No.17:「今はそれでいいや」


「いらっしゃいませー」


 今日は木曜日。

 僕は学校が終わって、今バイト中だ。


 先週末すみかさんに協力してもらって、Youtube用の動画撮影をした。

 結局他の料理も含めて、3本まとめ取りをした。

 1本は即日アップロードして、大反響だった。

 あとの2本も編集して、また近日中にアップロードしようと思う。


 それにしても、すみかさんの胸の破壊力がハンパない。

 ただでさえ大きいのに、ヌーブラで更に盛っている。

 Gカップでも十分大きいのになぁ……僕はすみかさんの柔らかそうなバストを想像する。


「いらっしゃいま……せ」


「お、働いてるねー」


 制服姿の亜美だった。

 僕は無意識に、亜美の胸を凝視した。


「な、なに?」

 亜美が胸を押さえながら体を背ける。


「あ、いや」

 僕は焦って、視線を戻す。

 因みに亜美の胸は、かなり残念な感じだ。

 すみかさんを見てるから、余計にそう思うだけかもしれない。

 それにあんまり大きいと、テニスの時に邪魔になるだろうしな。


「亜美、どうしたんだこんな時間に」


 時間は夜の7時前。

 こんな時間に亜美が来るのは珍しい。


「え? う、うん……お母さんが急に外出することになっちゃってね。ご飯自分で適当に食べといてって言われたんだ。だから翔、一緒に晩御飯どうかなと思って」


「なるほど」


 どうせ家に帰っても、すみかさんはいない。

 たまには外食もいいかもしれない。


「智也には声をかけたのか?」


「うん、連絡したんだけどね。もうお母さんがご飯の用意をしちゃったらしいの」


「まあ急に言われればそうだよな」


「でも翔、一人暮らしだからいいかなと思って」


「うん……いいぞ。もうじきバイト終わるから、待っててくれるか?」


 ちょっと智也に罪悪感を感じたけど、まあそういう事情ならしょうがないか。


「うん、ありがと。じゃあ飲み物だけでいいや」


 そう言って亜美は、アイスティーを注文した。


 また周りのスタッフが、わらわらと集まってきた。


「瀬戸川君、誰? 美少女だね?」

「かわいい娘だね。彼女? 彼女なの?」

「この間のお姉さんと違うよね? なに、二股?」

「瀬戸川君、合コンを企画するようにお願いして」

 店長、その年齢でJKとの合コンは違法です。


………………………………………………………………


「どこに行こうか?」


「どこでもいいけど……僕は安い所しかいけないよ」


「じゃあマクドは?」


「勘弁してよ」


「じゃあサンゼは?」


 またサンゼリアか……頻度が高いな。

 でも予算的に助かるかも。


「うん、サンゼにしようか」


 僕たちはサンゼまで歩いた。

 待ち時間もなく、すぐに席に案内してもらった。


 僕はハンバーグとドリア、亜美はタラコスパゲッティーとサラダを注文した。

 ドリンクバーから戻ってきた僕たちは、取りとめもなく話し始めた。


「部活大変なのか?」


「うん、大会が近いからね。毎日結構ハードだよ」


 亜美は女子テニス部のエースだからな。


「そういえばこの間さ、いとこの……すみかさんといたじゃない?」


「ああ、リトニでな」


「綺麗な人だね」


「ん? ああ、そうかも」


 綺麗だけじゃなくって、すっぴんだとすごく可愛い。

 頭もいいし大人だし、話しててとても楽しい。

 それに胸だって……


「好きなんでしょ?」


「ぶフォッ」


 僕はコーラ吹き出した。


「何言ってんだ? いとこのお姉さんだぞ」


「いとこだって、結婚できるんだよ」


「え? そうなの?」


 知らなかった。

 まあ僕には、いとこがいなかったからな。


「それにさ、あの時翔の顔、もうデレッデレだったよ」


「そんなことないと思うけど」


 リトニに行った時のことを思い返してみる。

 そんなにデレデレだったかなぁ……。


「すみかさん、何歳なの?」


「えーと……大学卒業したばっかりだから、22か23歳じゃないかな」


「へー、じゃあ学年でいうと6つ上かぁ……」


 6つ上……改めて考えると、結構離れてるんだな……。


「じゃあさ、翔は今好きな人、いないってこと?」


「どうした急に? いないよ。そんな余裕ないってこと、亜美だって知ってるでしょ?」


「えっ? う、うん、まあ、そっか……」


 亜美も智也も、僕が両親を亡くしたことを知っている。

 幸いなことに、衣食住の住は慎一おじさんにお世話になっている。

 でも衣と食は、僕はバイトで稼いだお金で賄っている。


 学費は両親が残してくれたお金と保険金とかで、高校まではなんとかなるらしい。

 その辺の管理は、慎一おじさんに任せている。

 だけど大学までの学費は、全然足りないらしい。

 とても恋愛している余裕などないのだ。


 いや、「余裕などなかった」というべきか。

 紆余曲折あって、今僕はすみかさんと一緒に住んでいる。

 年上のお姉さんと、まあ同棲しているわけだ。


 僕の生活は一変した。

 毎日楽しくて仕方がない。

 難点を言えば、すみかさんが僕のことを子供としてしか見ていないことぐらいか。

 まあそれは仕方がないだろう。

 実際子供なんだからな。


「う、うん。わかった。とりあえず今はそれでいいや」


「?」


 なんだか今日の亜美は、よくわからないな。


 僕たちは夕食を食べ終えて、サンゼを出た。


「じゃあ翔、また明日ね」


「うん、気をつけて帰れよ」


 僕は亜美を家まで送ることはしなかった。

 まあ足も速いし、大丈夫だろう。

 彼女の背中を見送りながら、僕は小さくため息をついた。

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