記憶にないっ!

 ◆


「どういうこと?」

「だからね、お願いを聞いてあげるから、ゲームの世界にきて、手伝って欲しいんだ。なほちゃん」


 自分をこのゲームの神様だと自称する子どもが、私の前に現れた。


「私の願い……」


 エリナちゃんがあの人と一緒にいるところを見たくない?

 そうだ、一緒にこのゲームの世界に行けば、そんな姿を見なくてすむ?

 彼と、エリナちゃんを……会わせない。告白させてなんてあげない。


「エリナちゃんと一緒にゲームの世界に行きたい」


 私は、神様にそう言った。


「おっけー! それじゃあ、えりなちゃんにも――」

「私が説明するからっ! だから、あなたは何も言わないで――」


 ふーん、と興味なさげにしながら、神様はいいよーと返事した。


「ただねー、うーん。よし、ちょうどいいか……」


 すぐに、そう小さく呟いて。


「なほちゃんの好きな人もこの世界にいるよ」


 この世界にきたすぐ後に笑って伝えられたのは、お願いの意味を根底から覆すような事。まさか、月城君までこの世界に引っ張りこむなんて、神様って本当に意地悪だ。


 ◇


「ごめんね、私のお願いでエリナちゃんはこのゲームの中に連れてこられたの……」

「……」

「私の、……ひっく……」


「何それ、最悪じゃん!!」


 大きな声で言ったら、皆が私を見る。でも、言いたい!!


「……っ、ごめ……」


 私は謝罪の言葉を口にしようとしたアナスタシアナホをぎゅっと抱き締めた。


「落とし物拾って届けてくれた女神に、普通、そんな、告白断る?! ありえないんだけど。ナホの事、何も知らないくせにっ!! しかも、友達が好きだから!? ありえない!! 今すぐ容赦なく、ねじ伏せてやりたーい! あ、言葉でね。 でも、本当、信じられない! こんな可愛いナホの告白断るなんてっ!!」


 私は怒りをそのまま、言葉の爆弾にして爆発させる。


「誰よ!! そんなひどいことしたヤツ。けちょんけちょんにしてやるんだから!」

「……あの……」

「何?!」


 アナスタシアが申し訳なさそうに、視線を泳がせる。

 だから、何?


「えりなちゃん、後ろ後ろ」


 ユウが後ろを見ろというので、振り向くと、アルテが崩れ落ちて白くなっていた。どうしたの? 何でそうなってるの?


「あのさ、えりなちゃん、話ちゃんと理解してるー?」

「ユウが、ナホを煽ったんでしょ?」

「あー、うーん。そうかもしれないけど、ゆっくり考えなよ」


 ゆっくり? 何をゆっくり考えたら、アルテが燃え尽きるの?


「エリナちゃん……」


 アナスタシアが、あはははと笑い出す。


「私が告白したのは、月城君。エリナちゃん、私の友達だよね?」


 彼女が笑いながら質問してくる。


「当たり前でしょ! 私達……、ともだ……、えぇぇぇぇぇぇ?」


 じゃあ、何?! もともとの原因って私なの?!

 って、私、月城君とか知らないし! 勝手に想いを寄せられても困るんだけど!? って月城君ってアルテじゃん!!

 私の頭の中で、たくさんの私が必死に記憶の引き出しを開け閉めしてる。でも、やっぱり月城なんて名前は出てこない。


「私、その人のこと全然知らないんだけど!!」


 きっぱりはっきり言うと、崩れ落ちたアルテがさらに崩れる音をさせた気がした。

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