私の電球

神奈川県人

切れてはいないフィラメント

 彼女は小説家を夢見てカクヨムという小説投稿サイトで執筆する高校一年生。身長は平均ぴったりで成績も真ん中かちょっと上ぐらいのいわゆる“フツウ”な女の子。


 しかし、あるネット記事を見て彼女の人生は変わってしまった。


「今日のPVはいっくつかなぁ〜」


 パソコンの画面を見てぱあっと明るくなった。


「やったぁ〜! 過去最多の20PVだぁ〜ハートもらっちゃったなぁ」


 と喜ぶのもつかの間。2日後には5PVに減り3日後にはゼロになった。


「どうして人気なユーザーには読者がいるのかなぁ......きっと秘密があるに違いない! よし! ネットで調べちゃおーっと」


 検索欄に 小説 読者がいる理由 と打ち込んだ


「色々理由はあるんだぁ〜、なになに? 小説家には電球がある?」


 そのサイトの内容をまとめるとこう、小説を書く人だけに電球が頭にあって、それが光っているところに読者が集まる。ということだった。他には自分の電球の外し方、他人の電球の外し方が書いてあった。


「本当かな?」


 早速自分の電球を外してみる。

 なんにも汚れていないフィラメントに傷もない普通の、手のひらサイズの電球が取れたのだった。


「えっ普通に白熱球じゃん、本当なんだこの記事」


 彼女はプピッパーというSNSを開いて同じように小説を投稿しているユーザーを探していたら人気なユーザーがオフ会を開くという。他人の電球も見たくなった彼女はそこに参加することにした。




 ―――オフ会会場 都内某所


「初めまして! いつも読んで下さりありがとうございます!」


 という挨拶から始まったオフ会。しかし彼女は電球のことで頭が一杯で話なんか聞いちゃいなかった。

 時計の針はグルグル回りすぐに解散時間になってしまった。


「やっと来たこのチャンス〜」


 その人気ユーザーの後をつけ彼女は他人の電球の外し方を実践することを決めた。

 外し方は簡単、頭に強い衝撃を与えればポロッと落ちて外すことができるとのこと。


 人通りが少ない住宅地に入ったところで


「あれっ偶然ですね! さっきオフ会参加していたんですよ」


 人気ユーザーは少し驚いた顔をした。


「あっ、参加してくれてましたね。ありがとうございました」


「えっと、頭出してもらってもいいですか?」


「はぁ頭ですか、別にいいですけど」


 ごめんなさいと心で言いながらカバンから出していた金属製のハンマーで頭を殴った。体ごと倒れ込んでもなお頭を「出てこい電球、電球!」と言いながら何度も殴った。


 カラン......。


「はあはあ......ようやく出てきた。これがこの人の電球、私も人気になれるかもしれないなぁ、はあはあ、真っ赤で気持ち悪いな、家帰って洗ってみよう」


 彼女はビニール袋に電球を入れ近くの公園で手を洗って家に帰った。彼女が去ってから程なくして悲鳴が住宅地に響いたのは言うまでもない。


「おっ風呂、おっ風呂〜で洗ったで·ん·きゅ·う〜♪」


 鏡の前で自分の電球を外し、洗った電球をくっつけてみる。


「あれっ明かりがつかない、あれっ?」


 仕方なく外して自分の電球につけ戻す。


「この電球がいけないのかも......。そうだ! そういうことだ!」


 そこからの彼女は早かった。

 いくつも小説家が集う場所に行き、後をつけ頭を殴る、後をつけ頭を殴る。

 それを連日繰り返した。


 しかしイレギュラーが起こった。

 また頭を殴ろうとしたとき気づかれてしまったのだ。


「何をしている! やめてくれ! 殺さないでくれ!」


「うっうるさい電球よこせ! それだけだぁ!」


 ズガン…ドサッ、ズガン…ズガン…ズガン......。


 カラン......。


「帰って洗うとするか」


 洗い終わった電球を手に彼女はまた鏡の前にいた。その顔は曇っていた。


「やっぱり光らないなぁ、はぁ、殺さないでくれか......そうだったなぁ私は人を殺しちゃったんだなぁ。もう14個も集まっちゃった」


 ハッと、彼女の顔は晴れやかになった。


「そうだ! この殺しちゃった話を投稿すれば人気になれるかもっ!」


 と言った時いままでうんともすんとも言わなかった“彼女”の電球が光った。











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