No.45:集中できない


「いいですけど……でも難しいのは作れませんよ」


「違う違う。前に作ってくれたものだよ。帰りに業スーに寄って、買い物して帰ろうよ。食材は私が買うからさ」


「分かりました。じゃあ、そうしましょう」


 そう言って僕は、フライドポテトをひとつ口に運んだ。

 ところで……今日、ちょっと気になる事がある。

 すみかさんの距離が、とにかく近いのだ。


 アパートからここへ来る時に、ずっと僕の腕を取っていた。

 そしてたまに僕の手に指を絡めたりしてくる。

 びっくりしてすみかさんの顔を見ると、顔を赤らめて僕の顔を見上げたりしているのだ。

 どうしたんだろう。

 これ、完全に勘違いするヤツだ。


 昼食を食べ終えて、次はカラオケだ。

 最初に曲を入れたのはすみかさん。

 1年くらい前にヒットした、女性シンガーソングライターの曲だ。


 う、うまい!

 透明感のある歌声で、音程が全く外れない。

 サビの部分の高音の伸びもすごい。

 へたをしたらオリジナルより上手いんじゃないか。

 そんな圧巻の歌いっぷりだった。


「すみかさん、めちゃくちゃ上手いじゃないですか」


「そうかな? でもカラオケは好きだよ。最近行ってないけどね」


「僕よくわからないんですけど、お店にカラオケとかないんですか?」


「あるある。でも私、最近歌わないようにしているの。なんかね、悪目立ちしちゃって」


「あー、なんかわかります」


 そりゃこれだけの歌声をお店の中に響き渡らせたら、目立ってしょうがないだろうな。


 僕はアニソンにもなっている、有名なバンドの曲を歌った。


「翔君、上手じゃない」


「いや、すみかさんに言われても」


「カラオケはよく来るの?」


「ええ、この間も智也と亜美と三人で行きました。僕が一番下手なんですけど」


「そうなんだ。楽しそうでいいなあ」


「まあ楽しいは楽しいですけどね」


 でも僕は、今の方がもっと楽しいかも。


 僕たちは2時間しっかり歌った。

 声がガラガラになってきた。

 朝から体も動かしたから、結構体力を使った。


 カラオケコーナーを抜けたところに、ゲームコーナーがあった。

 クレーンゲームが、たくさん置いてある。

 すみかさんは興味津々だ。


「すみかさん、これやったことありますか?」


「ないの。でも前からすごく興味があって」


「やってみればいいじゃないですか」


「だって一人じゃ、やりにくいじゃない。それにね、ほら、よくカップルで男の子が人形をとってあげて、女の子にに渡したりとかしてるでしょ? もーあれ見てさ、いいなーって、ずっと思ってた」


「……やっぱりすみかさん、チョロいですよ」


「だからチョロいって言わないの!」


「でもそこまで言われたら、取るしかないですね」


「えー、翔くん取ってくれるの?」


 僕はすみかさんと二人で、クレーンゲームを物色し始めた。

 すみかさんは僕の腕を取って、密着しながら台のガラスにへばりついている。

 顔を盗み見ると、目をキラキラと輝かせている。

 何というか……甘えられている感じだ。

 どっちが年上だか、わかんないや。


 僕は1台のクレーンゲームに狙いを定める。

 アームが二本のタイプ。

 僕はこのタイプが好きだ。


 ポジション的に、ひとつ取れそうなのがある。

 まあ1回では無理かもしれないけど。


 台に張ってあるポスターを見てみる。

 その人形は、頭がライオン、首から下が馬。

 ライマーというキャラクターらしい。

 名前がこの上なくダサい。


「すみかさん、こんなんでもいいですか?」


「いい、いい! もう何でもいいよ!」


 ハードルを下げてくれて助かった。

 僕はその台に200円入れる。

 ボタンを押して、まずアームを横に動かす。

 すみかさんは、ずっと僕の腕を取っている。

 次にもう一つのボタンを押して、アームを奥に動かす。


 アームがゆっくり下がって、人形をつかむ。

 すみかさんが僕の腕を取り、ギューッと掴む。

 同時に僕は、すみかさんのGカップを想像する。

 いまどんな状態なんだ?……


 だめだ、全然集中できない。


 アームは一瞬人形を掴んだが、すぐにポロっと落ちてしまった。


「あーーー」


 すみかさんの声が響いた。

 僕は落ちた人形のポジションを見る。

 うん、次なら行けるかも。

 集中しよう。


「すみかさん、ちょっと横から見てもらえますか? 奥にアームを動かす時、ストップって言ってください」


「うん、わかった!」


 すみかさんは僕からパッと離れて、台の横の方へ移動した。

 よし、これなら集中できる。

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