No.21:「でも好きなんだろ?」


 翌日、僕は亜美に呼び出された。


 亜美は僕に謝ってきた。

 昨日はごめんなさい。

 翔の気持ちは分かったから。

 でもこれからも、友達でいてほしい、と。


 僕も亜美に謝った。

 ウソをついてて、ごめん。

 僕の方こそ、友達でいてほしい、と。


 学校からの帰り道。

 僕は智也と歩いている。

 智也は今日は部活が休みらしい。


「いろいろあったみたいだな」


「うん。智也には本当に悪いと思っている」


「ん? んー、まあ本当は一発殴ってやりたいところだけどな」


「殴られても仕方ないと思う」


「でも亜美が怒るだろうし、やめとくけど」


 そう言って智也はニカッと笑った。

 本当にこういうところが、爽やかイケメンだ。


「でも、これで俺も遠慮しなくていい、ってことだな」


「今まで遠慮してたの?」


「そりゃ、お前! うー、ムカつく! やっぱお前一発殴らせろ!」


「ちょっとちょっと」


 二人でじゃれあいながら、ジグザグに歩く。

 僕は智也にも、救われているんだな。


「でもどうなの? その巨乳のお姉さん」


「巨乳って……」


 まあ確かにそうだけど。


「ずっと翔のアパートに住むのか?」


「わからない。何か他にいい仕事が決まれば出て行くかもしれないし。教師の仕事が見つかるまで、一緒にいるかもしれない」


「で、ぶっちゃけどうなの? ヤッたの?」


「そういうのはないよ。マジで」


「そうなのか? 一緒に住んでるのに?」


「ないない」


「ふーん。そんなもんか。でも好きなんだろ?」


 すみかさんのことを……好きなのかな?


「よくわかんないや。好きなのかもしれないし、単なる憧れなのかもしれないし。でもすみかさんは、僕のことを子供としか見てないからね」


「そっかなー? わからんぞ。あ、でも6つ上かぁー。微妙だなー」


 でも多分「弟」ぐらいにしか、思ってないと思う。

 だからあの下着に対する貞操観なのかもしれない。

 目の保養にはなるけど、いろいろとなんとかしてほしい。

 いや、やっぱりそのままでいいです……。


 それからしばらくの間は、何事もなく時間が経って行った。

 すみかさんは相変わらず夜はバイト。

 昼間は勉強したり、たまに就職活動もしているようだ。

 僕はバイトがない日は、夕食をすみかさんと一緒に食べている。

 すみかさんは僕が作る料理を、いつも美味しいと言って食べてくれる。

 本当に作り手冥利に尽きる。


 すみかさんは、掃除と洗濯を全面的に担当してくれている。

 もうそれは、ほとんど完璧と言っていい。

 僕の分の洗濯物も、きっちり畳んでくれる。

 掃除だって、キッチン周りもトイレもお風呂もピカピカだ。

 料理をしていても、とても気持ちがいい。


 それからあの夜以来、悪い夢はピタッと見なくなった。

 妹のあの声も、聞こえなくなった。

 すみかさんに、うなされているかどうか聞いてみたけど、大丈夫みたいだ。

 本当にすみかさんのおかげだ。

 妹も僕のことを許してくれてるといいんだけど。


 そんな日常が続いていたある日。

 僕は学校で、呼び出しを受けた。


 しかも校長先生からだ。


 校長先生直々に呼び出しを受ける生徒なんて、ほとんどいない。

 何かよっぽどの重大事項だ。

 そんな重大事項……思い当たることはひとつしかない。

 同棲がバレたのか?

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