No.12:「学校の先生と同じだよ」


 僕たちは一旦アパートに戻る。

 二つの大きな買い物袋は、結構重い。

 アパートに戻って、荷物を置いた。


「すみかさん、お昼どうしましょうか?」

 時間は12時近くになっていた。


「何か外で食べよう。お礼にご馳走するから。また安い所になっちゃうけど」


「えーいいんですか? 嬉しいな。じゃあまたサンゼでどうですか?」


「また? 翔君はそこでいいの?」


「ええ。サンゼ大好きなんで」


「マクドは?」

 すみかさんは、いたずらっぽく笑う。


「勘弁してください。あの時だって大変だったんですから」


 彼女か?とか再三聞かれた話をした。


「あはは。じゃあ今度同棲してます、って言ってあげたら?」


「冗談はやめてください」

 それこそパニックになる。


 僕たちは再びアパートを出て、駅方向に向かう。

 サンゼリアに入ると、しばらく待ってから席に案内された。

 やっぱり日曜日は混むんだな。


 僕はカルボナーラの大盛り、すみかさんはドリア、シェア用にピザを一枚注文した。

 僕は朝作ったスペアキーを渡す。

 すみかさんは「無くさないようにしないとね」といって、財布にしまった。

 食事の会計は、すみかさんに払ってもらった。

 ごちそうになります。


 食事を終えて、駅に向かう。

 そこから電車で15分。

 この街で一番の繁華街だ。

 この駅の正面に、リトニがある。


 ちなみに、すみかさんがバイトしている「ナディア」というお店も、この駅の裏側にあるらしい。

 僕はこの駅裏にはめったに行かないので、よくわからないが。

 ということは、アパートからだと30分かからないくらいか。

 わりと近くてよかった。

 帰りは車で送ってもらえるようだし、安心だ。


 2人でリトニに入る。

 僕はショッピングカートを持って、すみかさんの後をついて行く。


 すみかさんは、最初に一番小さいサイズのハンガーラックをカートに入れた。

 それから二人で、ぶらぶらとフロアを散策した。

 なんだかデートみたいだ。


 台所用品売り場で、また外国人のカップルがいた。

 何かを探している感じだ。

 さっきと全く同じパターン。

 すみかさんは、彼らに近寄った。


「大丈夫ですか? いんぐりっしゅ、OK?」

 すみかさんは、彼らに語りかけた。


 彼らも身振り手振りで、すみかさんに話しかけている。

 3人で、どこかへ移動していく。

 僕もまた後からついていく。


 日用品のコーナーに、彼らの探し物があった。

 突っ張り棒だった。

 え、突っ張り棒って外国人に人気なの?


 外国人カップルはすみかさんにお礼を言って、別のコーナーへ歩いて行った。


「すみかさん、優しいですね」


「ん? 普通だよ。でも外国人観光客には、できるだけ声をかけるようにしてるの。何かお困りですかとか、写真撮りましょうかとか」


「偉いですね」


「だってさ、旅行先で現地の人に優しくされると、それだけでいい思い出にならない? また行きたいなって思うようになると思うんだ」


 なるほど、そういう考え方があるのか。

 僕は感心してしまった。


「でもどうしてさっきは、日本語で声をかけたんですか? ソーダイの時は、最初から英語で話しかけてましたよね?」


「ん? ああ、ソーダイの人たちは、アメリカ英語で話してたからね。だから英語で話しかけたの」


 なんでもない事のように、すみかさんは言った。


「今の人たちは、ロシアか東欧の言葉で話してたの。だからもし英語ができない人達だったら、困るかなと思って」


「そこまで聞いてたんですね」


「だってもし英語ができなくて、いきなり英語で語りかけられたら戸惑っちゃうでしょ? だからこっちもカタコトで語りかけたら、向こうもコミュニケーションをとりやすいかな、と思って」


「凄いです」


「凄くないよー。学校の先生と同じだよ」


「えっ?」


 意外な言葉に、僕はすみかさんの顔を見た。


「先生と同じって?」


「ん? ああ、だって英語ができる子もいれば、苦手な子もいるわけじゃない? それなのに、みんな同じカリキュラムで教えていくこと自体がおかしいんだよ。一人一人のレベルに合った教え方をしていく。まあ理想論なんだけどね」


 すみかさんは、ちょっと寂しそうに笑った。


「すみかさん、いい先生になれますね」


「そお? そう言ってもらえると、嬉しいな。就職浪人中だけどね」


 すみかさんは自虐的に苦笑した。


 でも僕は、こういう人に英語を教えてもらいたいと思った。


 今の学校の授業はどうだろうか?

 教科書に沿って全員同じように授業が進められて、同じように宿題が出て、同じように答え合わせをして。


 成績の良い生徒はどんどん伸びるけど、悪い生徒はそのままだ。

 各個人のレベルに合った授業の進め方があればいいのに。


 でも確かにそれは、先生の負担が大きくなってしまうんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る