第33話 怪しい忍者は能天気

 攻撃バフアイテム一つと防御バフを二つ。マップを一つもって別のフィールドへ移動しようするとポータルの前で別チームが戦っていて中々前へと進めなかった。


「もう63人……。思ってたより状況の変化が激しいかも」

「いやいやぁ~。楽しくなってきましたな~」

「ツバキやる気だね」

「私何も言ってないよ」

「――えっ?」


 三人は後ろを振り返ると忍び姿のミハルたち同じぐらいの少女が立っていた。


「ミハルさん構えて! 参加プレイヤーです!」

「あははっ! 簡単に背中取られるなんて意外と不用心? まぁまぁ、そんなに慌てなくていいよ。私はフヨウ。見ての通り忍びだよ」


 忍者はどうやら一人でいつのまにか後ろに立っていたようだ。


「仲間二人ともやられちゃったからちょっと助けてよ」

「二人とも? まだ10分も経ってないのにどうして」

「ノアっていういけ好かないやつがいたんだけどめっちゃ強くてさ~。私もそれなりに戦えるけどやつはやばかったよ。逃げるので精いっぱい」

「ノアって第一戦でトップだった人……」


 トップの実力を誇るノアはフィールドにいるチームを手当たり次第に攻撃して進んでいるという。


「てな感じで一人だと何かと不便だから一緒について行っていいでしょ」

「ミハルさんどうします?」

「助けてあげたいけど少なからず警戒をしちゃうね」


 二人が悩んでいるとフヨウはがくりと膝をつき悲しそうな表情に今にも涙がこぼれそうなうるうるとした目で二人を見ている。


「仲間が無残にやられてボロボロになりながらなんとかここまで来たのに誰も救ってくれないんだね……」

「え、いやそういうわけじゃ」

「ミハル、一緒に行こうよ! このままじゃこの子やられちゃうよ!」

「……わかった。でも、いざとなれば一緒に戦ってくれることが条件ね」

「わぁい! いくらでも戦うよー!」


 ケロッと表情を変えたフヨウを見て一瞬後悔したミハルだったがなんだかんだでツバキとそりが合ってるところを見て深く考えないことにした。


「ちなみに私これもってるよ」

 

 フヨウが見せたのはエースストライクを条件無視で発動することができるファストクライマックスというアイテムだった。


「だから、これを君たちのために使ってあげるから信用してよ。裏切るんだったらそもそも見せないんだし」

「確かに手の内を明かすのは信用できるかも。今からどうなるかわからないけどしばらくよろしくね」


 こうしてフヨウが仲間に加わった。


「見つけたぞ!!」


 突如現れたのは槍使いのロイド。第一戦の最初にであったプレイヤーだ。


「四人だと? まぁいい。全員仕留めてやる!」


 俊敏な動きでいきなりミハルを狙いにきたロイドは躊躇なく全力の突きを放った。柄に手さえ触れていなかったミハルは完全に後手となり防御さえままならない。


「やらせないよッ!」


 すると、さらに現れた人影がロイドを勢いよくドロップキックして向かいのお店へと蹴とばす。


「いやぁ、一人で来るなんてよっぽど自身があるんだね~。19世紀なら英雄だよ」


 その正体はフヨウだった。さすが忍びらしい俊敏さだと褒めようと思ったのもつかの間。


「いやぁ~さすが忍びだよね。自分ながら惚れ惚れするよ」


 後ろにフヨウが立っていた。


「えっ、フヨウが二人!?」

「違うよ。さっきまで君たちが話してたのは分身」


 パンと手を叩くと先ほどまで話していたフヨウが煙と共に消えたのだ。


「あはは~、だましてごめんね。でも、忍びだからさ」

「いや、それ理由になってないだろ……」


 ヤマトは呆れながら言った。

 蹴り飛ばしたロイドはたちがあり声を上げると剣士と弓使いの仲間が現れ四対三となる。

 すると、付近で戦っていた別チームもこの状況に気づき事態はどんどんぐちゃぐちゃに制御がきかなくなっていく。


「この中で最大火力が高いのってだれ?」

「ツバキかな。海を裂くほどのビームが出せるよ」

「じゃあ、ツバキちゃんはぐるっと回ってきてあそこの交差点から出てきて。で、私が合図したその最大火力のビーム撃ってよ」

「わかった! みんなしっかり避けてね」


 ツバキが移動を始めた直後、四チームによる混戦が勃発。

 

「くそ! 混戦だと分が悪いかッ」

「ヤマトくん離れないで。近くにいればカバーできるから」

「近接ふりなら私の分身一人援護に回すよん!」


 誰がいつやられてもおかしくない状態の中、フヨウは煙玉を地面に叩きつけた。

 煙が晴れるころにはミハルたちの姿は消えておりその向こう側にはチャージ満タンのツバキが立っていた。


「食らえーー!」


 ツバキのビームは道路をえぐりながら進み巻き込むすべての物を破壊していく。

 ロイドの仲間を一人倒し別チームの一般プレイヤーも巻き込んだが参加プレイヤーを完全に倒し切ることはできなかった。

 だが、完全に戦況を支配したミハルたちに対して分が悪いと判断し次々と離れていった。


「ふぅ~。すっきり!」

「さすがツバキのビーム」

「いやいや想像以上の攻撃力に驚きだよ」

「これがエースストライクじゃないのが謎すぎる。ゲームバランスおかしいだろ」


 無事に難を逃れた四人は安全にポータルへと向かってフィールドを移動した。


 次についたのは満月が照らすロンドン風の町であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る