33話 光
あれから俺たちは廃墟と化したホテル通りを離れ、入り組んだ暗い坂道を【輝く石】で照らしながら上っていくことに。
「フォード、どこへ行くのさ?」
「すぐわかるから、とにかくついてくるんだ」
「あいあい」
リリも俺の性格をわかってるらしくて、それ以上は何も言わなかった。今打ち明けると楽しみが減っちゃうしな。こういう苦しい状況だからこそ、些細なことでもモチベーションを上げていきたいんだ。
「――うっ……」
道中、ちょくちょく死体が転がってるのを見て背筋に寒いものが走る。こういうときは、ポポンガおじさんの裸踊りでも思い出して耐えようか……いや、この際真似をしたほうがいいかもしれない。あれはリラックス効果もありそうだから。
「あ、ポポンが――」
「――ポンッ……!」
「……」
リリのこの反応の速さから察するに、どうやら同じようなことを考えてたっぽいな……。
まもなく俺たちが到着した場所は、巨大スラム街を見下ろすように立つ、丘の頂上に位置する教会だった。
「フォード、なんで教会に来たんだい……?」
「ああ、なんで教会なのかっていうとな、ここはよっぽどのことがない限り、寄付さえすれば一日くらいは中で泊らせてもらえるからなんだ」
「へえ……」
「もちろん、食事はおろか毛布すら出してくれないし、ボロボロの宿より居心地は悪いけどな。それでもこんな危険地帯で野宿するよりはずっとマシだろ」
「そりゃねえ」
「それにな、こういう神聖な場所で暴れ回るなんてことは、いくらならず者でもちょっとはためらう可能性もあるし、神授石も拾えるわけで一石二鳥どころか三鳥ってわけだ」
「なるほどぉ……。でもさ、ざっと見た感じだけど、全然落ちてないねえ」
「んー、そうだな。多分、乞食かなんかに拾われたんじゃないか? 神授石が与えられる洗礼の儀式が夜の12時からだから大分経ってるわけで」
さすがにライバルがまったくいないって考えるのは都合よすぎだろうしな。
「それじゃ、ここに泊らせてもらって、朝起きたらすぐ拾わないとだねっ」
「ああ、ここならすぐ拾いに行けるしな」
そういうわけで、俺たちは教会前の急な階段を上って中へと足を踏み入れたわけなんだが、どうにも様子がおかしい。ステンドグラスだけが頼りの薄暗い聖堂内には、誰かがいる気配がまったくないんだ。聖堂内を隈なく探してみたが、人の姿形はおろか、物音一つしなかった。
「教会が休みっていうのは聞いたことないし、関係者全員で巡礼にでも行ってるのかな?」
「かもだねえ。でもさ、だーれもいないし広いし居心地は最高だよっ!」
リリが祭壇の上に座って、足をジタバタさせてはしゃいでいる。
「まったく、リリはまだまだ子供だな……」
「あははっ。だって楽しいじゃないか……って、そうだ、誰もいないし大人の営みでもやっちゃうかい?」
「おいおい、罰当たりなやつだなあ……」
「へへっ……」
「んじゃ、しばらくここで休ませてもらって、神父たちが帰ってきたらこっちの事情を話すとしようか。洗礼の儀式が始まる前には帰ってくるだろうし」
「……」
「リリ?」
「くー、くー……」
「……」
なんだよ、リリのやつ、いつの間にか眠ってるし……。よっぽど疲れてたのか。
「はあ……しょうがないやつだな……」
俺は落下しないようにリリを祭壇から下ろしてやると、片隅のほうにある柱まで移動して、その陰で寝かせるとともに自分の服を被せてやった。ったく、世話の焼けるやつだ……。
「ふわあ……」
しばらく柱を背にして座る格好で教会関係者を待ってるんだが、一向に誰の姿も拝むことはできなかった。とにかく退屈だし眠いしで欠伸が出まくって、そのたびに目を擦るということの繰り返しだ。
隣でリリが憎たらしいくらいに気持ちよさそうに寝てることもあって俺も睡眠欲が湧いてくるが、二人とも寝ちゃったら事情を話せる人間がいなくなるわけだし我慢してるんだ。
って、そうだ。あのスキルがあったじゃないか……。俺は【視野拡大】と【輝く耳】を合わせて【覚醒状態】という、目が冴えるスキルを生じさせ、早速自分に使用してみた。
「――はっ……」
眠気が一気に吹っ飛んだし、これはかなり使える……。
それにしても遅すぎるな。巡礼が長引いてるんだろうか? スキル授与の儀式を受けようとする者が何人かいてもおかしくないのに、誰かが来る気配すらもない。奇妙だな……。
まさか、この教会までも治安が悪い余り、ホテル通りみたいに閉鎖しちゃったんだろうか……? 落書きとか窓が割れてるとかそういうのはさすがになかったが、駐屯地もないんだし殺人沙汰を恐れて神父たちが逃げ出したっていう可能性は大いにあるんじゃないか。
そうなると、もう待つ必要は……ん? 今、足音が聞こえてきたような……いや、間違いない。こっちに近付いてくる……。
「フォード、どうなった――?」
「――シッ……!」
タイミング悪く起きてきたリリの口を咄嗟に塞ぐ。
「誰か来る」
「も、もがっ……?」
一体誰なんだ……?【希薄】で自分たちの存在感を消したが、それでも近付いてくるってことは、ここに俺たちがいることに気付いてる可能性が高い。なんせこっちは祭壇があるほうじゃなく、端っこの柱の裏側だからだ。
だが、問題ない。俺は目が冴えていたこともあって慌てず、スキルシミュレーション通りに戦闘用のスキルを次々と組み立てていった。
エルフのような人外相手である場合勝つことは極めて難しいが、それでもこれらのスキルを駆使すれば逃げることくらいはできるはず。だからどんな相手だろうと上手く立ち回ってみせるつもりだ……。
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