閑話 リースの行動に対する商家の反応

  

「オージェ! あれは何をしているんだ!?」


 リースが何かをしているという話を聞いたのか父さんが俺の部屋に怒鳴り込んで来た。ただ、そんなことを言われても俺もリースが何をしているのかなんて把握していないから、答えを出せる訳ではないんだ。


 それにフィラジア子爵家にも確認を取ってみたのだが、婚約の際にフィラジア子爵家とリースの縁は切っているのだから、リースに関係する問題には一切の関与することはないと切り捨てられているのも痛い。これのせいで貴族関係の情報が殆ど入って来なくなったのだ。


「俺も知らないんだ。そもそも、ここに帰って来ていないのだから話を聞くことが出来ないし、俺も報告を聞いただけなんだ。わかる訳ないだろう!」

「そんなの知るか! あれはお前の婚約者だろう。だったら何をしているかくらいは把握しておけ!」


 理不尽な。帰ってこない上に連絡もつかないリースの行動をどうやって把握すればいいんだよ。それに俺だってゼペア商会の仕事をしているから、一々リースの行動を見張るような余裕はないんだ。


「無理な事を言わないでくれよ。連絡もつかない相手にどうしろと」

「強引にでも連れ戻せばいいだろう! 居場所は分かっているんだ」


 すでに今リースが居る場所は調査結果からわかっている。しかし、その場所が少しどころではなく厄介なんだ。


「そうだけど、リースが居るのってデスファ侯爵の屋敷なんだ。うちの力じゃあ、取次すらできないし、屋敷に近付けば追い返される! それに最悪、近付いただけで殺されかねない貴族じゃないか」

「誰でもいいから手紙なり何なり連絡が付くような物を持たせて送り込めばいいだろう! なんでそんなことも思いつかないんだ!?」


 父さんは簡単な事のように言うけど、その雇った誰かがしっかり連絡を取ってくれるとは限らないし、俺たちと同じように門前払いされてしまえば意味はないだろう。父さんはそのことに思い至っていないのか?


 仕方ないがこのまま父さんと言い合いをしていても平行線だ。父さんの提案に載って、適当な者を連絡員として雇ってデスファ侯爵家の屋敷に行ってもらおう。




 リースと連絡を取るためにデスファ侯爵家の屋敷へ手紙を持たせた連絡員を送った翌日。

 ゼペア商会へデスファ侯爵家から俺当てに荷物が届いた。どうやら無事連絡が付いたのだと安堵したが、送られて来た物が少々不穏だ。

 送られてきた荷物は片手で持つことの出来るやや小さめの箱ではあるが、手紙のやり取りに使うには大き目の箱だ。


 それに、あれから雇った連絡員が戻って来ていないので、正直嫌な予感しかしない。しかし、返答として荷物が送られてきたのだから、確認しない訳にもいかない。


 先に俺に付いている補佐に箱の中身を確認させる。箱の中身を確認した補佐は顔を顰めた跡、すぐに箱の中から視線を外した。


 補佐の反応からして予想通りだったようだ。デスファ侯爵は裏家業に繋がっていると言われている貴族だ。しかも、この国の法律を掻い潜り、禁止薬物の取引や人身売買などを行っているという噂まである。

 当然、関わっていた人物がいつの間にか居なくなっていたというのも多い。はっきり言って関わりたくはないし、多少後ろ暗い事をしている事を自覚のあるゼペア商会としても関わってはならない存在だ。


 補佐が箱をこちらに差し出して来ているので、渋々受け取り中を確認する。


 箱の中身を確認した瞬間、俺は息を呑んだ。箱の中には1通の手紙と、誰の物かはわからないが切り捨てられたと思われる1本の指が入っていたのだ。

 想定していなかった訳ではない。こうなる可能性があったから、父さんは他の奴を雇えと言ったのだし、俺もそうしたのだから。


 箱の中から手紙だけを取り出しすぐに蓋を閉める。


 あの連絡員がどうなったかはわからない。あの指があの者の物だとは断言できないのだ。しかし、なんとなくそうなのだろうという確証はある。

 申し訳ないが、こうなる事を想定してやや高めの料金を先払いにしたのだ。


 気を落ち着かせながら手紙の内容を確認する。

 手紙に書かれていたのは、おそらくリースの字で『私に貢いでくれない貴方の元には帰りたくはない。でも、こうやって連絡を取りに来てくれたのだから、その内1回だけは出向いて上げる』というものだった。


 リースの頭の中はどうなっているのか。知り合いだからと言って婚約している者がいるというのに他の家に居座るなんて普通の考えでは出来ないだろう。

 それに、リースは俺の手紙を届けた者については何とも思っていないのか?


 この手紙から伝わってくるリースの不気味さに、今まで感じたことのない程の不安と恐怖が俺にのしかかってきたのを感じた。

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