No.41:結果発表


 冬休みが終わって、新学期が始まった。

 僕はまた学校に行って、終わったらバイトの日々。

 そして週末は買い出しだ。


 すみかさんは正月明けから、夜のバイトが始まっている。

 日曜日はお休みなので、一緒にYoutube用の動画撮影をお願いしている。

 撮影の時はすみかさん自ら、自主的に工夫してくれている。

 胸が深く開いているVネックのシャツとか、下着をわざと透けて見えるようにしたりとか……。

 とにかくもうノリノリで、再生回数も順調に伸びつつある。


 一方でお昼間の就職活動は、やっぱり難しいようだ。

 そもそも募集自体がないとぼやいている。

 私立高校の募集にはダメ元で全て応募しているらしいが、やはり「要経験」のところで跳ねられるらしい。

「根気よくやって行くよ」と力なく笑うすみかさんが痛々しい。



 学校のWebプロジェクトの方は、順調に進行している。

 学校行事などを定期的にアップロードしたり、引き続き簡単なトピックなどをSNSで配信したりしている。


 先日のオープンキャンパスの動画も、反響が大きかった。

 受験生のみならず、父兄の方々にも学校のPRができたと思う。

 実際、学校への問い合わせ件数も増えているという。


 そして1月の終わり。

 ついにこの時がやってきた。

 城京一高の入学試験願書の受付が始まる。


 願書受付期間は一週間。

 その9割が、オンライン出願だ。

 つまり一週間後に、ほぼ結果が分かる。


「なんか俺、緊張してきた」


「あたしも。でもあたしたち、めっちゃ頑張ったよね。だから去年よりは絶対に増えるはずだよ」


「それは間違いないと思う。後はどれだけ増えるかだね。僕たちは最善を尽くした。後は天命を待とうよ」


 智也も亜美も、心配している。

 当事者だから当たり前だ。

 この一週間は、本当に気が気じゃなかった。


 願書受付の締め切りが過ぎて、翌月曜日。

 僕は放課後、校長室に呼び出された。

 いよいよ結果発表だ。


「失礼します」


「おー瀬戸川君。ご苦労さん。色々と聞いとるぞ。本当に頑張ってくれたそうじゃな」


「いえ、僕だけじゃないです。みんなが本当に協力してくれました」


「うむ、皆をまとめる力というのも、ひとつの能力じゃからな。さて、願書受付の結果がでたぞ」


「はい……」


 緊張する。


「驚くなよ。オンライン出願の数字だけで、昨年の3.8倍じゃ。おそらく郵送受付の分も含めれば、4倍を超えるじゃろう。これは物凄い数字じゃぞ」


「本当ですか! やったーー」


 僕は校長室にいることも忘れて、派手なガッツポーズをしてしまった。


 うちの学校は、1学年約350人。

 入学試験の今年の受験料は、2万円。

 昨年どれぐらいの出願があったかは分からないが、去年と比較して少なく見積もっても数千万円単位で受験料収入が増える計算だ。

 これは凄い事じゃないだろうか。


「当然合格倍率は跳ね上がり、結果として来年のわが校の偏差値もグンと上がることになる。いよいよわが校も、優良高への仲間入りじゃ。瀬戸川君、本当によくやってくれた」


「はい、ありがとうございます! 僕も嬉しいです!」


「うむ。そこでもうひと仕事、頼めるかの。このプロジェクトの詳細を、レポートにまとめてくれんか? それを叩き台にして、来年からも続けて行きたいと思っておる。それに……」


 校長は強い眼力で、僕の顔を見た。


「特別推薦枠の選考のときに、有力な資料となるじゃろ。自分のためだと思って、頑張って作ってくれるか?」


「もちろんです! やらせてください」


「うむ。では頼んだぞ」


「はい、ありがとうございました」


 僕は立ち上がった。


「それから校長先生。今回の事、いろいろご配慮いただいて、ありがとうございました」


「何を言っておる。わしはプロジェクトをお願いした。お前さんは結果を出した。それだけの話じゃ」


「でもチャンスを与えていただきました。本当に感謝してます。では、失礼します」


 僕は背中に羽が生えたような心地で、校長室を出た。


 早速智也と亜美に報告しに行った。

 二人は部活にも行かずに、待ってくれていた。

 二人とも派手なガッツポーズで喜んだ。

 僕と同じだ。


「よかった……本当に良かった……」

 亜美はもう、半泣きだ。


「アンバサダー、頑張った甲斐があったぜ!」


「二人とも、本当にありがとう。二人のおかげだよ」


「翔、よかったな。特別推薦枠、これでいけそうだな」


 この2人には、特別推薦枠の話はしてある。

 そして僕の家庭の事情を知っている2人は、心から応援してくれている。


「ああ。まだ決定じゃないけど、随分近づいたと思ってる」


「なんか奢れよな!」


「もちろん。マクドでいいか?」


「おめー、もっといい物おごれよ!」


 智也が僕にヘッドロックをかけてくる。

 亜美は大笑いしている。

 僕は本当にいい友達に恵まれた。


 アパートに戻って、すみかさんにも報告した。

 すみかさんは僕の腕を取って、飛び上がって喜んでいた。


「凄い凄い! 前年対比で受験生の数が4倍とか、私聞いたことない! それは物凄いことだよ。多分全国から注目されると思う」


 すみかさんの目から見ても、凄いことなんだ。

 僕はまた嬉しくなった。


「これで推薦枠、取れそうだね」


「そうですね、大きく前進したと思います」


 僕は運にも友達にも恵まれてた。

 もちろんすみかさんがいてくれたことも、天の助けだと思ってる。

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