剣と精霊と焦げ

 まだ、このゲームはサービスが始まったばかりで攻略班も頑張ってくれていたんだけど、情報はまだ半分くらいだったのよね。

 通常ルートは皆クリア済みだったけど別ルートや裏ルート。それにスチル回収度で初めて行けるルートや、特殊アイテムで解放されるルートまで多種多様。

 その中で、トレジャーハントの図鑑、シークレットのラストナンバーが私は欲しいのよ! 誰も見つけてないお宝!


 サブコンテンツにそこまではまらなくてもって思うかもしれないけれど、私、はまったらとことん突き詰めちゃうタイプなんだよね。

 主人公はアナスタシアだから、メインストーリー攻略は彼女に任せて、私はトレジャーハントにいそしむ。なんて素敵なタッグなのかしら。私が主人公じゃなくて本当によかった!


「おい、顔がにやけてるぞ?」

「え? 何の事」


 まだ見ぬお宝のことを考えていたら頬がゆるんでしまったのかな。私は何事もなかったかのように振る舞う。

 ここはもう、ダンジョンの中だ。

 途中、何度かモンスターに出会ったけれど、弱いモンスターばかりだったので簡単に倒して奥へと進む。


「すごいな、マップも無しに迷わずここまで進めるなんて。リリーナはそんなちっこいのに実はすげぇ実力の冒険者だったりするのか?」

「ちっこくありません。アルテがでっかいだけです」


 だって、これでも身長150センチはあるのよ? ちょっとだけ背の順で前の方なだけだもん。ここゲーム世界の中じゃ小さいかもしれないけど――。


「あぁ、そうか」


 大型犬改め熊のアルテは納得するようにあごをさわっていた。


「それに私、先日までお嬢様だったんですからね」

「はぁ?」


 嘘だーと顔にでてますよ! ホントの事ですけど!

 そんな話をしながらてくてくと進み進んで、ボスの部屋に着く。中を覗くと大きな大きな蛇型のモンスターがとぐろを巻いている。後ろにはキラキラ輝く財宝達!


「ここからは本気じゃないと危ないですね」

「だな、気を付けろよ。俺も流石に手を繋ぎながらあのでっかいのとは戦えない」

「わかっています」


 たしか、あの蛇は尻尾が弱点だったはず。


「アルテ」

「ん?」


 私は蛇の尻尾を指差す。


「あの蛇の本当の頭は尻尾にあるんです。だから、そちらを切り落とせば」

「ん、わかった」


 打ち合わせを終え、私達は手を離す。


「よっしゃあー、行くぜー! サラマンデル」

「え?」


 彼が叫ぶと同時に彼の持っている大きな剣が燃え上がった。

 あれって、精霊魔法? 彼の剣の横にトカゲみたいな赤い炎の精霊が見える。

 隣の国で確か使われるって聞いたような、聞いてないような。

 ちなみにこの国の主流魔法は英語なあれね。ファイヤーとかウィンドとか。


「へー、なんかカッコいい」


 私の出番もなく、アルテが尻尾を切り落としあっけなくバトルは終わった。

 彼の放った炎が、何故か飛び火して私の髪の毛の先っぽをおまけに焦がしたけど……。


「すまないぃぃぃぃ!」


 土下座をする彼。うん、現実世界だったら絶対許さない。でも、まあ――。


「いえ、たまたまですし、それにこの長さですから切ろうと思っていたところです」


 冒険するのにあまり長い髪も邪魔なので、少し短めにしようと思っていたところだ。


「はぁ、腕輪がないと大変なんですね」


 彼が必死になって、腕輪を探していたのがよくわかる。

 こんなのが続いたら、たしかに身が持たない。

 私は彼の背中をポンポンと撫でて、立たせた。


「はい、はやく手を繋いで下さい」

「あ、あぁ、そうだった」


 ぎゅっと手を繋ぎ、私は宝物を選別する作業に入った。


「全部はいらないのか?」

「どうせ持てません」


 それにすぐダンジョンは修復され次の日には違うパターンのダンジョンを作り出す。私が持っていない物だけを選んで持って帰らなきゃ意味がないのよ。持ってるものを集めても、ストック棚の邪魔になるだけ!

 あまり取りすぎるとダンジョン内のお宝生成の質が悪くなるって噂もあるしね。

 あぁ、お宝ランダム生成のダンジョンにはまる恐ろしさ……。


「あ、あったーーーーー!」


 これは、うん、おしい! けど、まだ見つけていない「青の涙」だ!


「わーい、綺麗。これであと六種類でコンプリートだ! 運がいい!」

「良かったな、それじゃあ戻って休んだら明日は俺に付き合ってくれよ」

「うん、うんいいよー」


 喜びすぎて、私はとても大事なことを忘れていた――。


「じゃあ、戻りますね」

「あぁ」

「エスケープ!」


 入り口に戻る魔法を唱えて、私達は外に出た。

 その後ろ姿をじっと見ている影に気付かずに。

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