No.32:「頼りにしてるよ!」


「こ、怖かったよぉ……」


「そうみたいでしたね。見なきゃよかったのに」


「で、でもせっかく咲楽にチケットもらったし。見ないと悪いと思って」


「まあそうかもしれませんけど」


「でもさ、あの院長、ひどいよね。実験のために男の人を手術したなんてさ」


 え、そういうストーリーだったの?

 知らなかった。

 こっちはもう、それどころじゃなかったからね。


 映画館を出て、結局外で食べて帰ろうということになった。

 二人で和食のファミレスに入った。

 僕は生姜焼き定食、すみかさんは親子丼を注文した。


「たまに外で映画を見るのもいいよね」


「そうですね。僕も久しぶりでした」


「なんかさー、デートみたいじゃない?」


 ちょっとニヤニヤするすみかさん。

 これ、絶対からかってるな。


「どうせ弟とデートとか言うんでしょ?」


「えー、そんなこと……あるかな?」


「あるんだ」


「冗談冗談。でもさ、翔君も6つも上だったら、お姉さんっていう感じじゃない?」


 僕は映画館の中での事を思い出した。

 怖がって、僕の腕にしがみついてくるすみかさん。

 なんだか……可愛かった。

 守りたい、って思った。


「うーん、あんな風にしがみつかれたら、お姉さんって感じではなかったですね」


「えー、そっかぁ。でも本当に怖かったもんなー」


 注文したものを食べ終えた僕たちは、お茶を飲みながらくつろいでいる。


「でも翔君さ、やっぱり……頼りになるよね」


「本当にそう思ってます?」


「思ってるよー。なんかさ、腕にしがみついた時とかね。翔君が守ってくれるって思えるんだ」


 すみかさんは、少し下を向いた。

 何かを思い出したように、頬を紅潮させる。


「前に一人暮らししてたときにも、たまに熱をだしたときがあったんだけどね。不安でしょうがなかったんだ。ほら、体調が悪くなると気が弱くなるじゃない?よく一人で泣いたりしてた」


「あー、たしかに一人だと心細くなりますよね」


「でもこの間ね、翔君がさ、その……一緒に添い寝してくれたじゃない? ものすごく安心できたんだ。あ、私の居場所がここにある、ここに居ていいんだって言ってくれる人がいるって」


 すいません、もの凄く照れくさいんですけど。


「だから翔君、頼りにしてるよ!」


「僕はいろいろと我慢しないといけないんですけどねぇ。まあ役得ではありますけど」


「えー、やっぱそうなの?」


「そうですよ。こんなに知的で可愛くてやさしくて、でも隙だらけで巨乳のお姉さんに抱きつかれるんですよ? そりゃあ鋼の理性がなきゃ、やってられませんって」


 すみかさんは、頬をさらに赤らめる。


「も、もう……じゃあ、将来の予行演習ってことでね。ほら、翔君だって将来彼女ができるわけじゃない?」


「できるんですかね?」


「すぐにできるわよ! あ、でも私が邪魔してるのか」


「今気づきました?」


「えー、ひっどーい」


 少し頬を膨らましたあと、すぐに笑顔になる。

 本当に可愛い人だな。

 僕は心臓をぎゅーっと掴まれるような錯覚に陥った。

 でも……報われないことは、最初から望まない方がいい。

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