佐都春馬のサイン会

nekotatu

私と読者と仲間たち

「おいおい佐都。……これはどういうことだ?」


そこには正座で目を反らす佐都春馬さとはるまと、佐都のスマホを見て顔をひきつらせる栗須純くりすじゅんがいた。


『あの天才作家佐都春馬がサイン会!?』


栖水すみず町だって!これは行くっきゃないっしょ!』


『誰か詳しく教えて。というか、会場どこ?』


「一体どうすりゃいいんだよ…この事態」


「本当にごめん。うかつだった……」


何が起きたか説明しよう。


佐都はSNSを頻繁に利用しており、ゲーム用のアカウントと作家としてのアカウントを使い分けるほど活用していた。

ゲーム友達も多く、ある日仲のいいゲーム友達とオフ会しようという話になった。

佐都はこれまでも何回かオフ会をしたことがあり、今回もそうなると思っていたのだが……


「まさかアカウントを間違えて作家の方で発言しちゃうとは…」


ゲーム用のアカウントに発信するはずが、作家としてのアカウントで『何日何時に栖水町で会おうね!』と告知のような形で発信してしまったのだ。

それは瞬く間に拡散され、ファンたちが沸き上がった。背鰭と尾ひれもついている。

中には『本当に?』と疑問視する人もいたが、それ以上にファンの期待が大きいようですぐに流れていった。


なお、SNSが苦手な栗須がこのことを知ったのは今日。

そして今日はそのオフ会の実施日である。


「あ~~~~もっと早く言ってくれればやりようがあったのに」


「どうしよう、もうファンっぽい人々が集まってる……いっそ佐都春馬ファンオフ会じゃんね」


「現実逃避したいが……。佐都、全力で解決方を考えるぞ」


「そうは言っても~」


二人で悩んでてもらちが明かない。

これは様々な、多くの人の協力が必要だ。


「俺は上司に連絡するから、佐都は誰か頼れそうなやつに協力を要請してくれ」


「あいあいさー!」


さて、佐都は自分の連絡帳を開く。

そこに登録されている人数は少なく、佐都が呼べるのは探偵、ハンバーガーショップの店員、神社の神主さんくらいだった。


「あーー、全員に送ろう!なんとかなる気がする!」


佐都は探偵の須賀煌すがこう、ハンバーガーショップの店員の原美乃利はらみのり、神主の風民蓮司かざたみれんじにさっそく事情と助けを求める旨のメールを送った。

また、近所に住んでいるらしい長年の付き合いのゲーム友達にも助けを求めてみた。

いつもはのんびり飄々としている佐都だが、今回のことの重要さはわかっていた。

そして頭をフル回転して解決する術を考える。


「目指すべきはサイン会の実施かな」


ここまできて「サイン会なんてありません。作家のミスです」なんて言っても納得してくれないだろう。手ぶらで返すのはよくない。

しかしサイン会をするにも会場と物資、情報の統制、あとこれは贅沢だが特別感が欲しい。

しかしまずは人が必要だ。


「純、人手がたくさん欲しいかも」


「わかった。義父と義妹とその友達にお願いしてみるよ。煌にはもう送ったんだよな」


「ちっす先輩方。お話に上がりました須賀煌すがこうっすよ。佐都さん、やらかしましたね。僕は笑いすぎてお腹がいたいっす」


まず駆けつけてくれたのは須賀だった。

須賀は見た目や態度は怖がられることが多くても、根は優しく情に厚い。

しばしば佐都や須賀の仕事を手伝いに来てくれたり、休日にも三人で集まることが多い。


「煌くん!助かるよー。……サイン会、なんとか実施したいんだけど」


「そっすねー、俺は詳しくないのでよくわかりませんが、机とペンと台紙が必要っすかね。とりあえず台紙百枚用意して、先着百人、なお持ち込みなら何人でも可……みたいな?」


「実際のサイン会がどうなのかはともかく、なんとか形になればいいからそれでいこう!煌くんに台紙とペンの調達お願いしていい?」


「もちろんっすよ。何かあればメールで」


須賀が調達に行き、さて次はと携帯を開くと神主の風民からメールが返ってきた。


『それは大変だな。俺は神社から離れられないから、できることがないな……すまん。何かあれば何でも相談してくれ!』


「蓮司さんはダメか……」


「うーん、残念ながら予想通りではある。でも一つ僕に案があるんだけど」


佐都は再び風民にメールを送った。


『神社をサイン会の会場にすることはできますか。そしてこの神社を次回作の舞台のモデルとして紹介させていただけませんか』


「なるほど、神社ならテーブルもあり、人が列を作れるほど広く、雰囲気もある。外れにある神社だから近所の人にも迷惑かけにくいしな」


「情報を小出しにして推理型にしてみるのもいいかも。サイン会の場所は○○な場所、○○の中……みたいな」


「その役割、笹ちゃんが請け負いますぞ~」


「笹っち!」


現れたのは佐都の長年のゲーム友達、笹崎だ。

彼女はネットやプログラミングに強く、いつもゲームの情報をいち早く手にいれている。

またSNSの使い方も熟知しており、現状とても頼もしい存在だ。


「さとぽんの作家アカ借りるぜぃ。お礼はゲームでな」


「もちろん返すよー!楽しみに待ってて」


『会場の件OKだ!それっぽく用意しておくぜ』


風民からの返事もあり、これで形はできてきた。

あとは当たってみるのみだ。



神社に着くと、お守りなどの売り場の横に屋台がセッティングされていた。

急遽書いてくれたのだろう『佐都春馬先生サイン会』の看板の横に座りながらしばらくサインの練習をしていると、少しづつファンが現れ始めた。

どうやら笹崎が上手く誘導してくれたらしく、ファンが一斉に押し寄せることがなく、ゆるりとサイン会を実施することができた。

列はできたがスーパーハンバーガーショップ店員の原と、栗須の義妹とその友人がサポートしてくれたため問題は起こらなかった。



「「「終わったー!!」」」


「みんなお疲れ!本当にありがとう、助かったよー!」


サイン台紙は全てなくなり、集まっていたファンもみんな満足して帰っていった。


「はぁ……今度こんなことがあれば事前に言えよ。あと、他のファンのためにも前もってしっかり告知して開催する、ちゃんとしたサイン会を開かないとな」


「うん、それについてはよろしくお願いします」


「まあ、今日はみんなハッピーでしたし。大成功だと思うっすよ。打ち上げでも行きます?」


須賀の打ち上げという言葉を聞いて笹崎が目を光らせた。


「さとぽんのおごりで寿司?」


「笹ちゃんダメだよ!回らない寿司なんてさすがに申し訳ないよー」


原は遠慮しているようで、結果的に追い詰めている気がする。


「まずは後片付けな。終わったら飲むぞ!」


「お疲れさまでした!」


こうして慌ただしい一日が終わったのだった。

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