第49話 お父さんたちは心配性

「はぁ」


 脱兎のごとく走り去る猫魔族を見送りながらリーレンはため息を付いた。

 上級魔族と悪魔族を追い出し、下級の獣系魔族が主流となった魔王城で、あらぬ噂があることは知っているし、それにも慣れていると思っていたが、あんなにあからさまにおびえて逃げられてはやはり少々傷つく。

 ギルガメシュとだいぶ打ち解けるようになってからは、他の魔族たちともそれなりに仲良くやっていると思っていたのだが、どうやら思い過ごしであったのかもしれないとさえ思ってしまう。


「こんなことではだめだ」


 ちゃんとみんなと向き合わなくては。


 あの、一年も経たずに部下だった魔族が総変りしていたような戦乱の世は終わったのだ、この平和な魔界ではコミュニケーションは大切である。


 ラエンはすでに魔王城の人気者になっていた。前魔王ラエンの父であるラセツもその膨大な魔力とカリスマ性で種族問わず皆に慕われていたのを思い出す。


 魔族は基本魔力の強いものにより引かれる生き物だった。

 その法則ならラエンについで魔力が高い龍神族であるリーレンも、人気者になるはずなのだが……


 そう思うと、再び落ち込む。

 自分でいうのもなんだが、そこまで顔面偏差値も悪くない、獣系が人型と美の基準が違うのは知っているが、獣たちがもっとも美徳とする髪質(毛質)だって悪くないと思う

 ただ、こんな朝露に輝く新緑のような色の毛の獣はいないので、それも原因の一つかもしれない。

 いやそれを言ったらラエンの太陽のような真っ赤な髪も嫌煙対象のはずだ


(やはり、自分の何かが獣族から嫌われる原因があるのだろうか)



☆──☆


──数千年前


「おい、リースイ」


 目に入れても痛くない我が子を抱きかかえながら、リースイと言われた龍神族の男が振り返る。


「何考え込んでるんだ」

「あぁラセツか」


 真っ赤な髪に綺麗な二本のツノの鬼神族がドカリとリースイの横に腰を下ろす。


「うちの子が可愛すぎて、どうしたものかと」


 一見ただの親バカ発言だが、鼻で笑い飛ばせる話ではなさそうだった。


「あぁ確かにリーレンは可愛いな」

「私はこの子が成人するまで、生きられないだろう」


 シュンとした顔でいう。


「こんなに可愛いんだ。もしこの子になにかあったら」


 確かにまだ幼子なのに異常な可愛さだった。

 魔力も相当高いというせいもあるが、それでも畏怖の念から人型にあまり近づかない獣族でさえ、近づかずにはいられない魅力がこの子にはあった。


(血の呪いのこともあるし。リースイが気が気でないのは仕方のないことだ)


「わかった。とりあえず気休めに過ぎないが」


 ラエンはそう言うと幼いリーレンの頭に手を乗せる。


「これでいくらか抑止力にはなるだろう」


 リーレンのまるで後光のように輝きを放っていた美しさが身をひそめる。


「ついでに認識阻害魔法もかけといたから、ある程度の魔力があるものでないと、リーレンの本来の姿を認識するのは難しいだろう」


 ラエンがやってやったといわんばかりにニカリと笑う。

 リースイもこれで少しは安心だなというように、ほっと胸を撫でおろしたのであった。

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