後編

お引っ越し先には同居人?

「もう、いいだろ」


 アルテの大きな体が目の前に近付いてくる。


「すまん、限界なんだ……」


 私達は新しい、大きなベッドに倒れこむ。


「いいよ、私も……」


 ◇


 時間を、少し遡った引っ越し当日の朝。

 目が覚めた私は、アルテにおはようって言う。アルテも、もう目が覚めてたから、おはようってすぐにかえってきた。


「引っ越しって何するの? 荷物包んだり?」

「あぁ、ハイエアートだけ移動すればいい。荷物は向こうにあるから、そうだな……少し調理道具だけ持っていくか。あとはエリナの荷物だが。ハイエアートに乗りそうか? 残りはまた手伝いにお願いしておくよ」

「そうなんだ。私の荷物はこの鞄くらいかな。あとは預かり所に預けてるから」

「少し狭いがなんとかなるか。よし、まとめるぞ」


 あっちとこっち、二人同時には出来ないからお互い手伝いながら、荷物をまとめてハイエアートにのせる。そこに私達が乗り込むと確かに、少し狭い。のりきらない分の荷物は外にくくりつけて、準備は完了。


「よし、すぐそこだから、すぐおりることになるが」

「おっけー!」


 新しい家に向けて私達は飛び立った。


 ◇


「ここって!」

「いいだろ! すぐそこだ」


 アルテは笑いながら、荷物をほどいていく。

 実際、トレジャーハントの場所、ダンジョン入り口から徒歩三分って感じ? よくこんな場所見つけたなー。


「いいとこだろ! でっかいし、しっかりとした門と塀がある」

「それはいいんですが……、こんな場所。めちゃくちゃ高くない?」


 まるで、お金持ちが住むような豪華なお屋敷。いったい、何人で住むつもりなんですか?


「ここはな……出るんだよ」

「……え?」

「夜中に幽霊が、な」


 ニヤリと笑うアルテの顔を見ながら私は凍りつく。まって、幽霊? そんな場所で寝泊まりするの?


「ああ、あ、あ、あ、アルテ。別の場所にしませんか?」

「ん、なんだ。怖いのか? ダンジョンにもいるだろゴースト」

「いますけど、それとこれとは違うよ! 一緒に住むってことでしょ!」


 必死に訴えるけれど、聞き入れてもらえそうにない。まさにのれんに腕押しだ。


「大丈夫。そいつは友達だからな」


 じゃなーーい! って、待って友達?!

 驚きすぎて、私はエサを待つ雛鳥みたいに口を大きくあけた。


「幽霊と友達?!」


 その顔を見た、アルテは盛大にふきだして笑っていた。


「一部屋だけ、あいつの部屋があるから、そこに入らなければほとんど出てくることはない。ただ叫び声がたまにするかもな」


 幽霊の引きこもりですか……。叫び声っていったい……。


「意味がわからない。他に選択肢は」

「ない」


 きっぱりはっきり言いきるアルテに押しきられて、しぶしぶ荷物を中へと運んだ。とりあえず、最初の一歩はそれと出くわす事はなかったし、中は広くて綺麗だった。本当にここに幽霊がいるのかな?


「とりつかれそうになったら、腕輪パワーでアルテに押し付けてやる」

「大丈夫だって」


 笑いながら、荷物を軽々と運ぶアルテの後ろについて、荷物持ちの邪魔にならない程度に腕を掴んでおいた。

 なんだか、私が背後霊みたい。ん、ある意味、守護霊か――?

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