かっていた。
あの2人はまさかカイルとキーラン? なぜあの2人がルーシー様のところに?
そんな疑問を抱きながらも、私はどこぞの子息につかまりベランダに行けなかった。
しかし、ルーシー様は一時してベランダから戻ってきた。彼女は会場も離れ、どこか別の場所に向かい始めた。
もしかして、トイレかしら?
私はルーシー様の後をそっとついていく。
案の定、ルーシー様はトイレに。
しかし、トイレから出てきた彼女は会場へとは戻らず、途中にあった庭へと入っていく。
少し歩くと、ルーシー様はベンチに座った。
………………こ、これはチャンスだわ!
私はさっそく彼女に近寄る。
「あのぉ……こちらよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろ……」
「本当ですか! では、失礼します」
ルーシー様の許可が下りると、私はすぐさま座った。
えへへ。推しの隣に座っちゃった。
私はルーシー様の隣に座ったものの、黙ったまま。
何かしゃべらないと。
でも、質問攻めはダメよね。
警戒心を与えてしまうし、礼儀正しい子って思われないかもしれない。
………………うん。まずは当たり障りのない話をしよう。
「ルーシー様はどうしてこちらに?」
「……少し疲れたので、休憩したくて」
「私も同じです。人が多いところってなんだか疲れますよね」
見た感じ、ルーシー様はかなり疲れているようだった。
やっぱりあの王子とうまくいっていないのだろう。そのことは最初の挨拶の時点で、若干感じていた。
しかし、私はルーシー様とお話できないまま、沈黙の時間が続く。
推しを目の前に何を話せばいいか、分からなくなっていた。
………………くっ、こんなことなら、質問リスト作っておくんだった。
そうして、時間が経ち、ルーシー様は立ち上がった。きっと会場に戻るつもりなのだろう。
まずい。ルーシー様がどっかに行ってしまう!
――――――――――――もう少し待って! 一緒にいたいの!
「ルーシー様!」
私はいつの間にか彼女を呼び止めていた。
急に呼び止められたルーシー様は目を丸くしている。
「……はい、何でしょう?」
「わ、私とお友達になっていただけませんか?」
い、言っちゃった!
きゃはっ! 推しに友達になってなんて言っちゃった!
でも、ルーシー様も私の噂を知ってるよね……断られたどうしよう。
言った直後にそんな不安が浮かび上がってくる。
しかし、そんな不安はすぐに消えた。
彼女はコクリと頷いてくれたのだ。
「ええ、いいですよ」
「本当ですか!?」
「はい」
うそ!
推しと友達になれるなんて!
嬉しさのあまり、思わず笑みがこぼれる。
ルーシー様との結婚も夢じゃないかも! きゃはっ!
私はルーシー様にあるお願いをした。
「あの……私の魔法を見ていただけませんか! ルーシー様にどうしてもお見せしたくて、練習してたのです!」
「ぜひ見せて」
「はい!」
私は立ち上がり、手のひらから蔓を出し始める。
その蔓は周囲に伸び、ルーシー様の近くまで伸ばした。
私の魔法をよく見ていてくださいね、ルーシー様。
生み出した蔓から葉とつぼみができ、そして、花が咲く。
その花は私が大好きな薔薇。
ビリー兄様と勝負をしていた時、よく使っていた真っ赤な薔薇だった。
今日は勝負のためじゃない。ルーシー様へのプレゼントに使うの。
風が吹き、真っ赤な花弁が散っていく。
その花弁は青い空へと飛んでいった。
次に両手を交差し、伸びていた蔓を消す。
それと同時に、99本の真っ赤な薔薇を作り出していた。
私はどんな大きなものでも入る魔法袋に手を突っ込み、そこにしまっていた包装紙を取り出す。
そして、それで薔薇をつつみ、できた花束をルーシー様に渡した。
「どうぞ」
ルーシー様は突然花束を渡されて、驚いていたが。
「あ、ありがとう」
彼女は困惑しながらも、その花束を受け取ってくれた。
ルーシー様。
99本を渡した意味、分かりますか?
「永遠の愛」っていう意味なんですよ。
まぁ、出会ったばかりの人にそんなことを言われても、きっと引かれるだけ。
だから、私は微笑むルーシー様をじっと見つめた。
そのお姿を目に焼き付けるぐらいに。
しかし、幸せの時間はつかの間。
お邪魔虫がやってきたのだ。
「すごい薔薇の数だな…………」
聞こえてきたそんな声。
それを耳にした私は思わず目を見開く。
少し離れたところに紺色髪の少年が立っていたのだ。
………………なんでアイツがこんなところに来るのよ。
そこにいた少年。
彼は「Twin Flame」の攻略対象者の1人で、ルーシー様の婚約者の弟エドガー。
間違いない、あの姿は彼しかいない。エドガーだ。
でも、なんでこんなところに彼が来るのよ。あんた、主催者でしょうが。
そう思いながら、私は彼に睨む。
一方、ルーシー様は彼を見かけると、すぐに一礼する。さすがルーシー様だ。
「お初にお目にかかります、殿下。私はルーシーと申します」
「ああ、お前のことは知ってる。ライアンの婚約者だからな……リリーもここにいたのか」
「……はい」
そう。
私と彼は会ったことがある。いつかというと、つい最近。
お茶会の前に少しのことで、私は父親に連れられて王城に向かい、彼を紹介された。
きっと親たちは私をエドガーの婚約者にでもしたいのだろう。
私は父親や陛下の雰囲気からそう悟っていた。
でも、絶対にコイツと婚約は嫌だ。
「それでお前たちはこんなところで何をしていたんだ?」
「彼女と少しおしゃべりをしていました」
ルーシー様の返事に、彼は「ふーん」と呟く。
そして、ベンチに置いた薔薇の方に目を向けた。
「ここの庭の薔薇は春に咲くのだが、その薔薇は?」
「リリー様が魔法で作ってくださったのです」
またエドガーは「ふーん」と呟き、ベンチに座った。
ま、まさか、あの人ここに居座るつもりなんじゃないでしょうね?
さらに彼は「ルーシーもここに座らないか?」と言ってきた。
ルーシー様は王子相手には断ることができないのか、しぶしぶ彼の隣に座ってしまう。
「せっかくだし、俺の魔法でも見るか?」
すると、エドガーは突然、そんなことを言いだした。
あの人、急にやってきて何しようとしてるの?
せっかく、ルーシー様と過ごせる私の大切な時間だったのに。
エドガーの言動にいらだった私は勝手に口が開いていた。
「主催者である殿下は早く戻らなくてはならないのでは? 多くのご令嬢がお待ちしているかと思いますよ」
笑みを浮かべながらも、「あんたは邪魔よ」という感情を含めて言ってやった。
しかし、彼も返してくる。
「………それを言うのなら、侯爵令嬢の方も待っている方がいるんじゃないのか?」
「アハハ……私を待っている方などいませんよ。何を言っているのですか、殿下」
そう言いあって、フフフと笑う私たち。
自分も相手も決して楽しくて笑っているわけではないことは分かっていた。
私は空いていたルーシー様の右隣に座る。できる限りルーシー様に近づいた。
すると、ムカついたのかエドガーが舌打ちをしてきた。
「ルーシー、もっとこっちによって座れ」
「あ、はい」
「いいのですか、殿下。そんなに近づいて。お兄様に怒られません?」
「…………いいんだ。お前に近づけておく方がまずい予感がする」
なにがまずいのよ。
私はあんたにルーシー様を近づけておく方が嫌だわ。
ルーシー様がこちらを見ていないタイミングで、私はエドガーにガンを飛ばす。
彼の方もこちらに睨みを向けてきて、ルーシー様に見えないように中指を立ててきた。
こ、こいつぅ………ファックサインなんてしてくるなんて。
そうして、私たちは牽制し合っていたが、突然ルーシー様が立ち上がった。
え? ルーシー様? どこに行くの?
「おい?」「え? ルーシー様?」
「お2人がそういう仲だとは知らずに……大変失礼しました。お邪魔虫ルーシーは退散いたします」
え?
そう言った、ルーシー様は一礼をし、私たちに背を向け歩き出す。
「ルーシー様! 誤解です!」「違うんだ!」
お、お邪魔虫はこの下品な王子です! 決してルーシー様じゃない!
私は即座に立ち上がり、ルーシー様の手を掴む。
エドガーの方も彼女の腕を掴んでいた。
ルーシー様は何が起こったのか理解できていないのか、首を傾げていた。
「私はルーシー様とお話したくてここに来たのです。その……私と殿下はルーシー様がお考えなさるような関係ではありません」
「え?」
きょとんするルーシー様。本当に勘違いしていたようだ。
私がプレイヤーだった頃はエドガーも普通に好きだった。
しかし、今は目の前に
それなのに
「……私、普段お茶会に参加しないのですが、ルーシー様がいらっしゃると思って、参加したのです!」
「俺もだ! お前、ライアンのところに全然来ないから……でも一度は会ってみたいと思って、普段しないお茶会をライアンとともに開催したんだ!」
「そうだったのですか……」
「だから、座ってくださいませ! ルーシー様! もう少しお話ましょう!」
「奇妙な噂を聞くお前とは少し話してみたかったんだ! 隣に座ってくれ!」
私たちは必死にルーシー様に訴えかける。
ルーシー様は迷ったような顔をしていたが、一時してこう答えてくれた。
「で、では3人でお話しましょうか」
結局、私とルーシー様、
2人きりでの会話をできなかった私だが、収穫はあった。
私には敵がいること。それがはっきりと分かった。
私はエドガーをちらりと見る。
ルーシー様を見る彼の瞳は完全に恋の瞳。
この男が確実にルーシー様を狙ってることは明白だった。
この前初めて会った時、妙にそっけなかったのはそのせいだったのね。
でも、コイツとルーシー様は接点がなかったのに、なぜ恋などしたのだろう?
さっきは初めましてな雰囲気を出していたけど、2人はまさかこっそり会っていたとか?
私はその考えを振り払うように、首を横に振る。
――――――――――――だとしても、負けない。絶対に負けない。
ライアンにもルーシー様に引っ付いていた
私がルーシー様の一番近い存在になるの!
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