伝説の剣士 4

 ヨハネの力をもってしてもびくともしない赤鬼のタフさに周囲の兵士たちも士気を落とし始めていた。そんな中でも果敢に挑む二人であったが刃が通らなければ刀はただの板にすぎず、打てば打つほど体力を取られじり貧となっていく。


「ミハルさん、ここはエースストライクを使うほかないようですね」

「でも、ヨハネさんのは倒された時に発動するものですよね。ここは私が自傷してエースストライクの発動条件を満たします」

「いえ、そこまでしてもらわなくても大丈夫です。戦いか激化していくことは誰でも予想できましたから、受け身のエースストライクではなく攻めのエースストライクを用意してきました」


 ヨハネは高らかに宣言する。


「エースストライク発動! 闇を照らす月の光よ。いまこそ奇跡の光へと転じる時です。気高き光のシャイニー導きドグマ!!」


 月明かりは雲を突き破りヨハネの十字槌を包み込む。光の照射により十字槌は壊れその中から二本の十字の形をした西洋風の剣が出現した。神秘的な光を放つ剣を一振りすると赤鬼の頬に傷をつけ背後に生えている木を切断した。


「この俺様に血を流させるとはな。祈りを捧げるだけの軟ではないということか」

「人々を救うために血の代償が必要ならば、この私とあなたたちの血で払おう」


 ヨハネはエースストライクを発動したことにより全ステータスが向上した。スピードはクロノほど上がってはいないが武器が剣に変わったことにより先ほど以上に攻めの姿勢で戦うことができる。パワーは武器の威力に依存しているがそもそも正面切っての殴り合いで倒せるほど二人の基本ステータスは高くなかっためデメリットではない。

 唯一のデメリットは剣を握っている間は徐々にヨハネの体力は失われていくことにある。


 その時、兵士たちの後ろからジョーカーが現れ次々と倒し始めた。赤鬼に気を取られていたために奇襲を仕掛ける隙を与えてしまい状況はあまり良いとは言えないが赤鬼にダメージを入れられるのはヨハネだけ。ミハルは一人でジョーカーとセガルを相手取ることにした。


「ヨハネさん、そちらはお願いします」

「すぐに終わらせて援護しますから耐えてください」

「しっかり弱らせておくんでこちらは気にしないでください」


 ジョーカーは再び分身をしてセガルと自身を隠しながら攻撃を仕掛けた。セガルはスピードが速く瞬時に分身の陰から現れては引くためミハルがダメージを与える隙がまるでない。セガルに気を取られているとジョーカーが斬りかかる。


「どうした? 俺たちを弱らせるんじゃなかったのか」

「これからやってみせる!」


 二人のプレイヤーを相手にしながらもダメージを最小限に抑えるのも限界があった。時間制限はまだ10分もありタイムアウトは望めない。ジョーカーたちも攻撃の手を緩めずヨハネも赤鬼を相手にしているため余裕はない。ほとんどのヒーローNPCは城内にいるため増援もない。

 

(ダメージをもらってエースストライクを発動するべきか。いや。この状況下では拘束できるのは一人だけ。タイミングよくジョーカーだけに当てたとしてもセガルに邪魔されたら元も子もない……)


 ミハルのエースストライクは至近距離で刀の光を当てて自由を奪った後に強力な一撃を叩き込む技。それを知られているからこそジョーカーたちは二人で同時に攻撃することはなかった。


「隙ありだぜ!!」


 セガルが大ぶりの蹴りを行おうとした瞬間、ミハルはそれを避けて強烈な一撃当てることに成功した。あえて隙を作り相手の慢心を誘った。戦いに自信があればあるほどこの動きに引っ掛かる。しかし、一度使用してしまうと警戒されてしまい二度目は難しい。本来ならばエースストライクを発動するためにやるべきだったがこの時点でミハルはエースストライクで二人を仕留めることを選択肢から外した。


 依然相手のほうが有利な状況でジョーカーだけを狙うことは不可能であり今の一撃でセガルも簡単には誘いにのることはなくなった。対するヨハネのほうはダメージは入るようになったものの決して対等に戦えるようになったわけではなく、子どもと大人の戦いからアマチュアとプロくらい戦いに差が縮まっただけ。このままではヨハネのエースストライクをもってしても時間稼ぎが関の山だった。

 この状況を逆転させる可能性があるのはミハルのエースストライクであったがこれもまた安易に放つことはできない。仮に赤鬼を一撃で仕留めたとしてそのあと疲弊したミハルたちはプレイヤー二人と残った鬼を倒さなければならない。ミハルの発動条件の都合上体力を残すことはできない。ヨハネもこうしている間に体力が削れていく。鬼たちの気を数分反らすことができたのなら二人でジョーカーとセガルに畳みかけることも可能かもしれないがそうれなればポイントが少なくなる。


 何をするにしても不確定要素と不安材料が多く八方ふさがり状態かに思われたその時、空から鳥の鳴き声がこだまする。満月の光を隠す鳥の足には人間がぶら下がりこちらの様子を見ていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る