「君にどのような理由があって、自身を偽っているのかまではわからない。僕には興味もない。しかし、その努力を妨げるものを君が断罪していい理由などないだろう。他の者にしてみれば、そんな身勝手なことはないからね。もちろん、今回の狸塚さんの行動は軽率だった。君にとって理不尽なこともあっただろう。とはいえ、君は報復と言わんばかりに彼女を追い詰めた。姑息な手を使ってね。それは、決して褒められることではないと思うよ」

「……もう良いでしょ。わかったから。説教なんて、ちっとも聞きたくない。騙したことを怒っているなら、謝るから」

 倉科先輩は、やれやれと首を左右に振る。

 困ったように、口をへの字に曲げていた。

「言ったはずだよ。謝罪など不要だと。……君はいつか、思い知ることになるだろうね。自分の利益ばかりを求めて周りを偽っていると、どうなるのかを。まあ、そうやって頭を打つことも必要なことだ。僕はこれ以上、届かない言葉を向けるのは止めておくことにするよ。ちりとりもなくゴミを集めたところで、また散らばるだけだからね。では失礼するよ」

 そう言って、くるりと踵を返す倉科先輩。

 つかつかと扉へ向かって歩いて行くその背を、私は慌てて追いかけた。

「し、失礼しました!」

 ぺこりと頭を下げて扉を閉める。

 振り返ると、そこには倉科先輩が待ってくれていた。

「帰ろうか、ハトちゃん。今日は疲れた」

「は、はい……」

 並んで廊下を歩く。先輩は、狐崎会長に対して「掃除完了」と言わなかった。

 それは、そういうことなのだ。

 だけど、きっと先輩の言葉は会長に届いている。

 今はまだ芽にならなくとも、種を蒔いたのだ。いつか、花が咲く日が来るだろう。

 その時、やっと掃除は完了するのだ。

 そう信じて、私はオレンジに染まる廊下を黙って歩いた。

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