何かがいる

「なんかいるぞ」

「いますね」


 あの茶色の髪の毛は、どう見てもアレンだ。


「何しにきたんだか」

「どうしよう」

「俺にリターンマッチかっ」

「あれは、アルテの不意打ちだったから、そんなこと――する?」

「そうか」


 アルテの家の手前で、茶色の髪がちらちらと揺れている。隠れているつもりなのだろうか? しっぽ……じゃない、茶色の髪が見えてますよ。


「遠回りしてくるか?」

「いえ、直接聞きましょう」


 彼なら、悪いことには手を染めないだろうし。誰かに何かを頼まれて遂行してるだけだと思う。

 それはたぶん、――。


「こんにちは、アレン様」


 私は後ろから声をかけた。すると、彼はびっくりした時の猫の様にビクゥッと飛び上がった。


「あ、こんにちは。奇遇ですね……」


 目がおよいでいる。やはり、騎士を目指す彼がこそこそと何かをするのは性に合わないようだ。

 どう見ても、動揺しすぎているし、嘘も下手。


「嘘だな」

「嘘ですね」


 私達は二人揃ってたたみかける。


「この街に住んでいないんだろう?」

「今、そこに立って、じーっとアルテの家を見てましたよね」


 ◇


「で、何か用事か?」


 家の中に招き入れ、椅子にアレンを座らせて向かい合う。


「あの、私は……えっと……」


 とても困ってる。大柄な男とライバル役のお嬢様から睨まれる可愛い系攻略キャラクター、他人から見たらこっちが悪者に見えそうだ。

 きゅっと手に力をいれて、アレンはこちらを見据えた。


「私は、とある方より、青い髪の女性を探し見張るように言われていたのです」


 あぁ、やっぱり? と、私は納得する。きっと、アナスタシアの魅了でアレンにお願いをしているのだろう。でないと、素直ないい子のアレンがこそこそ女性の後をつけたりしないよね。


「青い髪の女性は、愛した男性に振られ悲観に暮れているかもしれないから、もし命をたつようなことがあったらと」


 あー、なるほどなるほど、やっぱり? 私の無事を気にかけてくれてるんだよね。ごめんね。連絡も何も出来なくて。


「最初見た時はあなただと思ったのですが、その――」


 アレンの目が泳ぐ。泳ぎながら私とアルテの繋がった手を見ているようだ。


「青い髪の女性は男性を本当に愛していたので、どうやら人違いだったようです……。申し訳ございません」


 頭がぶつかるかと思うほど勢いよくアレンは頭を下げた。

 やっぱりこれ、恋仲に見えてたりするよね……。私は自分の手をちらりと見る。今日もがっちり恋人繋ぎ。わざとなの? なんなの?


「俺の相棒だからな。間違わないでくれ」


「すみません……。では、私は改めて探さなくてはいけないのでこれで」


 もう一度、深々と頭を下げてアレンはフラフラと外に向かう。私は、嘘をつく罪悪感で少し辛かった。ごめんなさい、アレンは悪くないし、間違ってたわけでもないのにね。


 自分のやりたいことをしたいがために、迷惑がかかってるかもしれないんだなぁ……。そんな事を考えていると、アルテが手を引っ張って私を立ち上がらせた。


「アルテ?」

「俺が聞いても良かったのか?」


 あ、そうか。アルテはもう私イコール青い髪の女性が頭の中で出来上がっているんだろう。


「うん、でもね。ふかーい訳があって――――」


 いや、まてよ? めちゃくちゃ浅くないか? トレジャーハントがしたいからって理由。しかも、男性を愛していたとか聞かれてしまったし。ぐぅ、今になって後悔が……。


「そうか。別に話したくないならいいぞ」

「あっ……」


 そんな事を言われたら、話す機会が持てなくなるかもしれない。


「さあ、料理しちまうか。っと、先にシャワーにいってくるか?」

「……うん」


 私は、アルテに聞かれたくなかったって思っている?

 でも、それって――。


 私は、アルテと手を離してシャワールームに入る。

 頭からお湯を浴びようと思っていたのに、水だった。冷たい。


 ひゃぁって叫んだら、アルテがすぐに「どうした!」って聞いてくれて、嬉しい自分がいることに気がついてしまう。

 どうしよう。何で、どうして?

 だって、アルテのこと、私まだ全然知らない。


「大丈夫、水をかぶっちゃっただけだよ」


 私はお湯になるのを待って、もう一度頭からかぶりなおす。

 彼のことが知りたい――。聞いたら、教えてくれるのかな?

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