No.46:夕食のリクエスト
僕は再び200円を投入する。
アームを横に動かして、次に奥へ動かす。
すみかさんは「ストップ」って言ったけど、ほとんど聞いてない。
ただ集中したかっただけなんだけどね。
アームが降りてきて、人形はしっかり掴んだ。
よし、これはいける。
人形を掴んだまま戻ってきたアームは、そのまま取り出し口に人形を落とした。
「取れたーーーーーー!」
「すみかさん、声大きいです」
周りの人達が、生暖かい目で僕たちを見ていた。
傍から見れば、もう完璧なバカップルだろう。
僕は取り出し口から人形を取り出した。
「はい、どうぞ」
すみかさんに手渡した。
「うわーー、うれしーー」
ライマー君を胸に抱えて、小さくぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ねえねえ、見て! 可愛いよ!」
どこが?と思ったけど。
頭がライオン、首から下が馬って。
ケンタウルス並みにシュールだけど。
でも、こんなに喜んでくれている。
「すみかさん、もう1回言いますね」
「なあに?」
「チョロ過ぎます」
「もういい! チョロくたって、何だって! 嬉しいものは嬉しいの!」
すみかさんは人形を正面から見てニコニコしている。
「名前つけなきゃね」とか言ってるし。
人形は結構な大きさだったので、カウンターに行ってビニール袋をもらおうとした。
ところがレジ袋が有料化されたときにあわせて、無料で袋を渡すのは廃止したらしい。
結局このまま持って帰らないといけない。
「どこかで袋買いましょうか?」
「いらない、いらない。このまま持って帰るよ」
僕たちはアラウンド・ワンを出た。
すみかさんは、左手で大きめの人形を抱え、右手で僕の腕を抱えている。
「この子の名前が決まったよ!」
電車に乗って、横に座っているすみかさんが高らかに宣言した。
「一応聞きましょう」
「翔太郎君です!」
「……変更を希望します」
「却下します!」
ライマー君よりダサい名前が爆誕していた。
電車を降りて、僕たちは業スーに寄った。
すみかさんが買い物代金を払ってくれた。
僕が払うと言ったけど、固辞されてしまった。
結局アパートに戻ってきたのは、夕方の7時過ぎ。
それから僕は、食事の用意をした。
と言っても、ものすごく簡単だったけど。
食事を用意しているあいだ、すみかさんは人形を自分のベッドの枕元に置いていた。
「翔太郎君、ここが君の新しいお家だよ!」とか言ってる。
この人、本当に早慶大卒の23歳だよね?
………………………………………………………………
「こんなんで、よかったんですか?」
僕はテーブルの上に並んでいる料理を眺めて、そう言った。
「うん、そう。これが食べたかったの」
すみかさんは満足そうだ。
テーブルの上に並んでいるもの。
冷凍の焼肉ライスバーガー。
卵スープ。
冷凍チャーハン。
冷凍ブロッコリー。
ほぼ全て業スーの冷凍食品だ。
もちろんこの意味が分からないほど、僕もバカじゃない。
これだけでは食卓が寂しかったので、一応ついでに回鍋肉も作っておいた。
「全てはこの食べ物から始まったんだよ」
「ええ、そうでしたね」
すみかさんは感慨深げにテーブルの上を見つめている。
僕たちはいただきますをして、食べ始めた。
安定の冷凍食品。
いつもの味だ。
「あの時翔君に助けてもらわなかったら、どうなっていたかな」
「きっといろんな所で、痛い目にあっていたと思いますよ」
「そーかな? これでも警戒してるほうだと思うんだけど……」
「どこがですか」
ツッコまざるを得ない。
「でも本当に、いつも美味しいご飯ありがとうね」
「こちらこそ掃除洗濯ありがとうございます。とても助かってます」
「なんだか色々と、翔君に甘えてばっかりだね」
「本当ですね。6つ上のお姉さんとは、とても思えません」
「あー言ったなー!」
急にむくれるすみかさん。
「でも……そっか……考えてみたら6つも違うんだね……」
声がひどく落ち込んでいる。
「すみかさん?」
「ん? ううん、なんでもない!」
そう言ってチャーハンを口に頬張った。
食事をしながら、話題はすみかさんがロサンゼルスに留学していた時の話になった。
「アメリカのハンバーガーってね、もちろん場所にもよるけど本当に大きいんだよ」
「そうなんですか?」
「そう。それでね、いろんな具材をトッピングしてくれるお店もあるの。そこで私の友達がトッピングを聞かれて、よくわかんないものだから「エブリシング」って言ったら、こーんなに大きなハンバーガーが出てきて、20ドル以上取られたんだよ」
目をキラキラさせながら、両手でハンバーガーの大きさを教えてくれた。
すみかさんはいつも話題豊富で、話し上手だ。
大人の女性だなと思わせる一方、ゲームコーナーの時みたいな子供の表情も見せる。
とても不思議で、魅力的だ。
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