再戦レース

 予想通りの快晴。風もほどよく、レース日和。


「何だか前より人が多くない?」

「そうだな……」


 観客というか、本当に人が多い。これ、全部アルベルトとアルテのレースを見にきた人達?


「はー、なんだか緊張しちゃうね」

「そうか? 別にそうでもないかなぁ」


 前回とは違って、あれこれ登録などはない。すぐに、スタート地点へと向かうそうだ。


「このレースってアルテが勝ったら何が得られるのかな」

「あ、そういえば何も聞いてないな」

「え?!」

「どうするかなぁ」


 今さら!? もうすぐ、始まるよ?


「あっちで話してくるわ」


 そう言って、手を振りアルテはスタート地点に行ってしまった。


「それでは、よろしくお願いします」

「はい、お願いします」


 私はアルベルトが用意したという護衛の男女の騎士二人とともに用意された専用の席に向かう。

 久しぶりにドレス姿だ。

 そういえば、メイラとルミナスも近くにいるはずなんだけど。

 席に着くと、見えるところに二人は座っていた。手を振ると、メイラが気がついて答えてくれる。


『それでは、エリーナ嬢を巡る熱いバトル! レースをはじめます』


 顔が赤くなるのが自分でもわかる。なんておかしなレース名称なのよ……。誰がつけたの? 怒らないから、出てきなさい。


『説明は――以下略。さぁ、愛を取り戻すのか、守りきるのか!』


 略さないでよ! ちゃんと仕事しなさい! っていうか、この声、なーんか聞いた覚えあるんだけど、まさか、違うよね?


『――カウント開始します!』


 私のツッコミはアナウンスする人には届かずにカウントダウンが始まった。


『5』


 アルテ!


『4』


 絶対に!


『3』


 負けないでよ!


『2』


 あ、でも待って?


『1』


 エリーナ的には負けて?!


『0! スタートです!!』


 あぁぁぁぁぁぁ!! 今さらながらに気がつく。エリーナがアルベルトのことを好きだった場合、私がむこうに戻って、エリーナがこの身体に戻ってきたら――。

 知らないうちにアルベルトと婚約やめてて、知らない男と新たに婚約してるなんてことになっちゃう!?

 それって、ヤバいヤバいめちゃくちゃヤバいよね!!


「アルテーーーーーーー!!」


 聞こえないとわかってるけど、叫んでしまう。

 令嬢の叫び声に観客の注目が集まった。

 まあ、聞いた人は、応援だと思ってくれるだろう。私は、それどころじゃないから。

 アルテのハイエアートがスタートは勝っていた。


 勝っちゃ駄目なんだってー!!


 心の中の叫びは、彼に届かない。

 最初のポイントまで少しずつだが確実にコーナーを攻めて、距離を広げていく。

 ちょっと、アルベルト! あなたヒーローでしょ!! もっと頑張りなさーーーーい!!!!

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