【KAC20216】なにその【全ての元凶は私のブログと読者と仲間たちです】っての。突然すぎて流石の俺も理解が追いつかないというか疲れてきたんだけど。

@dekai3

これどうしたらいいんだよ、高橋。

[これを…見てください]


 無表情なまま顔を真っ赤にしたイトさんが俺達に見せてくれた物は、タブレットに表示された【†ヨーン姫の妄想日記†】という題名のブログだった。








『は???』

「え???」

《ううむ…》


 思わず、三人とも声が出た。


 俺がイトさんを性的な目で見ていた事はイトさんと俺の中だけの秘密で決着が付き、イトさんから真面目な声で俺、高橋、山本さんに話がありますとの事だったので、三人で襟を正してイトさんが何を喋り出すのかを待っていて見せ付けられたのがこれだ。


 内容は……うん、可哀想だから読み上げない方がいいな。分かる人には伝わる言い方をすると、00年代の個人ホームページ時代に腐女子と呼ばれる方々の夢小説要素が混ざった何処かの漫画やアニメで見た事のある喋り方をするオリジナルキャラとの掛け合いをメインとする日記と称する何かだ。

 こういうのは若気の至りなので触れないであげた方がいい。でないと思春期の心に大きな傷を残してしまう。等身大フィギュアが自我を持ったイトさんの思春期がいつなのかは分からないが。


「イトちゃん…このさぁ」

「おまっ、ちょっと待っ!!」


 だというのに、高橋はこの【†ヨーン姫の妄想日記†】を見ながらイトさんに話しかけようとする。この男は顔はいいから直ぐに女性と懇意になるが、言わなくていい事を言ったり常識ではやらない事をやったりと自分ルールで動いているから数日もしたら女性から嫌われたり、逆に執拗に狙われたりする奴だ。そんな人の心が分からない奴の言葉を今のイトさんに聞かせるのはマズイ。だってイトさん手震えてるもん。最初は無表情かと思ったけど、この子顔に出にくいだけで実は感情豊かっぽいもん。ブログ内で自分を姫って呼びながらハイテンションで銀色の魂の白髪のアレみたいなツッコミ入れてるし、こういう人は感情の揺れ幅が上にも下にも広いから言葉を選ばないと引きこもりのメンヘラになっちまうまうって。ほら、【ダークサイドプリンセス・ヨーン・ケイオスホテプ】とか言う名前で文末に(意味深)とか(暗黒微笑)とか付いてるキャラの背景黒に白文字のページ出てきたじゃん!現実に【ダークサイドプリンセス・ヨーン・ケイオスホテプ】を降臨させる気か?


「【全てを極めし大魔導師にて悠久の時を生きる神話の担い手シーマ・クインタプル】って名前の『君は馬鹿だな』が口癖の眼鏡が似合うやれやれ系童顔イケメン銀髪師匠(CV:グリリバ)って、五十島の事?」

[は、はい…そうです…]

『は???』


 高橋の指摘がブログ内の登場人物のモデルの事で、尚且つそのモデルが俺だという事に驚いて声が出る。


《その上、ワシ等というか五十島くんの現状とこの国の変化についてもこのブログの内容に沿っておるな?》


 驚く俺を他所に、今度は山本さんが老眼なのか目を細めてブログを読みながらそう問いかける。

 いくらなんでもそれは妄想が過ぎるだろ。これだから空気の読めない全裸中年男性は…


[はい、そうなんです…]

『は???』


 こんなん思わず声出るわ。


「私が450年前に運営していたこのブログが…全ての元凶なんです…」


 イトさんは震える手を握り締めながら、無表情の目尻に涙を溜めながらそう言った。


「成る程、これが【予言の書】か…」

《まさかこんな身近とは…》


 いやいや、俺はイトさんの告白に対して『何を言っているんだお前は?』という感じなんだけど、なんで二人は納得してんの?え、これまた俺だけ知らない流れ?


[このブログは私の他にも何人かで共同運営をしていました……その方達は私の妄想をとても評価していて、もっと世に広めるべきだとか、現実にするべきだとか言い始めたのです……それが、400年程前の事です……」


 俺が突っ込みをしていいのかダメなのか迷っている間にもイトさんは告白を続ける。


[それで、私のブログの読者の方と共同運営の仲間たちが力を合わせ、百年以上の時間をかけて徐々に徐々に世界と五十島さんを私の妄想に沿う様に計画を進めていったのです……」


いやいやいやいや、なにその【全ての元凶は私のブログと読者と仲間たちです】っての。突然すぎて流石の俺も理解が追いつかないというか疲れてきたんだけど。


「そいつらが俺に接触してきたんだな…それで五十島をCV:グリリバにしようと企んだのか…」

[その通りです…]


 俺はさっぱりでもイトさんの告白で高橋は納得が行った様で、高橋には珍しい悔しそうな顔をしてそう呟く。イトさんは自分に責任があると思っている様で、とても申し訳なさそうな声で応えた。


 いやマジ、色々急展開すぎるんだけどなにこれ。え、俺は悲しむべきなの?怒るべきなの?それともイトさんにこう思われていたのを喜ぶべき?なあ、これどうしたらいいんだよ、高橋。

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