リースの不審な行動

 

 アグルス様から本格的に教育を始めることを言われてから10日ほどが経過しました。


 本格的に教育が始まった、とは言っても今までの勉強の量が倍になったという事はありませんでした。その代わり、内容が濃くなりました。


 私は勉強量が増えると思っていたのですけれど、教育をしていただいている先生によると短期間に無理やり詰め込んでも、一度に覚えられる量には限界があり、それは人によって違うとの事。確かにその通りなので納得できます。

 さらに、どうやら本格的に教育を始める前までの期間で、私がどの程度の教育が望ましいかを測っていたようです。

 多数の学生を同時に教えている学院の教師は仕方がないとしても、フィラジア子爵家に付いている教師はこのような事をしてはくれなかったので、ナルアス辺境伯家に仕えている教師の質はかなり高いのだと思います。


 先日、夜会などに着ていくドレスを誂えるための採寸をして、どのようなデザインにするかもその際に決めましたのでしばらくすればこちらに届くでしょう。


 私としてはすぐに着る訳ではないので2、3着で良いと思っていたのですが、デザインを決めている最中にアグルス様が参られまして、その際にいくつか私のドレスのデザインを指定してきました。

 アグルス様が指定したデザイン自体は細かいところまでの物ではなかったのですが、結果的に予定していた数の倍ほどのドレスを誂えることになりました。



 夕食が終わり、寝室で就寝の準備をしているところでアグルス様が戻って来られました。

 先ほど私と同じように就寝の準備をしていたのですが、執事の方から連絡を受け、それの確認のため外に出ていたのです。


「トーア、ちょっといいか」

「何でしょうか?」


 寝室に入って来て直ぐ私の元に来たという事は、何か私に関係する事でも起きたのでしょう。もしかしたら夜会の話しかもしれません。アグルス様はすべて断ると言っていただけましたが、アグルス様でも断れない話もあると思うのです。


「フィラジア子爵家から連絡が来た」

「このような時間に、ですか?」


 夜会の話ではありませんでしたね。ですが、このような時間に連絡をして来るというのはどういう事でしょう? 就寝するような時間に連絡を寄こすのはあまりいい事ではないのですけれど。


「内容から早急に知らせた方が良いと判断したのだろう」

「そうですか」


 まあ、そうですよね。爵位を頂いているとはいえ商家として活動しているので、お父様たちはその辺りの良し悪しはしっかり判断できるでしょうし。


 今思えば、ゼペア商会はどの時間帯でも悪びれる様子もなく連絡をして来るところでしたね。同格や平民相手ならそれでもいいでしょうけど、貴族相手となれば問題しかありませんね。商人基準として時間は有限、という考えからの行動でしょうけれど、貴族との付き合いを考えればマナー違反です。


「それで、連絡の内容は何だったのでしょうか?」

「ああ、どうやら君の妹だったリースが不審な行動を取っているようだ」

「不審な行動……ですか」

「ああ。学院に通っているとはいえ、これまで嫁ぎ先の商会に毎日帰って来ていたのが、最近は帰って来る頻度が減ったらしい。フィラジア家としては既に関係を切っているので問題はないとの話だが、いくらか後ろ暗い家の者と一緒に居たという噂や証拠が出ているため、警戒をお願いしたい、という内容だった」

「それは……」


 フィラジア子爵家に居る時から、リースはフィラジア子爵家に関与しない貴族との付き合いがあるようでしたから、それに関係する事でしょうか。ですが、このように連絡をして来る、という事は今まで把握していなかった部分に関する事なのでしょう。


「ゼペア商会、リースが嫁いだ先の商会はこの事を把握しているのでしょうか?」

「むしろ、この連絡の発端はそこからの連絡だったらしい」


 ああ、リースが帰ってこないので実家に戻っているかもしれないと判断したのですね。

 しかし、フィラジア子爵家もそれを把握していなかった。いえ、既に縁を切っていたため様子を伺っていなかったのでしょう。それでその連絡を受けて、最悪の事態を想定して調べた結果、リースの不審な行動を把握したといったところでしょうか。


「何か被害や影響が出る前に連絡をという事なのですね」

「そうだな。一緒に居たと言われている者も良い噂を聞かない者だ。とりあえず警戒しておくに越したことはないだろう」

「ええ」


 あの子は見ていないと何をするか分かりませんからね。警戒は十分しなければなりません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る