とある図書館の本
嬌乃湾子
とある本ととある読者
私はとある図書館の中にある本。仲間たちと共に沢山の戸棚の中で並べられています。
今日も館内には読書を楽しみに沢山の人が来ています。天井位いある幾つもの本棚に所狭しと並べられた本を順番に眺めながら、目当ての本を選んで読んだり、勉強をしたりそれぞれ静かな時を過ごしています。
私の本は
私を手に取り読んでくれる方もいれば、ぱらぱらと中を見て戻す人もいて、一日中ずっと本棚の中にいる時もしょっちゅうあります。
選ばれた仲間の本はそれぞれ手に取った人の相手をします。例えば、絵本を選んだ小さな子供にはあやすように、ノンフィクションを読んでいる男性には現実のリアリティーを突きつけるように悟し、向かいの二十巻にも及ぶ長編童話を手に取った女の子は、楽しそうに何巻も集中してずっと読みふけり、その本はまるでそんな彼女を優しく接しているようだ。それを見つめていた私にもその機会がやってきた。
二十歳くらいの青年の〈彼〉は私を手に取ると机に腰掛けました。
私と向き合う状態の〈彼〉は最初真剣に読み始めたがだんだんと「ん?」とか「おい」とか呟きながら読み続け、読み終えると最後には「それでいいのか!!」と本を閉じました。
彼はこの私を読んで何を思ったのか。
すると〈彼〉の〈友達〉らしき人がやって来て難解な顔をした〈彼〉に小さな声で「その本面白い?」と尋ねました。すると〈彼〉も囁くように
「ぜんっぜん解んね。俺、この作者に聞いてみたいよ」
そう思って再びパラパラとめくっていたが、最後のページに何かが挟んであった紙に付きました。
小さなメモ用紙にはこう書かれていました。
拝啓
本を楽しく読ませて戴きました。難解な文章、主人公とヒロインの心情に心を奪われました。しかし何故彼はこういう結果になったのですか?教えてください
〈彼〉は「何じゃこりゃ」と一言言った後、しばらく黙ると、〈友達〉にも「これ、読んでみ」と本を渡しました。
私は慌てふためいて本の世界から先生!!と空の世界へと叫ぶと、私の側に袴姿にくたびれた前開きのシャツ、丸眼鏡をかけた野暮ったい男が浮かび上がって現れました。
「何だね。小生は今忙しいのに」
丸眼鏡で表情を顔に出さずにそれを見ている濱河西吾郎先生に私は言いました。
「さっきの〈彼〉、あんな事を言っていますよ。説明してあげてください」
「誰も私の解釈なんて興味ないだろう。それに君、本というのは作家から切り離れた場所でありそれを見たものがどう思おうと私には関係のない事だよ」
「でも」
悔しくないんですか?と言おうとした時先生は指差した。
「ほら、もう一人の彼を見たまえ」
もう一人の〈友達〉は私をじっと見据え読んでいる。
「人それぞれだよ。たとえその中の一人しか理解者が得なかったとしても。君もちゃんと相手してあげなさい」
そう言って濱河先生はいなくなると、私に目を通してくれる〈友達〉としばらく一緒の時を過ごした。
読み終えた〈友達〉は本棚に私を戻した。
「どうだった?意味わかんなかったろ」
「確かにそうだった。でもこれもありなんじゃない」
「そうかな?でも俺は」
そう言いながらこの場を離れていく二人に私は言った。
『読んでくれてありがとう』
静かな時を過ごす場所。
私は今日も図書館の中で、仲間と共に過ごしています。
終わり
とある図書館の本 嬌乃湾子 @mira_3300
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