ホークはあちら

 苺みたいなピンク色の髪。ふわふわとした巻き毛。お菓子みたいに甘そうな可愛い顔。初めて見るけれど、少し、見覚えがあるような……? どこで見たかな。


「ルミナス様、わたくしを置いて他国に行き、いったい何を考えておいでなの? 私は、いつでも儀式に挑みますのに」


 儀式? いったい何のことだろう。


「一人だけでは儀式は成立しないだろう?」


 くっと、可愛い口元が少し歪んだような気がした。


「だからと言って、二人も増やすなんて――」

「選ばれる自信があるならば、何人増えようと変わらないのでは?」


 ガリッと歯ぎしりのような音とともに、二度目の口元が歪む。


「わかりました。では、今日の夜さっそく、やりましょう」

「な、彼女達は今日ここに来たばかりだぞ?」

「ふふふ、ならばこそ。この国の神の加護を受けられるか否かがはっきりするのではなくて? さっそくお父様に伝え用意させますわ」


 優雅にお辞儀をして、彼女は翻して行く。


「では、のちほど――」


 彼女が出ていくと、はぁと、ルミナスは大きくため息をついた。


「少しくらいなら、時間があると思ったんだけどなぁ」

「えっと、何がどうなっているんですか?」


 私が問いかけると、ルミナスが頭を下げてお願いしてきた。


「エリナさん、メイラを守って欲しい」

「ん、え? あ、はい」


 よくわからないまま、承諾してしまった。


「これから、精霊達の集まる場所に行き、精霊降臨の儀式をすることになります」

「はぁ……」

「メイラは試したけれど精霊と、契約出来なかったんだ……」

「あ、精霊石の?」


 こくりと頷く。契約出来ないことがあるんだ。


「それで、精霊と心を通わせる事が出来る人との結婚が僕には課されているんだ。降臨儀式でだけ現れる、原初の精霊マナ。その祝福を――しっかりと貰うことが出来た人と――」


 ◇


「さぁ、始めますわよ!」


 あの、ツッコミ待ちなのでしょうか?

 すごい女性精鋭部隊らしき護衛でしょうか、ずらりと十人引き連れて、ソフィーはその場所にやってきた。

 対してこちらは、メイラと私。

 この中には、女性しか入ることが許されないということで、ルミナスとアルテ、グリードは入り口待機なのだそうだ。


 って、あれ、ホークさん? なぜそちら側に!?

 申し訳なさそうにするでもなく、堂々と向こうに立つホーク。

 アルテにそっと聞くと、まあしょうがないよなぁと言っていた。

 この国では、王座は第一子が継ぐけれど、女王の方が力が強い。原初の精霊マナが女性だからだそうだ。

 王妃のお気に入りの娘、シャルロッテの友達がソフィー。

 シャルロッテは自分が王座につけないから、代わりに仲良し、お友達を女王の座につけたいというわけだ。

 そして、ホークはソフィーの従姉妹に当たるらしい。どうりでなんとなく見たことがあるわけだ。

 そんな状況で、ルミナスの婚約者を考えれば、味方の多いソフィーを応援するのは仕方がないというわけだ。


「めんどくさいですね」

「まあなぁ」

「それダジャレですか」

「ん?」

「いえ、何でもありません」


 私は、ソフィー護衛隊(仮)の面々を見る。全員に前に見たことがある首飾りがかかっていた。

 精霊を封じる首飾り。

 護衛の女の子達がマナに目をかけられないように、精霊の力を封じているらしい。つまり、外していいと命令があるまで彼女達は精霊魔法が使えない。


「ふふふ、こっちにはシルフとウィンディーネがいるんだから!」


 二人の名前を呼ぶ。ふわりと姿を見せた二人は手を繋ぎながら頭の上に座ってきた。何してるんですか。お二人さん。


「サラマンデル」


 アルテがサラマンデルを呼ぶと、メイラに渡す。

 役に立つかわからないが、見張りくらいなら出来るだろうと彼はサラマンデルに命令していた。


「すまんな、ついていけなくて」

「いいえ、ありがとうございます。あちらのアルテとこちらのアルテ、どちらもあまり変わらないようですね」

「そうか?」

「えぇ、あちらのアルテも優しくて、器用で、いい人でした。彼なら、問題なくあちらでも生活していけそうですけれど」

「おいおい」


 少し困りながらも、アルテは笑っていた。向こうの様子がわかって少し安心したのかな。ところで私の情報はありませんか……。まあ、ないよね。だって、私の記憶にツキシロやダイスケなんていないんだもん。はぁー。


「それでは、参りますわよ!」


 そう言って、ソフィーは洞窟の入り口を指差す。水鏡みたいな出入口だ。

 スッとソフィーと護衛隊達が入場していく。私とメイラは頷きあって、その後に入場した。

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