言いたいな
「おかえりなさいって、エリナちゃん。どうしたんだい? むくれた顔して……」
「それが、ボク達にも教えてくれなくて」
「まったく、何だっていうんだ。少しアクロバット飛行しただけなのに」
「…………アルテ様それじゃないですか?」
私は無言のまま、家の中に入る。
結局、アルテに伝えられないまま、二人きりの時間が終わり、ルミナス達と合流して、帰宅になってしまったのだ。
怒ったっていいでしょう?
昨日夜に突撃したから、さすがに今日は無理、彼の部屋になんて行けない――。
「なぁ、エリナ。そうなのか?」
「…………」
「おーい」
「…………」
アルテなんて、困っちゃえー!!
そんな事を思いながら一人部屋に走って行って私はベッドにダイブする。もうもうもうー!
なんで、私上手くいかないのかなぁ。もしかして、もとから恋愛は不幸体質だったりする?
枕をぎゅっと抱き締めて、ごろりと転がり天井を見上げる。
「アルテは――いったいどう思ってる? 誰に何を伝えたいの? 私、これ以上好きになっちゃいけないのかな」
ごろごろと転がりながら、一人言を呟く。どう見ても怪しい人だ。
「おい」
厳しい声にびくりと反応する。
「入っていいか?」
え、この声って、ホーク? 私に何の用ですか?
起き上がって急いで居住まいを正す。枕はもとの位置に放り投げた。
「どうぞ」
「失礼する」
ピンクの短い髪をさらりと流しながら、ぴしりとした姿勢のホークが部屋に入ってきて、私の近くにきた。そうだ、椅子!
私が急いで椅子を出そうとするのを彼女は手で制止してそのまま話し出した。
「嫌いと言って、すまなかった」
今? 私は首を捻る。なぜ、今になって謝られるのだろう。
「あの時は、ルミナス様が、違う人のようになってしまって、イライラしていたんだ。弱そうだから、告げ口しないだろうと八つ当たりした」
「あー、実際別人ですね……」
「そう、そうなんだ、ルミナス様に聞いた。けれど、私が攻撃したことに変わりはない。すまなかった」
最敬礼まで頭を下げられ、困ってしまう。
「あの、私、そこまで繊細じゃないんで大丈夫ですよ」
実際、一晩寝たら忘れるタイプだから、図太い方かもしれない。まあ、たまに思い出して凹んだりもするけれど。
正直、今言われるまですっかりホークに言われたことは忘れていた。長所なんだか、短所なんだか。
「そうか、まあこれは私のけじめだ。謝らせてもらった。それでだな」
ん? 続きがあるの?
「好きな相手には好きと伝えるべきだぞ! 私は学んだ。これからはしっかり伝えるつもりだ」
真顔でそう力強く伝えてくれる。メイラあたりが何か言ったのだろうか。この前まで伝えられなかった人がこうまで変わるとは、いったい何が彼女に起こったのだろうか。ものすごい変化だ。
「あー、そのー、ホークさんありがとうございます」
私は営業スマイルを浮かべて、対応する。
私だって言いたい。けど、複雑すぎる事情がある私達。果たして素直に伝える事をしてもいいのか――。
さっきのだって、わざとアルテが喋らせないようにした気がしないでもないから、余計に……。
「私からは、それだけだ。っと、そうだ。ホークはもうすぐ退役なんで、エメラで呼んでくれ」
ホークって役職だったんだ。
「私もエリナで。ありがとうございました。エメラさん」
「あぁ、エリナ……さんでいいか? 食事が冷める前におりてこいと、甘そうな色の髪の男が言っていたぞ」
甘そうな……、んー、カスタードクリーム色な頭のザイラのことかな?
「りょーかい」
敬礼して、笑うとホーク改めエメラも笑い、部屋から去っていった。
はぁ…………。
「素直に伝えたーい!!」
エメラの気配が消えたあと、私はもう一度ベッドに倒れこんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます