おかえりとお願い
「あれ、あれ?」
なんでないんだろう? 私は今すごいピンチです。シャワーを浴びてスッキリタイムのはずなのに、石鹸がない!!
すでに体は濡れている。これは、アルテが言っていた地味に嫌なヤツ!!
「アルテー」
「どうした? そんな悲しそうな声をだして」
「石鹸がないよー」
「あ! すまん、こっちに持ってきてるんだった」
アルテのせいか!! ちゃんと戻しておいてよ。
「腕だけ入れていいか?」
「うん、お願い」
アルテの大きな手が扉の隙間から伸びる。なんていうか、ぷるぷる震える手はかなり必死に見えてしまう。
引っ張ったらびっくりするかな? なんて考えながら、アルテの持っている石鹸に手を触れると、いつかのようにアルテの腕にはまっていた腕輪が光を放った。
「……え? あれ?」
「ん、どうした?」
「アルテ、気をつけて!」
「は、何のことだっ?!」
アルテが手を引っ込めると同時に「いってぇ!」って声がした。どうやら引っ込めた時に腕のどこかを擦ったみたい。
「んん?!」
「腕輪が戻ってきちゃった…………」
「腕輪がなくなったな……」
私の腕には【幸運】の腕輪が久しぶりにはまっていた。
◇
シャワーを終えて、二人で椅子に座っている。アルテの髪は少しまだ濡れていて、いつものツンツンした感じではなく髪が下向きに全部垂れている。
「レースが終わって、エリナの腕輪ももとに戻った」
「戻りましたね」
「つまり、エリナは俺と一緒にいる意味がなくなったな」
「……」
急にこんなことになってしまって私は内心とても焦っている。
これは、この流れは、やっぱり……。
「今まで、ありがとうな。巻き込んですまなかった」
だよね。そうなるよね。
アルテが頭を下げて謝る姿は、私の心をぎゅっと締め付けた。
「これで自由だな」
違う、私は、自由じゃなくて……。私が欲しいのは――。
アルテが次の言葉を言う前に私は心を決める。
「ここでアルテを置いていったら、私の心が痛いの! だって、また、あんなぼろぼろになるかもでしょう?! アルテの腕輪が見つかるまで、一緒にいる! 私がそうしたいから!」
一気に捲し立てると、アルテはすごく驚いた顔をしていた。
「いいのか?」
「いいって言ってるでしょう」
だって、あなたのことが大好きだから。素直に言いたいのに、上手く言葉になってくれない。
また、私から告白したら、あの人みたいになるんじゃないかって、少し怖い。この人は違うって、思いたいのに。
「甘えさせてもらうよ、ありがとう。エリナ」
「うん」
少し、困りながらも彼は笑ってくれた。今までは、私が守ってもらう方だったけど、今日からは、アルテを不幸から守る!
私は、気合いをいれてアルテの手を握った。
でも、アルテの腕輪って、どこを探せばいいんだろう。
「ねぇ、アルテ」
「ん、何だ?」
「どこで腕輪がなくなったとかは覚えてるの?」
「あぁ、それは――――」
この街でなくなったという話だったけど、もっと詳しい話はまた今度するよ、とはぐらかされ夜はふけていった。
おやすみと言ってベッドに転がる。眠りにつく前に、私は少し考え事をしていた。
――――ナホに、連絡をどうやってとろう……。まだ、アルテと一緒にいないといけなくなったから伝えなきゃ。でも――。
彼女がアルテに【魅了】の腕輪をむけた。
その事を思い出して、私は胸の中に黒いもやもやがかかった。
ナホは、何を思っているんだろう……。アルテと仲良さそうにしていたのが気に入らないなんて、思ってたりするのかな。
そういえば、幼なじみだけど、彼女の好きな人とか、聞いたことない。いつも私のことばかり聞いてもらってた。
はぁ、とため息をついてしまい、アルテが心配してくれた。
「どうした?」
「う……ん、私子どもだなぁって。友達の気持ちがわからないや」
「友達か……。子どもも大人も関係ないだろう。他人の気持ちなんてわかるわけない。言いたかったら言ってくる。それまでは、気に病む必要はない。だろう?」
「そうかなぁ」
「置いてきちまったな。あの黒い髪の子。気になるのか?」
「うん」
「ルミナスに様子を見てもらおう。王子の横にいたくらいだ。今日は一緒にいただろう」
ふわふわとアルテの大きな手が私の頭を撫でてきた。
「何!?」
「あぁ、すまん。妹にしてたから、つい。こうしたら落ち着いて寝てくれてたから。いや、すまん。小さい頃のことだから、エリナにするのはおかしいな」
「妹?」
「あぁ、二人きりの大事な家族なんだ」
「そうなんだ」
大きくなって、手が離れてしまったのかな。
二人きりの家族……。アルテは、辛い過去があったのかな。
「今度、エリナにきちんと説明する。友達もなんとかしてみる。だから、寝ろ」
「……うん」
私は目を閉じて、アルテにお願いした。
「もう一回、頭撫でて」
少し、間があったけど、大きな手がふわふわと頭を撫でてくれた。
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