幸運と不幸と
◆
「おかしい、おかしい、おかしい……」
とある一室。書類等が置かれた豪華なつくりの机の前でぶつぶつと、喋る男が居た。金色の髪と緑色の瞳を持つ美しい男だが、彼の眉間にはたくさんのシワがよっている。
「殿下」
「おかしい、おかしい。あれは彼女じゃない。そうだ、何かにとりつかれているのでは!? 助けなければ!」
思い立った様に、急に立ち上がり部下の名前を呼ぶ。
「マルクス!」
「は!」
「お前はエリーナだ。シロナ!」
「は!」
「アナスタシアを見張れ」
二人は頷き、そっと部屋の外に向かった。外の闇にすっと溶けたのを見届けたあと、男は一人呟いた。
「ふふ、そうだ。僕の事を考えない二人はおかしい。おかしいんだ! だって、僕に二人とも愛していると言っていたのだから。そうだ、きっと――」
◇
「怪我をするって何故?」
手を振りほどき、思った事をアルテに問いかける。
そういえば、ちらりと彼の姿を見るとまるで……ぼろ雑巾は言いすぎかな。でも、なんだか生地が破れたりほつれたりした服やボサボサの髪に葉っぱ? らしきものがついてるし、腕にはあちこちに傷が見える気がする。
「これは幸運の腕輪なんだ。持ち主に幸運をもたらすけれど、俺のようになくすと、とたんに不幸を呼びこむことになるんだ」
「え゛?」
「おい、後ろ!」
「きゃぁぁぁぁ」
たまたま近くを通った女の人が叫ぶ。
バターーーン
大きな音をさせた正体は看板だった。っていうか、近くの店の看板が降ってきたの?!
すんでのところで、私はアルテに助けられた。あれ、待って、なんだかこれ抱き締められてる?
「あ、あ、ありがとうっ」
私は急いで彼から離れる。男の人ってあんなに身体がおっきいんだ。子どもの頃を除いて、初めて男の人に抱き締められ、恥ずかしさで
「待て!」
手をがっちりと掴まれた。あの痛いんですけど(三回目)。
「わかったろ、常にあんな感じだ」
それはそれは、ご苦労様です。って、まさか、次は私が!?
「え、え、えぇぇぇぇ!?」
アルテは掴んだ手を放さずに続ける。
「俺が責任をとる」
「ふぇ?」
変な声が出た。いや、だって責任ってそんな傷物にされた的なセリフ聞いたらこんな声出ちゃうよ?
「俺が責任とって、常に側にいて守ってやる」
「そんなの、困りますぅぅぅぅ!!」
本日、何度目だろう? 私の叫びがこだまする。
「ちょうど相方が欲しかったんだ」
はっはっはと大きな身体を揺らしながら笑う彼はまるで熊のようにでかい。これ、身長二メートル近くあるんじゃ……?
「いや、いやいや、いいです! いらないです!」
「俺と手を繋いでりゃ、不幸も寄ってこれないだろう」
「そうかもしれませんがっ!」
知らない男の人と、しかも腕輪を盗った犯人なんかと24時間ぴったんこなんてあり得ない!!
「それじゃあ、まずはお前が――」
「リリーナ!」
「リリーナが――」
「敬称は?」
「リリーナさんが、ええいまどろっこしい。リリーナでいいだろ? 俺もアルテでいい!」
「は? 何を!」
「リリーナがしたいことを手伝ってやる。そのあとは俺のレース練習に付き合え!」
「え?」
◇
ルンルンと私は歩いていた。
「なんだ、急にほくほく顔になりやがって」
「だってだって」
私がやりたいことって言ったらこれだもの!
トレジャーハント!!
「女の子なのに、こういうのが好きなのか?」
「もちろん!」
一人じゃ危ないって言われてたけど、ちょうど強そうな、しかも腕輪を盗ってしまった罪悪感からの言うこと聞いてくれそうな下僕(おっと言い直そう)相棒が出来たんだもの。
「まあ」
チラリと手を見てしまう。これが無ければなぁ。
――手を繋ぐ!!
しかもこれ、がっちりもがっちり恋人繋ぎってヤツじゃないですかー! この人、わかってやってるの? 知らないで?
「戦闘になった時は手を自由にして下さいよ?」
「ん、わかった」
おてて繋いで、モンスターと戦うなんて出来ないもの。
「よーし、目指すは伝説になるようなトレジャーハンターの中の最上級ハンター。そうハンターキングよ!」
私がびしりと空いている方の手で空を指さすと、呆れたような顔をしたアルテが自分の頭をポリポリとかいていた。
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