15 リリー視点:推しの近くにいたかったのに
私の名前はリリー・スカイラー。8歳です。
そして、転生者です。
前世では女子高校生でした。
………………はい、以上。
って以上なわけがないんですけどね。
ただの女子高校生だったのかと言われると、NO。
普通の女子高生じゃなかったし、リア充なんかじゃあありませんでしたよ?
彼氏いない歴=年齢でしたよ?
………………なぜかって?
そりゃあ、リアルの男子に興味がなかったからですよ。
だって、私はヲタク女子でしたからね。
2次元にしか興味がなかったんですもの。
そんなとんでもない前世の記憶を思い出したきっかけは、ウィリー兄様の一言。
「兄様、今なんと?」
「今、言っただろう?」
「…………あ、そうなんですが、もう一度言ってくださいませ。よく聞こえませんでした」
私は耳を疑った。
変なことが聞こえる耳。
変なことを言う兄様。
しかし、実際、兄様は変なことなど言っていなかった。
決して、変なことではなかった。
ただ、私にはそのことが信じられなかった。違和感と嫌な感情が浮かび上がった。
「ラザフォード家のご令嬢がご婚約なされたんだ」
その瞬間、前世の記憶が一気にフラッシュバックした。
★★★★★★★★
前世の中学時代の私はいじめられていた。
暗い性格もあり、またヲタクってこともあってか、いじめられたのだ。
弱気な私は、すぐに学校に行けなくなった。行く気力がなくなった。
楽しみなんてないところに行きたくなかった。
私の楽しみは何か――――それは趣味に没頭すること。
アニメやマンガ、ゲームと様々な物が好きだったが、ジャンルも特にこだわりはなかった。
BL、GL、ノーマル。全部好きだった。
だって、全部いいんだもの。そりゃあ、好きになるわ。
そして、引きこもり始めて1年。
私はとあるゲームに出会った。
「Twin Flame」という乙ゲー。
そのゲームはプレイをしてて、楽しく、キャラクターもすぐに好きになった。
ヒロインや攻略対象者にももちろん魅了されたが、一番魅了されたのは別の人。
ヒロインの敵、ルーシー・ラザフォード。
他のどのキャラクターよりも彼女を愛していた。
悪役がいないと、主人公が輝かない。そのことをルーシーは私に教えてくれた。
彼女がいるからこそ、このゲームは楽しいのだ。
そう考えるようになっていた。
では、私をいじめてきたやつらは?
――――――――――――私の人生を輝かせてくれるのでは?
そう考えるようになり、いじめにも屈しなくなった。そのうち、いじめてきたやつらも無反応の私に飽きたのか、いじめなくなった。
そして、学校に通うようになり、無事中学を卒業。
受験をクリアし、私は高校生になった。
高校では楽しい毎日を送れた。
なんと、高校では今までいなかった趣味を共有できる友達ができたのだ。
みーちゃんとくーちゃん。
それが私の友達。
彼女たちも「Twin Flame」をプレイしており、ドハマりしていた。
また、そのクラスは「Twin Flame」をプレイしている人が半分以上おり、高校生になって半年経った頃にはクラス全員がプレイ済みになっていた。
そして、見事にみーちゃん率いる私たちがクラスをヲタ活へ誘った。
今では他のクラスから、ヲタクのクラスと言われている。
先生方からは今まで例にみない
テストのクラス平均が80以上あれば、クラスで乙ゲーをすると、担任が約束。
クラスはその目標に向かって協力し合い、熱心に勉強し、クラス平均を80以上にしていたのだ。
今思えば、最高のクラスだった。
「えー? あの悪役令嬢が好きなの? 珍しいね、あれを好きになるなんて」
「そう? 結構いると思うけど」
ある日のお昼休み。
私は昼食を取りながら、みーちゃんとくーちゃんで「Twin Flame」の話をしていた。
あのゲームにおいて誰が一番好きか、というのが今日の議題だった。
「いるわけない。悪役令嬢を好きになる人なんてぇ」
「いるわよ…………3人ぐらいは」
すると、黙って食べていたくーちゃんが「クラスのみんなに聞いてみたら?」と言うので、実行することにした。
私は教壇に立ち、みんなの注目を集める。
「ねぇねぇ、みんな! 悪役令嬢ルーシー・ラザフォードってわかるよね? 彼女を推しにしてるって人いる!?」
3人ぐらいは手を上げてくれるだろう。
そう思っていたが。
誰も手を上げてくれる人はいなかった。それどころか総ブーイングを受けていた。
「な、なによぉ! あんたたち、分かってないわね、ルーシーのよさを! 見てなさい、私が最高のルーシーの2次創作書いてやるんだから!」
すると、1人の男子が立ち上がり、声を上げた。
「ルーシーなんて、誰が推すかよ! あれは俺たちの邪魔をするんだぞ?」
「じゃあ、あんたは誰がいいって言うのよ」
「そりゃあ、
その男子の意見に同意するように、周りの男子たちがうんうんと深く頷く。
「
★★★★★★★★
「………………リリー・スカイラー」
私が転生したのは推しと敵対するリリー。
リリー・スカイラー。
「あ゛あぁ―――――!!」
「お、お嬢様!?」
突然奇声を放った私に驚き、侍女たちが駆け寄る。
いつも静かでおどおどしていたリリーが、突然発狂するのだから、驚くのも当然。
―――――いや、今はそんなことはどうでもいい!
ルーシー様があの王子と婚約してしまったのよ。
この状況、最悪よ、最悪!
よりによって、リリー・スカイラーに転生するなんて!
弟キーランか、婚約者のライアン王子がよかった!!
よかったのに゛ぃ――!!
婚約するのは私とルーシー様なのに゛ぃ――!!
この゛ぉ――!!
頭を抱え、膝まづく。
そして、頭をひれ伏し、床をドンドン叩いた。
転生するのなら、推しの近くのキャラクターがよかったのに゛ぃ――!!
「なんでリリー・スカイラーなのよ゛ぉ――――!!」
その叫び声がスカイラー家の屋敷中に響く。
このリリーの発狂はのちに「お嬢様の覚醒の始まり」という謎の名前が付けられたのだ。
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