鷹が嫌いなもの

「まだいる?」

「いや、いないな」


 どうやら、弟王子クレスヘラは帰ったようだ。


「リリーナが心配だって思うなら、移動するか?」

「う……、少し心配はあるけど」

「あるのか、なら引っ越すぞ」

「え?!」


 そんな簡単に!?


「と、思ったがレースが終わるまでは流石に……」


 何か、ぶつぶつ言っている。


「無理はしなくていいよ?」


 レースが終わって、腕輪を返してもらったらお別れなんだから。


「レースが終わってからでいいか?」

「だから――――、無理しなくていいよ」

「まあ、動いておくよ」


 そう言ってアルテが立ち上がったら、今度はルミナスがやってきた。


 ◇


「へぇ、そんなことが」

「あぁ、一人借りていいか?」

「いいよ、ホークでいい?」

「あぁ、助かる」


 アルテとルミナスが何かを決めているみたいだった。

 ホークってこの前の人達だよね? えっとたしか、ピンクのベリーショートなお姉さん! が、どうしたの?


「今日からご一緒させていただきます。よろしくお願いします」


 ぺこりと、一礼して、お姉さんはにこりと笑っていた。ただ、気のせいか、一瞬ものすごく睨まれたような……。

 どうやら、私の護衛にホークを借りたということみたい。


「あ、ちょっと悪い」

「はい、いってらっしゃい」


 何度かやってるやり取りはすでにこれだけでわかるようになってきた。

 手を離して、用事がある時だ。

 ルミナスも一緒に外へと出たから、私とホークの二人きりになった。

 私も挨拶しておかないと、だよね。


「――あの、よろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀をすると、ホークさんは氷の様に冷たい目でこちらを見ながら笑っていた。


「私、あなたが嫌いです」

「え……」


 聞き間違い? 嫌いって言われた? 私は混乱しながら目の前の、にこにこするお姉さんを見る。なんだか、すごく怖い。


「よし、リリーナ! いくぞー。練習」


 話が終わったのか、アルテが戻ってきた時には、ホークの目はカッコいいキリッとした目に戻っていた。

 何だったんだろう。今のは……。まさか、さっきのが不幸? 誰か、嫌いって言われた時、どうしたらいいのか教えて下さい!!


 アルテが手をとる。けど、私はさっきの言葉が気になりすぎて、気持ちが上の空だった。

 アルテやルミナスに、さっきの事を聞くのも躊躇われるし……。私、彼女に何をしたんだろう。


 ◇


「大丈夫そうだね」


 今日は問題なく起動もして、飛行も問題なかった。

 練習で飛んでたルートやスタートの場所が変わっていたけれど。

 アルベルトに会わない方が、心に優しいよね。

 弟王子の、あのセリフが少し気にはなるけれど。


「アルテ、私ね、――」

「ん、なんだ?」

「ううん、何でもない」

「よし、じゃあ降りて、ケーキ行くか?」

「今日も?!」


 まさか、本気で制覇するつもりなの? って、レース本当に大丈夫なの?!


「駄目か?」

「えっと、いやじゃないけど大丈夫?」


 私は確認をとる。


「大丈夫、大丈夫」


 アルテは、かかっと笑って操縦桿を動かし、地面へと降りていった。

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