39 真夜中の図書館

 ある日の昼休み。

 食堂で昼ご飯をすませた私は黄昏ていた。

 しかし、そこは教室ではなく、また別の場所。

 

 ————あのまま教室にいたら、息ができなくなりそうだったもの。

 

 ミュトスが現れて以来、私はみんなから避けられていた。

 もちろん、カイルたちはミュトスのことを知っていたから、私とはいつも通り接してくれたけど。

 

 それ以外人みんな、私を見る目がまるで変わった。

 

 まさか、ミュトスが世間ではあんなにも忌み嫌われるものは知らなかった。

 シューニャ自体、凶暴な怪物だということはカイルから聞いていた。

 だけど、まさかここまでとは。


 あー。

 だから、カイルたちは飼うって言った時、驚いていたのか。

 とそこで、ようやくシューニャという怪物を私は理解した。


 ————————が、時すでに遅し。

 ミュトスがもどきとはいえ、シューニャと同等の存在。

 その怪物もどきを飼っている私自体、避ける対象となったのだ。


 まぁ、そういうことがあって、教室にいるのは苦痛。

 鋭い視線が集まって、窮屈。

 あの場にはできる限りいたくはない。

 そうして、居場所がなくなった私はどこに行ったか。

 

 逃げた先は図書館。

 シエルノクターン学園には付属図書館があり、そこには小部屋のような場所があった。

 

 その部屋には天井まである棚全てに本があり、扉と窓以外の壁には本があった。

 まさに本だらけの部屋。


 机にも本があり、私にはとっておきの場所であった。

 私は出窓の所に座り、ゆっくり本を読んでいたのが。

 

 ふと見上げると、窓の外には例の2人。

 遠くにいたが、すぐに誰だか分かった。

 図書館の周囲には綺麗な中庭。


 ミュトスと再会した中庭とはまた異なる中庭。

 正直、この学園には庭が多すぎる。


 ちゃんと管理ができているのかしら?

 それとも、管理してくれる部でもあるのかしら?

 

 ————————————————まぁ、そんなことはどうでもよくって。


 その中庭にいたのはライアンとステラ。

 彼らは仲良く、何かを話しているようだった。


 あー、心底ムカつく。


 「ルーシー、なぜ中指を立ててるの?」

 「…………なんとなくよ」


 背後にいるカイルが話しかけてきたが、彼に顔を向けることなく、ただただ窓の外を見つめていた。


 「えっと、ルーシー?」

 「…………」


 ちょっと黙って、カイル。

 今、最高にムカついているから。

 あなたの前で「F——uピー」とか「S——tピー」とか酷い言葉を言いそうになってるから。


 カイルは私のことを察してくれたのか、それ以上声を掛けることはなく。

 その代わり、4人で何かコソコソ話しているようだった。


 まぁ、4人の話していることなんてどうでもいい。

 なんだっていい。

 

 私は死ぬのだろうか? 私は国外追放されるのだろうか?

 2人が出会った今、そういったエンドになるのではないだろうか?

 

 それだけが心配。

 心配すぎて全然寝れてない。

 私は眩しい笑顔の2人を見ながら、目を瞑った。




 ★★★★★★★★




 ルーシーから少し離れた場所の椅子。

 そこに座り、彼女を見つめる男女3人。


 例の2人を見て、そして、静かに目をつむったルーシー。

 そんな彼女を見た、カイルたちはルーシーに聞こえないよう、小さな声で話していた。


 「————今回は僕たちがいるから、動いていないのかもしれないな」

 「というのは? どういうこと?」


 キーランは見当がつかないのか、首を傾げている。


 「本来いるべき立ち位置に私たちがいないから、ルーシー様の動きも変わっている、といいたいのでしょ? カイル」

 「そうさ」


 リリーの言葉にカイルはうんと頷く。

 一方、エドガーはふむと唸っていた。


 「………………なら、いじめがないのなら、一方的に悪くなるのはライアンじゃないのか?」

 「確かに、姉さんは何も悪くなくなるね」


 ルーシーのいじめがあって、ライアンと彼女の婚約破棄に繋がっていく。

 それがゲームにおけるライアンルート。

 しかし、現在はいじめなどはなく、ライアンは浮気まがいなことをしている状態。

 このままいけば、


 『僕、別に好きな人ができたから。悪いんだけど、ルーシー、婚約破棄しよう』


 と言われる未来の可能性の方が高くなる。

 ルーシーにとっては理不尽な未来。ふざけた未来。

 だが、そうなれば、悪役はライアン。ルーシーは単なる被害者。


 相手は王子とはいえ、カイルたちがルーシーを擁護する理由にはなる。


 「そうなると、随分とストーリーが変わってくるのだけど………」

 「そうだね」


 しかし、そのルートが本当にルーシーにとって幸せなのか。

 好きな人はいないと言っていたが、ライアンとステラを見るルーシーには本当は好きな人がいるんじゃないか。

 

 —————————————————それがライアンじゃないのか。


 つい、そんなふうに考えてしまうカイル。

 彼は銀髪の少女をじっと静かに見つめていた。




 ★★★★★★★★




 シエルノクターン学園。

 その学園の附属図書館にはある特徴がある。

 他の図書館にはなかなかない特徴。


 それは真夜中になっても開いていること。


 そう。

 ここ、シエルノクターン学園の図書館は24時間出入り可能であり、貸し出しも行っている。

 

 私にはもってこいの図書館。最高の図書館。

 

 昼間だとなんだかんだ、あの4人がついて目立って仕方ないし、自分がミュトスの飼い主ということもあって、多少注目を浴びていた。

 

 夜中なら、そんな心配も少ないだろう。

 と、本を探していると。


 「ルーシー様はどの本をお探しなのですか?」


 声を掛けられた。

 私のその声に聞き覚え——というか、その声の主が一瞬で分かった。

 本当は無視したい。

 

 でも、そんなことを彼女にすれば、いじめと勘違いされるかもしれない。

 私は嫌々ながらも、ゆっくりと顔を上げる。


 「これは、これは、どうも………………」


 そこにいたのは——————昼間に中指を立てていた相手、ステラ・マクティアだった。

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